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山形県 鼠ケ関川 温海川

2000.04.08〜09
岩田会長、渡辺副会長、川上顧問、田辺哲、中村敏之、永田信明、
瀬谷進一、伊藤智博、松井隆明、村川幸二、高野智








Text&Photo :高野 智 

 車窓から見える日本海は、まったく私のイメージどおりの姿をしていた。空はどんよりとした鉛色、海は波が高く荒涼としている。
 つい先ほどまで降っていた雨は止んだが、まだ春の日差しはかけらも見えない。そんな景色の中に見える生き物はカモメだけである。

 今回の釣行は11人という大所帯。車3台に分乗して山形県の日本海側に注ぐ河川を釣り歩くつもりである。あらかじめ入る河川は決めてあるので、夕方に温海温泉に集合する予定になっていた。
 私は川上顧問、田辺氏ことナベちゃん、一番若手の伊藤君と一緒。そういやこのメンバーは去年の八久和と同じじゃないか。これはなにかの因縁だろうか・・・。

 ガソリンを給油して国道沿いのドライブインにて朝食を取った我々は、それぞれの車で予定の河川に向かうべくハンドルを切った。

 新潟方面から行くと最初に鼠ケ関川を渡る。道路沿いには民家が狭い平地に寄り添うように建っている。このあたりは山が海岸線に迫っているので、東北の寒村といったイメージそのものだ。鉛色の空と海がさらにその雰囲気を助長していた。

 鼠ケ関川の次が我々の目指す小国川である。国道から川沿いの道に入ると右手に小国川の流れが見えてくる。先ほどまで降っていた雨の影響だろうか、川は雪代であふれ河原がないような状況だった。これは前回の長野のように厳しい釣りになりそうである。

 そんなことを考えながらしばらく走ると堰堤があった。ここは堰堤部長ブッコミのナベちゃんの出番。サンダル履きのまま護岸を下ったナベちゃんが、キヂを付けた仕掛けを振り込む。何度目かに目印が止まり上がってきたのはハヤ・・・。さっそく外道のお出迎えである。

 さっさとそこの堰堤をあきらめて上流を目指す。川上さんはこの辺りを良く知っているらしく、もっと上流に良い場所があるという。

 しかし、行けども行けども護岸が続く。この辺の渓は初めてだが、まさかこんなにも綺麗に護岸されているとは・・・。もっと自然の渓を期待してきたのだが、鉛色の空と同じように私の気持ちも沈んでしまう。
 それでも、来たからには竿を出さずには帰れない。着替えを済ませた我々は護岸の切れ間から渓に降り、竿を出した。

 最初に釣れたのは6寸のヤマメ。もちろん放流物である。ナベちゃんが堰堤で釣ったのだが、そこは1尾しか入っていないようである。次にちょっと下流の落ち込みで私にも6寸ヤマメが来た。どうやらここらは6寸くらいのヤマメだらけのようだった。
 伊藤君も同じような釣果だったので、車で他に移動する。

 川上さんはフキノトウを採るというので、一緒に行動することにして次のポイントに降り立つ。この辺りは人があまり入っていないらしく、釣れそうな感じがする。取り合えず護岸の上から竿を出しながら進むと、緩やかな流れの中から7寸のイワナが顔を出してくれた。やっと出たキープサイズに満足していると、今度はナベちゃんに同サイズが。
 
 そのまま釣りあがっていくと堰堤が出現! 下はタタキになっているが、一段落ちたところには岩が多く入り、何とか魚が付いていそうな雰囲気である。

 まずは手前からブドウ虫を付けた仕掛けを流す。とたんにツンッというアタリが出た。まずは7寸イワナをゲット。次の筋には魚が入っているのが見えた。ゆらゆらとエサを待っているようだ。そこに流すと7寸ヤマメ。
次もいるなと仕掛けを投入すると、思ったとおりに来たのだが、残念ながらバレてしまった。水中で魚が翻るのが見えたが、7寸くらいだろうか。

 ナベちゃんと伊藤君は先に行ってしまったようだが、堰堤で結構粘っていたので、どこまで行ったかのか判らない。もしかしてもう車に戻っているかもなと引き返すことにした。
 いつのまにか太陽が顔を出し、渓は春の日差しに包まれている。それにしても雪の反射がまぶしくて目が痛くなってくるのには参った。
 帰り道でフキノトウを摘みながら車に戻ると、川上さんが寝ていた。他の2人はまだのようなので、もう少しフキノトウを摘んで待つことにした。

 15分ほどでナベちゃんが戻ってきたが、汗だく状態。そんなに暑くないと思うんだけど・・・。天然の防寒着を身に付けている人は違うらしい。そんなことはどうでも良いのだが、なんと私が粘っていた堰堤から上は入れ食いだったとのこと。人の入った跡はなく、7寸くらいのヤマメが随分出たとのこと。あそこで粘ったのが裏目にでてしまった。ちょっと悔しい。

 時間も昼近くなってきたので昼飯にすることにして、次の場所に移動する。地元の人に聞いた場所に行ってみるが、細い道を走っていくと何やらバカ長を履いた人間がバケツを持って用水路みたいなところでうずくまっている。
「何やってるんだろうな」と不信に思いながら車を止め飯を食う。
 そのうちバカ長グループが車に戻ってきた。ナベちゃんが川上さんに「ちょっと聞いてこいよ」言われて行くと、そのグループはまた戻っていってしまった。う〜ん、怪しい(笑) なんとか一人を捕まえて聞き出したところ、山形大学の学生で水生昆虫の何かを調べているらしいが、はっきりとは言わないらしい。ますます怪しい・・・。でも、きっと向こうも「あの怪しいオジサンたちはなんだ?」って感じで思っているんだろうな。

 さて話を釣りにもどそう。
 お次は本流の太い流れである。ただここは非常に風が強く、難しいことこの上ない。テトラの落ち込みには絶対魚が付いているはずだが、あまりの強風にうまく流せない。
 落ち込みはあきらめ岸際のテトラ脇を流す。まずきたのは6寸ヤマメだった。その下のもう少し流れのゆるいところからは、なんとニジマス・・・。そしてさらにハヤ・・・。これじゃダメだと2人ともあきらめた。

 そろそろ小国川のポイントもネタ切れのようなので、温泉旅館のある温海に向かうことにした。時間は3時過ぎなので、もしかしたら誰か来てるかもしれないと思ったのだが、釣りバカの揃った渓道楽、集合時間前に釣りをやめる者は誰もいなかったようだ。
 そのまま旅館を通り過ぎ上流に向かう釣りバカたち。本流で竿を出すことにしたのだが、小国川とは比較にならない水量で、落ちればお陀仏って流れだった。

本流を釣る川上さん
本流を釣る川上さん こんな姿は滅多に見られない

 ナベちゃんは当然大場所狙い。しばらく見ていたのだが、大物はいないようである。これは後で知ったのだが、実はそのポイントは渓道楽一の釣りバカである瀬谷さんにやられたあとだったらしい。瀬谷さんはそこで泣き尺ヤマメを出していたというから驚きである。去年まではバラシの瀬谷と呼ばれていたのだが、今年は去年の50日以上という釣行で腕を上げたらしく、確実に魚を釣り上げている。去年のシーズン終わりには尺一寸ヤマメと尺ニ寸イワナを立て続けに上げ、みんなの羨望の眼差しを浴びている。もうバラシの瀬谷などとは呼べなくなってしまったようで、ちょっと寂しい。

 珍しい川上さんの本流釣りを見学したが、結局、釣果としては川上さんの7寸イワナ2尾だけがめぼしいだけ。本日はこれにて終了。あとは旅館で温泉と晩飯だ。

さて、ここまでは私たち4人の話であるが、渡辺副会長、中村氏、瀬谷氏のほうはどうだったのだろうか・・・。

--- ここより中村敏之 ---

 皆と別れて我々(瀬谷、渡辺、中村)は鼠ヶ関川上流へ向かう。だが期待に反して、どこまで行っても直線化工事の手が入り、渓相は変化に乏しく釣欲をそそる場所は見当たらない。
 所々に大物が潜んでいそうな堰堤の淵があるので車を止めて見てみるが、雪代が入り水量が多すぎて釣りをするにはかなり厳しそうなので、さらに上流へ向かう。
 いいかげん車で走るのにも飽きが来た頃、「まあ、ここなら何とか。」と言えそうな所があったので、そこで竿を出すことにした。私にはどうにも釣れる気がしないが、それでも少し期待して竿を出す。だがやはり誰の竿にも全く当たりも無く、まるで魚の気配は感じられない。結局ここは止めようと言う事になり更に上流へ向かうが、数百メートルばかり走ったところで突然スノーロードになってしまった。見たところ1mも積もっているだろうか?当然これでは車では走れない。
 あえなく鼠ヶ関川敗退決定となってしまった。

雪代渦巻く鼠ケ関川
雪代渦巻く鼠ケ関川
雷山を望む
雷(いかづち)山を望む

 さて、鼠ヶ関川がダメとなると他へ回る訳だが、我々はこの辺りは不案内なのでどこが良いのか見当がつきにくい。仕方が無いので一旦国道7号線に出て、温海川、五十川等を見て回る事にした。
 国道7号線まで出ると先程は薄暗くて見えなかった日本海が目の前に大きく広がる。風が強めに吹いているからだろうか、日本海の荒波が岩を激しく噛んでいる。瀬谷さんはしきりに「カモメはいいなぁ。楽チンそうだなぁ。」と羨ましがっている。そう言えば風に乗って羽を広げたままで、スイ〜スイ〜と気持ち良さそうに飛んでいる。

 カモメと戯れながらの快適な海岸線ドライブの後、日本海に別れを告げて五十川沿いの道にハンドルを切る。しかし五十川も鼠ヶ関川と同じく人の手がバリバリに入っており、川に沿った道から見る限り竿を出したくなるようなポイントは見当たらない。

 ここに来て瀬谷さんが「以前この辺りに来た時に目を付けていた所がある。」と言い出したので、そちらに行ってみることにした。
 瀬谷さんの指示に従い車を進めるが、時間が時間なので「先行者がいなければ良いのだが…。」と不安になってくる。ようやく現場に到着。瀬谷さん推薦の場所だけあって、いかにも大物がいそうな大場所である。釣り人の姿も見当たらず、我々の貸切状態だったので早速竿を出す。
 今度は当たりはある。が、鉤には掛からない。「う〜ん、渋いなぁ。」と思いつつちょっとずつ筋を変えながら流していると、大きな声が聞こえた。「ん?」とそちらを見ると瀬谷さんがニコニコしながら大きな魚をブラ下げている。「いやぁ〜やっぱりいたよー。」と瀬谷さん。一回だけとは言えこの場所を前に見ているのでポイントが分かっていたのである。
 大物がいることが分かって更に気合を入れて釣り始めたところで、ルアーマンがやって来てあちらこちらにルアーを飛ばし始めた。「おいおい俺達が先に来てやっているんだから少しは遠慮しろよ。」と思ったが、彼等は無心にルアーをキャスティングしている。我々だけで場所を独占しようとは思わない(ホントはしたいけど)が、人がやっている目の前にまでルアーを飛ばすのは止めて貰いたいものだ。

 ルアーマンが荒らしてくれたお陰ですっかり当たりも遠のき、腹も減ったのでメシを食って移動することにした。今度は思い切って、新潟県の山北町まで足を伸ばすことにする。
 山北町周辺は去年会長と来たので、その時の記憶を便りに車を進めるが目的地の手前で迷ってしまった。公道だと思って走っていると、人の家の庭で行き止まりだったりする。散々迷った後、ようやく雪に埋まった林道を発見。もちろん車では入って行けないので歩きで入渓する。
 渓に入ってみると雪代で水量がかなり多く遡行が厳しそうだ。健さんは流れの強さに恐れをなし「車に戻って寝る。」と言い出した。私と瀬谷さんは健さんを引き止めたものの、健さんの決意は固く車に戻ってしまった。(実はこっそり一人で下流を釣ったらしい。)
 ここは最近の入渓者の痕跡も無く、誰にも邪魔されずに快適に釣りが出来る。とは言っても水温が低く中々厳しいものがある。更に流れの強さと川岸からせり出した雪庇が行く手を阻む。
 「これは!」と言うポイントに交互に竿を出しながら釣り上がって行くが、期待した程の型の渓魚は出ない。やはり時期が早すぎるようだ。

ヤマメ

 どれほど釣り上がったのだろうか、日もだいぶ傾いたので「そろそろ納竿にしよう。」と瀬谷さんに声を掛ける。瀬谷さんが道具を仕舞っている間、川面を眺めていると雪の固まりが流れていくのが見えた。「おや?」と思ったところで瀬谷さんが道具を仕舞ってこちらに来たので、「じゃ帰りましょう。」と流れに目をやると、驚いたことに今の今まで澄んだ流れだったのに、一瞬で流れが黒くなっている。どうやら規模の小さい鉄砲水が発生したようだ。雪で出来たダムでも決壊したのであろう。増水量は僅かだが、元々かなり増水していたので押しが更に強烈になり、来る時にやっとの思いで徒渉したところは自力では渡れなくなってしまった。情けないが瀬谷さんに手を引っ張って貰ってようやく渡り、少し下ったところで強引に雪面をよじ登って渓から脱出する。偶々すぐに林道に出られる場所だったのは幸運であった。

--- ここから高野智 ---

 どうやら最も良い思いをしたのは瀬谷氏だったようである。今年は瀬谷さんの年になるのだろうか・・・。


 さて温泉のあとは夕食、宴会のお決まりコース。川上さんが渡辺副会長(健さん)の文章が上手いなどと誉めたもんだから、もうご機嫌! へべれけになるまで飲んでいたとか・・・。健さん糖尿で入院したばかりなんだから、そんなに飲んじゃダメでしょうが。

 宿代を値切ったわりには豪華な晩飯を食べ部屋に戻った後、何時の間にか深い眠りについていた。


 朝は7時に目覚めた。すでに温泉に入った人、朝市を見に行ってきた人とみんな元気だなぁ。そういや朝釣りにいくと言っていた2名はどうだったかと聞いてみると「朝市を見に行ってきた」だって。結局誰も釣りには出なかったらしい。

温海温泉の朝市
温海温泉の朝市
朝市を覗く川上さん
朝市を覗く川上さん

 さて、川上さん率いる私たちグループはテンプラを合言葉に釣りを始める。最初に入ったのは、これまた護岸された里の川。しかし、昨日と比べるとかなり雪代は落ち着いている。天気も良く汗ばむくらいの陽気である。

 まずはナベちゃんと私で護岸の上から竿を出した。ここはいくつも堰堤があり、その下は絶好のポイントとなっている。
 あまり時間も無いので、2人とも堰堤以外のポイントは飛ばして釣ることにした。

 最初の堰堤で私に7寸イワナが出た。もちろんヒレの丸い放流物だ。次にナベちゃんにも7寸強のイワナ。
 川の両脇は田んぼが広がり、のんびりとした里の川そのものと言った雰囲気が広がる。昔はこんな風景が日本中にあったのだろうが、現在では地方に行かないと出会うことは出来なくなってしまった。

いかにもというポイントからは8寸イワナが上がる
いかにもというポイントからは8寸イワナが上がる

 もう一尾7寸を追加した私は粘るナベちゃんを置いて集落の中に足を踏み入れた。川上さんたちは橋のところで待ってると言っていたが、いくつも橋があり、どれだか判らない。橋の近くに車が止まっていないかキョロキョロしながらも渓のポイントは見逃さない。右岸に落ち込みがあり岩の下がえぐれた一級ポイントが目に付いた。すかさず、巻き返しにエサを入れると明確なアタリ。釣れたのは放流物だが8寸の良型イワナ。取り合えず写真に収めているとナベちゃんが追いついてきた。
 「さっき高野さんが釣ってた堰堤に尺くらいのが泳いでいたよ」と言われショックを受ける。アプローチに失敗して追い込んでしまったようである。

 二人で車に着いたがあとのニ人の姿はない。そこの橋から上は良い渓相になっているので、伊藤君がここから釣りあがったのだろう。戻るまで橋の下に竿を出してみる。

 するとナベちゃんに8寸イワナが掛かった。なんともお手軽な釣りだなぁ。ウェーダーも無し、おまけにサンダル履き・・・。まわりはのどかな村の風景。春の日差しの中で昼寝でもしたくなるようなひと時だった。

 しばらくすると川上さんが戻ってきた。「今度は尺くらいのをバラシてんだよ」と残念そうなんだか嬉しそうなんだか判らない笑顔で説明してくれた。昨日も伊藤君は9寸くらいのをバラシているからなぁ。
 結局伊藤君は、尺をバラシた時に足を滑らし竿まで折ってしまったらしい、とことんツイてない伊藤君であった。

 さあ、時間も昼になることだしテンプラである。さすがに集落でテンプラを始めるわけにはいかないので、別の場所に移動した。
 
 テンプラ用の魚を釣ることが出来て、もっと静かな人の来ないところに移った我々は、私と伊藤君が魚を釣って、川上さんとナベちゃんがテンプラの準備。
 ところが「ここは小さいのが入れ食いだよ」という川上さんの言葉とは裏腹にまったくアタリが無い。魚の影を見ることも無くテンプラの現場に着いてしまった。そこでは既にテンプラが始まっており、急いで私も仲間に加わった。
 そこでフキノトウとニワトコのテンプラを堪能し、最後にヤマメをぶつ切りにして二度揚げする。全てが4人の腹の中に納まったところで、今回の釣りはお開きとなった。

天ぷら1 天ぷら2

 初めて訪れた山形の日本海沿岸渓流だが、あまりにも完璧な護岸に少々ガッカリきたのが本音である。魚はそこそこ釣れるのだが、もっと自然を残した河川改修が行われることを願ってやまない。


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