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山形県 朝日連峰 八久和川(出谷川)

 1999.07.24(土)〜26(月)

 「根がかりクラブ」  川上氏、斉藤氏、向井氏、曽野部氏
 丸山カメラマン、伊藤氏
 「渓道楽」  田辺、高野

      



Text&Photo :高野 智 

えっ、八久和? 俺も行きます〜。

 皆さん、朝日連峰八久和川と聞いて何を想像しますか。険谷、呂滝、大物、ウジャウジャ・・・等といったところでしょうか。そこに行けば尺岩魚なんてあたりまえ、40cmオーバーさえも夢じゃない所です。しかし、ダムからの遡行は距離と難易度から2〜3日はかかる渓としても知られています。とても私のような平凡な釣り師には行くチャンスなど無いと思っていました。ところがまだ梅雨の開けきらないある日、渓道楽会長の店「かじか」に行ったことから、夢の八久和行きが実現したのでした。このとき聞いた話では川上顧問の足で6時間位ということだったので、私たちの足でも10時間かければ行けるだろうと甘く考えたのがいけませんでした。実際に行ってみたら、とんでもなく辛い歩きを強いられることになったのであります。

憧れの八久和へ

 今回は私たち渓道楽が、雑誌「渓流」の取材(主役はもちろん根がかりクラブです)にお供させてもらう形となった。50cmオーバーを釣り上げれば、「渓流」に写真位載せてもらえるかもと、まったく身の程知らずでズーズーしい私であった。

 川上顧問の家を0時頃に出発し、交代で運転しながら大井沢の登山道登り口に4時すぎに到着。今回のコースはここから天狗角力取山の山頂まで登り、そこからさらに登山道を下って藪漕ぎののちウシ沢に出て、八久和を目指すというコース。とにかく山頂までは辛いが下りになればなんとかなるだろうと思い、ザックをかついで出発した。
 それにしても20kgのザックは重い。源流をやる方々にとっては20kg位当たり前なのだろうが、担ぎなれない私にとってはキツい。こんなんでホントに行けるのかいな?

 やがて登山道は森の中の道となり、そこから急激に高度を稼いでいく。最初の水場に着く頃にはだいぶ調子がよくなり「これなら行けそうじゃん」などと甘い考えが頭をよぎる。しかしそこからも先は長いのだ。私ごとき素人が余裕で行けるほど八久和は甘くはなかったのだ。

 途中でへばっていると後ろから鈴の音が近づいてくる。なんとそれは根がかりの面々と丸山カメラマン。去年の桧山沢でお世話になった斉藤さんと向井さんの顔も見える。しばしの談笑の後、先に行ってもらった。彼らは私たちより2時間後に出てきているのに登りで追いつかれるなんて・・・。私たち(除く川上さん)がいかに遅いかが皆さんにもお判りでしょう。

 そんなペースで尾根に出るといくらか道が平坦になり、ブナの梢を気持ちいい風が吹き抜けていく。そこから見える山の谷間には雪渓が残り、緑と白のコントラストが実に美しい。
 素晴らしい見晴らしに感動しながら、ようやく天狗角力取山の山頂に到着。しかし、身の程知らずの私に天狗様がお怒りになったのか、今まで晴れていたのが急に雨が降ってきた。思うにこれは「お前はここであきらめろ」という天狗様の警告だったのかもしれない。しかし、馬鹿な私は大岩魚のことしか頭になく、水が流れて溝のようになった登山道を下っていったのであった。

 しばらく歩いてようやく昼飯にありつけた。昼飯はスパゲッティー。これにツナマヨをかけて食べると旨いのなんの。しかし、ここまででかなりへばっている伊藤さんは口数も減り元気がない様子。しかし、ここまで来たからには行かねばならぬ。大岩魚が俺たちを待っているのだと励まし先を急ぐ。が、3級程度の渓とはいえ、経験の浅い伊藤さんにはきついらしく、「これじゃ、もう死にますよ」と若干ビビリが入っている様子。最初は余裕があった私も、1時間を過ぎたあたりから足に力が入らなくなり、ちょっとした段差も尻をついてからでないと降りられなくなってしまった。「こりゃ、マジでヤバいよ。暗くなる前にテン場に着かなくちゃ。」と必死に下降を続ける。「この程度の沢、元気だったらなんともないのに。」と思うが、ザックを背負っている体は思うように動いてくれない。しかし、ここでは誰も助けてくれない、自分の力だけで行くしかないと言い聞かせて、なんとか八久和出会いにたどり着いた。私と伊藤さんが遅れているので、ナベちゃんには先に行ってもらい、川上さん に迷惑をかけながら進む。途中の淵で巻くか水の中を行くか迷ったが、川上さんが「腹ぐらいだろ」というのでヘツリながら突破する。伊藤さんは高巻いたのだが、なかなか降りて来ない。そのうち来たと思ったら、背中の65リットルのザックが、ディパックに変わっていた。

 やっとテン場の煙が見えたときは「もうこれで歩かなくて済むんだ」と大岩魚のことなど、これぽっちも頭にはなくなっていた。ここまでなんと14時間! 斉藤さんが「記録だよ、そりゃ〜。」と呆れた顔をしていた・・・。斉藤さん、向井さん、曽野部さん、丸山さんの4名はここまで8時間位で来ているっていうのにねえ。

魚止めに向けて

 昨日、あれだけ寝不足で疲れていたのに、4時半頃に目が覚めてしまった。今日は呂滝を越えて、八久和の3つの魚止めを目指す予定である。しかし、川上さんは朝から呑んだくれて、なかなか出ようとしない。「はやく行こうよ〜、川上さん。」 川上さんが重い腰をあげたのは10時を回った頃であった。

 テン場から呂滝までは直ぐである。写真で見たり話には聞いていたが、呂滝の釜のデカイこと。「とても探りきれるものじゃないな。」と思いながら呂滝を右岸から巻いて上流に出る。ここで帰りが心配でしょうがない伊藤さんは引き返してしまった。せっかく来たのにもったいないなぁ。
呂滝

 呂滝の上に出た私たちは快調に釣り上がっていく。所々巻きやヘツリがあるが、険谷八久和もここまでくると穏やかな表情を見せる。右岸から滝となって支流が入ってくるところで、ナベちゃんに最初の一尾が来た。もちろん尺上だ。ここはその滝を登って支流に入り、そこから巻いて本流に戻り、大場所の拾い釣りをしながら魚止めを目指した。

 その後も落ち込みの中から尺上が顔を出してくれ、私たちを楽しませてくれる。ちょうど昼時となったので、川上さんから「刺し身釣って来いよ。」と指令が出る。ちょうどその時私にアタリがきていたので、白アワの中から尺物を抜いた。「よし、刺し身だ」と川上さんとナベちゃんが行こうとした時、ハリスが切れて刺し身が流れに帰ってしまった。「なんだよ〜。」と皆ガッカリ。じゃ、今度は俺の番だとナベちゃんが上流の浅瀬に竿を出す。「川上さん、9寸位のが旨いですよね。」と言ってるそばから竿が曲がる。しかし、釣れたのは34cm!なんだか全部同じサイズである。里川だったら34cmが釣れれば大喜びなのだが、ここでは「またか!」という感じだ。さすが八久和である。

 で、そいつを3枚におろして刺し身にして、茹でたそうめんをつるつるっと食べる。やっぱり源流は最高だね。
刺し身にはちょっと大きいけど・・・ 熊のようなナベちゃんに剥かれる岩魚
さっきまで泳いでいたのに、あっと言う間に刺し身に・・・ キープした2尾の34cm岩魚


魚止めの主は?

 その後ペースを上げて、まずは西又の魚止めに到着。川上さんによると西又には3つ魚止めがあり、ここは一番手前らしい。しかし、ここは留守だった。
西又の魚止め

 このあたりから川上さんもテンカラを振りだす。やっと朝酒が抜けたのだろうか、先頭に立って毛ばりを飛ばしていく。次は中又の魚止めだ。 ここは先程よりも魚止めという感じがする滝である。奥の釜に竿を出すがここでもアタリはなし・・・。みんなどこに行ってしまったのだろうか。せっかく魚止めまで来たのだから、40cmとは言わないが、尺2寸位は顔を出してもらいたいもんだ。残りは東又だけとなってしまった。
やっと酒が抜けてテンカラを振る川上さん 中又の魚止めを攻める

 東又の魚止めは水深が浅く、あまり期待出来そうにない感じ。でも、ここで釣りは終わりなのでしかたがない。ドバを付け直して滝の落ち口に放り込んだ。すると目印がビュッっと動いた。今日は結構食いが浅いことが多かったので、糸を送り込む。しかし、これが失敗だった。仕掛けが底の流木にからんでしまい、THE END! からんだ仕掛けにまだ掛かっているかと外してみたが、主は仕掛けを切って逃げたあとだった。でも、別に悔しい気がしないのはなぜだろう。川上さんやナベさんと顔を見合わせても笑いがこぼれるだけである。
東又の魚止め さすがの八久和の流れも、ここでは小さな沢となる。

 テン場に戻ると斉藤さんが40cmオーバーを上げていた。天然物でここまで大きいのは初めて見るが、スッゲ〜としか言葉が出て来ない。こりゃ見事な岩魚だ。ただ残念なのは居つきの岩魚でないことだった。下流のダム湖からの遡上物らしい。これが呂滝で釣れた居つきの奴だったら、丸山さんも大喜びだったのだろうけど。が、あとで丸山さんに聞いたのだが、呂滝の釜に60cmはありそうな大岩魚が泳いでいたという。結構浅い所にいたらしいが、そんなすごいのがいるなんて、さすが八久和。あとで「なんで、そんなのが浅いところにいたのかね」という話になって、「きっと可愛いメス岩魚がいたからからだよ。それで、朝帰りになっちゃたんだろ。」という話になった。やっぱり大岩魚も色気にはかなわないということか。
タフなナベちゃんもさすがに疲れた様子


リベンジだ〜

 結局夢の40オーバーは自分では釣り上げることは出来なかった。小鱒滝と呂滝をじっくり釣れば、もしかしたら釣れたかもしれないと思うと残念でならない。それもこれも自分に体力が無いのが全ての原因である。「こうなったらリベンジしかない。もっと体力をつけてもう一度ここに戻ってくるぞ。」そう心に誓い、後ろ髪を引かれる思いでテン場を後にした。
お世話になった方々 左より、根がかりの斉藤さん、向井さん、丸山カメラマン 若さと根性で八久和を征した伊藤さん
根がかりの曽野部さんと川上さん 八久和本流方面を望む


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