4月19日の午前中、仕事をしていると田辺さんより電話が入った。「今度の土日、ポコッと空いちゃったんですけど、泊りでどっか行きません?」「ん〜、いいっすね〜。」「んじゃ、詳しいことは今晩『かじか』で相談しましょう。」と言う事でその日の夜『かじか』に行くことにする。
8時半頃『かじか』に行ってみると田辺さんは仕事が忙しいらしくまだ来ていなかったので、会長を相手に暫し雑談する。「会長、今度の土日、田辺さんと泊りで行くんですけど、どっかいい所知りません?」「まだ、どこも早いんじゃないかぁ。」「そーですよねぇ。」「ふふ〜ん。実はいい所あるんだけど、そこに行くなら一緒に行ってやってもいいぞ。」と言いつつ会長が取り出したのは鳴子・鬼首温泉の地図。「ここは、今年の会の最終釣行に使えないかと思って、密かに目を付けていたんだ。」確かに会長が言う通り、本流の荒雄川にかなりの数の支流が入っている。十数人で行って釣るとなると、沢割が楽なのでこういう所は重宝する。温泉がすぐ近くにある、と言うのもポイントが高い。「中々良さそうですね。で会長はここで釣ったことはあるんですか?」「いや、それが無いんだよ。だから行ってみたいんだけどね。ただ、以前この辺を車で通ったことがあって、その時見た限りでは結構釣れそうだったぞ。」「ほほー。」
話が盛り上がって来た所で田辺さんが到着、田辺さんを交え鳴子・鬼首の再検討を行う。宮城県と聞いて難色を示した田辺さんだったが、会長が推薦するのだからと納得し、会長、田辺さん、私の3人で最終釣行の下見を兼ねて鳴子・鬼首温泉へ行くことになった。
21日仕事を終えて家で荷造りをしていると再び田辺さんから電話が入る。「会長行けなくなったんだって。」「ぬわぁにぃー!」「何でも急に仕事を頼まれたらしいよ。」「あらまあ…。」「そういう訳で行くのは結局我々二人ってことです。瀬谷さんも『かじか』に顔を出すって言ってますから『かじか』に寄ってから行きましょう。」と言う事で準備を整え田辺さんの家に向かう。
田辺さんをピックアップして『かじか』に行ってみると、ショボイ顔の会長と、同じく疲労感を漂わせた瀬谷さんがいた。今回の釣行も瀬谷さんに声を掛けたのだが、瀬谷さんは最近忙しいらしく土日も仕事と言うことで不参加なのである。
会長:(しんみりと)「気を付けて行って来てな。俺は行けないけど…。」
中村:「かいちょ〜、誰か死んだことにして来れば?」
会長:「いや〜それがさー、今日会社で『釣りに行くんだ』って言ってはしゃいじゃったから、一発でバレちゃうよ。」
田辺:「そんじゃ『会員が遭難したので救出しなくては!』とか言って休めばいいじゃん。」
会長:「カカカ、そりゃいくらなんでもヒドイんじゃないか?」
瀬谷:(突然)「釣りに行けていいなぁ。」
一同:「………!」
と言う事でうらめしそうな二人を後に残して、『かじか』を出発したのであった。
会長と瀬谷さんの呪いなのか、車が那須に差し掛かった辺りからだんだん雨が強くなってきた。天気予報を聞いて覚悟はしていたが、これだけ降られると「釣りどころか入渓すら出来ないんじゃ?」と心配になってくる。そして22日の午前4時頃、ついに鳴子温泉に到着した。だが雨は一向に止む気配はなく調子良く降っている。
取り敢えず鬼首の方には行かず、R47を直進して手近な沢を覗いて見る。と言っても暗くて見えないが…。しかし水が荒れ狂っている音がするので見るまでもなく「こりゃダメだ。」と分かってしまう。「こりゃダメです。鬼首の方に行ってみましょう。」とUターンする。
R47を逆戻りすると、先程は暗くて見えなかった荒雄川が薄ボンヤリと見える。と目に入って来たのは川幅いっぱいに広がるクリーム色の濁流と、水中に大岩でもあるのか障害物にぶつかった水が所々で数m程吹き上げている凄惨な光景であった。正に名前通りの荒くれぶりである。
全く期待しないで鬼首に行くと、やはりこちらの沢も濁流が流れている。「やっぱり駄目ですねぇ。」「峠を越えて山形に行ったらどうだろう?向こうはあまり雨が降らなかったかも。」「やっぱ釣りは山形だっぺ!」と言う事になって急遽山形に転戦することになった。
がしかしこちらも状況は同じでどの川もクリーム色の水が盛大に流れている。2つ3つ沢を見て回ったが、状況はどこも同じ、遂に切れた我々は車の中で朝寝を決め込むのであった。
午前10時頃ようやく起き出した我々は「雨も小降りになったし、いくらか水も引いたんじゃ?」と期待して、もう一度小国川近辺の沢を見て回る。だが期待も虚しく状況は朝と変わらず、どこも濁った水が流れている。「これじゃ今日はダメだな。明日にならないと水は引かないだろう。」「でも明日も雨の予報だよ。」「いいんじゃないの今回は釣りじゃなくてドライブなんだから。」等と田辺さんはヤケになっている。
遂に竿を出すのを諦めた我々は、最終釣行で使う予定の沢を偵察しながら宿に向かうことにした。宿に向かう道すがら、目に付いた沢をチェックしながら車を走らせていると、何とか竿を出せそうな沢を見つけた。水は相変わらず思い切り濁っているが、何とか沢に降りられそうである。そうと決まれば話しは早い、10時間近くもお預けを食わせられた我々である、アッと言う間に着替えを済ませ竿を手にして沢に降り立った。
しかし状況が状況なだけにあまり調子がよろしくない。お互いに数尾の小さな岩魚・山女魚を手にした所で「ま、こんなもんでしょう。」と早々に納竿し、本来の任務である偵察行動を続行することにする。
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濁流を釣る田辺さん |
この程度の岩魚は釣れた |
荒雄川は荒雄岳を反時計周りに取り巻いて流れているが、その右岸から沢山の沢が入っている。最終釣行ではそこを使って釣りをしよう、と言う目論見なのであったが、行ってみてビックリ。どの沢も例外なく護岸されて直線になり、荒雄川との出合いには堰堤が築かれている。「ええ〜、会長こんな所が良いって言ってたの〜?ここに来たのは一体何年前の話なんだ?」「おそらく30年前とかじゃないの?」「そんな前の話をされてもなぁ。」(後で会長に確認した所、この近辺に来たのは15年前だそうです)ともかく最終釣行には使えないと言う事が分かってガックリしながら宿に向かったのであった。
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大分水が落ち着いた夕方の荒雄川。
芦沢の出合い付近 |
期待していた荒雄川の支流群は皆このようになっている。
これは杉の森沢 |
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宿から望む大柴山。
1000m級の山にはまだまだ雪が残っている |
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明けて23日の日曜日、今朝は快晴!とは全然行かないが雨も止んで薄日も差している。「おしっ!今日はいけるぞ!」と気合が入り、素早く朝食を掻き込み早々に宿を発つ。
R108を走っていくと道端で誰かしゃがみ込んで用を足している様子が目に入った。「ん?野良仕事のオッサンが野ぐそでも垂れているのか?」と思ったら、何と70歳程の老婦人。「!!!」見てはいけないものを見てしまった二人は暫し絶句してしまう。しばらくしてショックから立ち直った田辺さんが「わっはは、ちょっとは隠れろよ〜バアチャン!」と大笑い。「でも、恥ずかしそうに振り返った顔が可愛かったよね。」と私。しかしそう言いつつも私は変なものを見たお陰で、今日も駄目なような気がしてズ〜ンと暗くなってしまうのでした。
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最終堰堤の上。
この先に攻略不可能な滝があった |
昨日の内に目を付けておいた沢に着いて支度をしていると、やな予感と言うのは当たるもので雨が落ちてきた。「くっそー、今まで晴れてたのに何で降ってくんだよ〜。」と文句を言いつつ合羽を着込んで、最終堰堤を目指して出発する。
最終堰堤までは1km程だが、途中から雪道になって歩きにくい。いいかげん汗をかいた所でようやく最終堰堤に到着、さらに上に行こうと小さく巻いたところで先行していた田辺さんが手を振りながら戻ってきた。「ダメダメ、この先は行けないよ。小っこい滝があって、そこはとても通れないっすよ。」「えっ!ここまで来て駄目とはそりゃないよ。」と文句を言ってみたものの、どうにもならない。結局スゴスゴと今来た道を引き返すしかなかった。
他の沢へ回っても状況は昨日と同じなのでもはやここまで、潔く釣りは諦めて温泉に入って帰ろう。と言うことになり、東鳴子温泉の2,3の旅館に当たってみると、どこも「今風呂は清掃中なんですよ。」と言って断られてしまう。今回はとことんついていない二人なのでした。 |