「さぁ〜て、今日は会長達と楢俣だ!日帰りとは言え今シーズン初の源流だな。嬉しいな。」とルンルン気分でかじかに行くと、駐車場に川上顧問のパジェロ・イオが停まっている。「あれ?川上さんの車だ。川上さんが車で来るなんて珍しいな。女川には川上さんの車で行くのかな?まだ店にいるのかな?」とちょっと不思議な気分で店に入ると、川上さんたちの姿は既に無く、会長とママが店の後片付けをしながら、釣行の荷物をまとめている。
「おっ中村ちゃん、今日は楢俣止めたからね。」と会長。「えっ!何で?」「いやね。川上さんに楢俣に行くんだ。って言ったら、あそこは人が多いし魚も小さいよ。群馬に行くのなら谷川にすれば?あそこなら人もあまりいないし型もいいよ。って言うんだよ。」「たにかわぁ?どこですかそれ?谷川岳の近くですか?」「そうそう谷川温泉の先だぁ。30年前に行った時はデカイのが沢山釣れたぞぉ。」「そんな前の話をされても…。」「そんでな、その時に釣りのインストラクターやっているって人と知り合ってさ、谷川で大きいのを沢山釣ったんだ。って言ったらその人がしきりに感心してな。谷川でそんなに釣るなんて凄いねぇ、あそこは終わった川なのに…。って言うんだよ。」「何ですと!?30年前に終わっているんじゃ、今行ったら尚更駄目じゃないですか!!」「カカカ、そーかもしれんなぁ。でも川上さんが『釣れる』って言うんだしなあ。」と何やらウヤムヤの内に谷川行きが決まってしまいそうな感じ。そこへ伊藤君が到着、さっそく谷川で良いか聞いてみると「俺はどこでもいいっすよ。」と能天気なお返事。何とも不安な感じが拭えないが、結局それで谷川行きが決まってしまったのでした。
現地に到着して川を見てみると、思っていたよりも水量も多く渓相も中々良い感じで、ホッと一安心である。
会長:「そんじゃ俺とママ、中村ちゃんと伊藤君の2手に分かれて入ろう。我々は下をやるから君達は上をやってくれ給え。エヘンそ〜だな、登山道を50分ぐらい歩いたら釣り始めてくれるかな?」
中村:(50分て言うのは何か中途半端な言い方だな。普通「1時間ぐらい」って言わないかな?まさか、また何か良からぬことを企んでいるんじゃないだろな?)…と思ったものの一応「分かりました。」と答えて伊藤君と連れ立って登山道を歩き出す。
最終堰堤を過ぎ、手付かずの源流部に差し掛かると植林された杉などは姿を消し、広葉樹の姿が目立ってくる。それと共に渓も険しさを増し小滝や深い淵が連続して現れるようになる。関東の日帰り圏内の渓では中々お目に掛かれない素晴らしい渓相だ。
「すごいねー伊藤君、あの淵見なよ。デカイのが居そうじゃない?」「「うわぁ、ありゃ絶対居ますよ。」と次から次へと現れる絶景の好ポイントに目を奪われながらも、早く竿を出したくて足を早めて歩いていると、やがて約束の50分が経過した。
「さて、じゃやらせて貰いますかね。」とワクワクしながら、河原へ楽に降りられる所はどこかいな?と渓に眼をやると何たることでしょう、つい先ほどまであれ程の渓谷美を誇っていた渓はどこへ行ったか、開けた河原を水がさらさら流れている平川があるではありませんか!
(注:登山道からは川が見えたり見えなかったりする。)
中村:「チクショー!また会長に騙された!50分なんて言うから、どーも怪しいと思ってたんだ。」
伊藤:「さっきまでと全然違いますよね。」
中村:「クソー悔しいけど今更しょうがないな。こう言う所でも魚は居るでしょ。頑張って釣ろうじゃない。」
しかし、これは我々の早とちりでちょっと先へ行くと開けたゴーロ帯となり再び渓は険しくなって好ポイントの連続になったのであった。(会長、疑ってごめんなさい。)
さて、ここぞと言う所に次々と竿を入れる我々であったが、どちらの竿にもさっぱり魚が掛からない。それどころかまるでアタリがないのだ。
「おかしい。こんなハズでは…。これだけの渓相で魚が居ないってことは無いよな。水温が低いから隠れて出てこないのか?」と焦るが、渓は沈黙を保ったままである。
暫く巻いたり釣ったりを繰り返していたが全然アタリが無い。いいかげんいやになった頃、伊藤君が待望のアタリを捕らえた!そして小型ながらも見事に岩魚を釣り上げる。
「やったねー、取り敢えず魚は居るってことは分かったね。」
「でも針が魚体に引掛かっただけですから…。」
と言いつつリリースする。
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素晴らしい渓相が続く |
釣れなくても谷川岳を仰ぎ見ながらの釣りは爽快だ |
魚が居ることが分かったので、更に丹念にポイントを探りながら釣り進むが、相変わらずどちらの竿もアタリを捕らえることが出来ない。そして終焉は突然やってきた。
私の前を進んでいた伊藤君が上流を指差しながら何事か叫んでいる。足を速めて伊藤君に追いついた私は愕然とした。あろうことかいきなり雪渓が現れて渓を完全に埋め尽くしている。
「今まで雪なんて全然無かったのに…。」
「何とか行けるかも知れないけど…。ああ駄目だ亀裂が入っている。」
「それじゃ帰りましょうよ。全然釣れないんだもん。」
「そうしようか、車に戻ったら魚が居ないところに連れてきた会長をとっちめてやらなきゃね。」
と不完全燃焼のまま納竿せざるを得なくなってしまった。
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突然現れた雪渓は渓を埋めていた |
車に戻って寝ながら会長を待っていると、ママと連れ立って戻ってきた。
伊藤:「どーでした?」
会長:「だめだ〜、小さいの10匹ぐらいしか釣れなかったよ。それも上の方に行くと全然釣れないのな。渓相は抜群なのになぁ。おかしいよな〜。」
中村:「やっぱり。上はアタリもないですよ。ここは一体どーなってんですか?」
ママ:「そうなのよ、すごく良い所ほど魚が居ないみたいなのよねぇ。」
会長:「川上さんは釣れるって言ったのになぁ。」
中村:「ってことはもしかして、我々はまたガセネタを掴まされたんですか?」
会長:「そーかも知れんなあ。」
会長は「別に釣れなくてもいいよ。どうせ遊びだもん。」と宣っていますが、果たして本心は如何に?大体今日は店に出す岩魚を獲りに来たんじゃなかったでしたっけ? |