HOMEBACK

岩手県 和賀川水系
秋田県 皆瀬川水系

2000.09.15〜17

岩田会長、渡辺副会長、田辺哲、山田義正、瀬谷進一、永田信明、村川幸二、松井隆明、川久保秀幸、奥田秀朗、中村敏之、霜山広志、高野智


Text :高野智 瀬谷進一
Photo:高野智 瀬谷進一
 

北を目指して

 今年もまた禁漁の時期が近づいてきた。渓流釣りを始めてから何度も経験してきているが、いつになっても寂しい気がすることに変わりは無い。

 さて、9月といえば恒例の渓道楽の最終釣行である。今年は岩手県の和賀川が舞台となった。
 ここは昨年の六月に会長他が入渓し、37cmを筆頭に尺岩魚を数尾という経験をした川である。あわよくば今回もと誰もが思っていたのは間違いない。

 和賀川は和賀岳を源として流れ出す北上川の支流。その流れは多くの支流を集めて錦秋湖に注ぎ、広大な田を潤し豊かな稲穂を実らせる。

 和賀川までは渓道楽の活動拠点の「かじか」から東北道をひた走り、およそ6時間ほどだろうか。私たちは3台の車に分乗し、岩槻ICから北を目指して疾走した。
 「かじか」には14日の22:00に集合。私はナベちゃんのジープチェロキーに中村氏とナベちゃんの奥様と4人で乗り込んだ。途中の那須で奥様を別荘(本宅?)に送り届け、再び東北道を突き進む。
他のメンバーは全員が揃うのを待って後から追いかけてくるはずなのだが、この40分の差が4時間差になるとは、このときは予想もしなかった。
 なぜ、我々だけ先に出たかというと、那須に寄るという目的もあったのだが、仙台から来る霜山氏と北上西ICで4:00に待ち合わせる予定だったからである。霜山氏は新入会員。今回初めてお会いするので、待たせては悪いと我々だけが先に出発したのだ。結果的にはこれが大正解。東北道の工事で予定外の渋滞にはハマったが、その後は順調に進みジャスト4:00に北上西ICで落ち合うことができた。他のメンバーはというと工事渋滞を抜けた後、2箇所の事故渋滞で足止めを食い、我々が高速を降りたころは遥か遠くを走っていたのだった。

 釣り場を目前にして心がはやる。遅れている会員達を待っていては何時になるかも分らない。もともと現地では別行動なのだからと、霜山氏のジムニーを従えて和賀源流を目指してアクセルを踏み込んだ。

大物に会いたい

 まず目指したのは上流にある赤沢ダムの下。釣り場案内によると大淵が連続した好渓ということである。渓まで降りるのは落差があり大変らしいが、大岩魚が頭にちらついている私たちには障害とはなりそうもなかった。

 赤沢ダムには明るくなってから到着した。早速仕度を整え入渓点を探す。本流に注ぐ沢伝いに行けばなんとか降りられそうである。4人はヤブを掻き分け沢伝いに下降していき、最後の滑滝をクリアして本流に降り立った。
 ダム下を見ると大きなプールになっていて、いかにも大物が潜んでいそうである。ただ、残念ながら延べ竿では届きそうもない。こういうところが大好きなナベちゃんは早速右岸の流れ出しに竿を出した。するとあっという間に7寸くらいの岩魚を釣り上げる。私は左岸で竿を出したが、残念ながらアタリがなかった。それではと得意の支流の流れ込みに目をつけた。ドバミミズをつけた仕掛けを投入すると明確なアタリ。じっくり待ってあわせると、腹の黄色い綺麗な居付き岩魚のお出迎えだ。
 その下流のぶっつけでは中村氏が7寸岩魚を抜き上げている。だが、私たちが会いたいのはもっと大物。竿を根元から曲げてくれるくらいの奴に会いたい。そのために遥々岩手まで来たのだから・・・。

ダム下の本流を釣る霜山氏
豊かな和賀の流れがそこにあった
本流に出るために下降した沢

 粘るナベちゃんを残して釣り下る。和賀川は支流もそうだが、あまり落差のある渓ではない。どちらかというと瀬が多い渓相である。普段源流の階段状の渓が多い私としては、こういうところは苦手なのだ。要は釣りがヘタくそなのである。それでもなんとかポイントを見つけては餌を投入していく。上流から霜山氏が追いついてきた。霜山氏もでっかいドバをつけてやっている。私が使っているドバの倍くらいありそうだった。仙台産のドバはかなりの上物なのだ。それを深く沈めて探る釣り方で7寸強の岩魚を釣り上げた。
 そのうちナベちゃんも諦めたのか、私たちのいるところまでやってきた。
 「ダメ、ダメ、小さいのしか出ないよ」
尺とは言わないが9寸くらいのが出てくれないと話にならない。この下は大淵になっていて渓通しには下れない。「ダム下ならば大物が」という私たちの目論見は見事に外れてしまった。
 時間はまだたっぷりある。斜面を攀じ登って林道に上がった我々は次の目的地に向かって車を走らせた。

和賀の仙人岩魚 アメマス系の白点が目立つ

瀬畑流テンカラ

 分りづらい道をなんとか見つけ、車は林道を走りつづける。あまり下流ではハヤばかりの和賀水系、できるだけ上流に入らなくては岩魚にはお目にかかれない。やがて2台はブナのそびえ立つ林道脇の広場に駐車した。

天に向けて伸びるブナの大木 支流の岩魚は顔を見せてくれるだろうか
和賀の支流に毛鉤が舞う

 ここは水量こそ少ないが、小さな落ち込みもあり少しは釣れそうであった。だが、この水量と林道沿いという条件では大物は期待できそうに無かった。それでも他に大物が出るような渓は思い浮かばない。「ここでやってみようか」「そうだねぇ〜」どうもイマイチ乗り気でない皆。
 案の定、魚は少ない様子である。でも、ここには少ないながらもブナもあるし、魚の少ないのを除けば気持ちのいい遡行である。

瀬畑流テンカラ三百数十番目の弟子 
ナベちゃん
この日の和賀は暑かったが、
空には秋の気配が・・・
緑豊かな和賀山塊
日差しを浴びながら、ゆっくりと
釣りあがる

 ナベちゃんは瀬畑流テンカラ三百数十人目の弟子だとかで、瀬畑さんに貰ったラインと毛鉤で釣りあがっていく。振らせてもらうと確かに振りやすいのだ。ラインの重さがちょうど良いのだろうか。竿は川上顧問にもらったヘラ竿だとかでペランペランのもの。その柔らかさとラインの重さで毛鉤がスーっと飛んでいく。
 その毛鉤にかわいらしい岩魚が食いついてきた。ナベちゃんニコニコである。なんでもテンカラだと小さい岩魚でも嬉しいんだと。いつまでそう言っていられることやら。大きいのがかかるようになれば、「小さいのはいらないんだよなぁ」とか言い出すことだろう。

岩魚との出会いに笑みがこぼれる
小さくとも立派な野生
和賀の渓は落差が少ない
ポイントを慎重に選び、竿を出す
鏡のように静かな流れ 
テンカラの得意とするところ
姿勢を低くし岩陰を狙う中村氏
水面に緑が映える
苔むした渓を清らかな渓水が滑り落ちていく
この流れが豊かな収穫をもたらす

 やがて林道の通っている渓のお約束、そう堰堤出現である。堰堤手前はある程度の深みがあり、魚も入っているだろう。ここでしばらく粘ることにした4人。めいめいのポジションに陣取って釣りはじめる。堰堤といえば当然ナベちゃんの出番である。ドバをつけた仕掛けがゆっくりと沈んでいくとアタリが出た。「堰堤部長」の名に恥じず、しっかりと9寸、7寸と釣り上げたナベちゃんだった。

 時計を見ると既に昼時。ここで飯にすることにして、ドッカと腰を降ろす。めいめいが弁当やラーメンを引っ張り出し、釣り談義に花が咲く。霜山さんの持ってきた梨をほおばりノンビリと休憩した。
さて、私たちとは別に出発したメンバーたち。果たしてどんな様子だろうか?

副会長チームは?

 渓道楽発足以来、最高実績のある江釣子方面への釣行である。
 総勢13名+1名のため、車3台に分乗することとなる。便宜上、会長チーム、副会長チーム、事務局長チームとし、準備完了したチームより随時江釣子方面へ出発していった。結局、現着一番乗りは、事務局長達。仙台から参加の霜山氏と合流し目的のポイントへ。残りの二チームは、度重なる渋滞(工事、事故×2)で、通常の三時間遅れで到着する。
 もちろん、朝まずめの時間帯はとうに過ぎ去ってしまい、あきらめ半分我々副会長チームは、和賀川支流の上流をめざしばく進するが、はやる気持ちも目前を通過する山々の壮大なる景色、本流の澄んだ水の流れなどにより心が徐々に穏やかになってゆく。
 今回の車は永田二号車であり、腹をスリスリ何とか車止めに到着。
 予想外に谷深く、当地より本流への入渓はあきらめ、山道をさらに登り、入渓点を探すこととした。十五分ほどで高低差がかなりある沢にぶつかる。副会長、川久保氏と私の三人はここを釣り上るが、魚影なし。釣り下がっている奥田氏を追っかける。奥田氏にも当たりなし。
 当沢を下り本流への出合いを目指すが、釜が見えないほど曲がりくねりハングした50m程の滝に遭遇。

50m滝付近にて 川久保氏

 ここは打倒”根がかり”をひそかに狙っている副会長に懸垂下降を依頼するが、残念ながらザイルが足りずキャンセル。噂には聞いていたが、上流はかなり険しいV字渓谷である。しばし足踏みをしていると左岸を高巻いている奥田氏の「いけるいける」の叫び声が聞こえたのも束の間。「やっぱりだめだ〜」。
 時計を見るとお昼近くであり、昼食とした。
 川久保氏は、スリムウェダーを着用しているため、この陽気ではオーバーヒート。半分これをズリ下げパンツ丸見え状態で真剣に飯を食っている姿を激写。
 そういえば、昨年、永田氏はフルチン状態で鷹巣川を汚染していたことをふと思い出した。責任感が人一倍強い奥田氏は、昼食を口にするのも忘れ、腰痛をおして懸命に尾根つたいのUターンルートを探している。さすが鶴ヶ島の源流マン。「イケ−ル!イケール!」とテノール調の美声で我々に訴えかけている。
 それにつられるように、そろそろと重い腰を上げ、奥田氏の軌跡を追う。おかげさまで難なく車止めに到着する。
次なるポイントへ車で移動するが、なんと前方から白いタクシーが砂埃を上げて林道を上ってくるではないか。一同唖然。すれちがいざまに車中を覗き込むが、アベックの登山客が着座している。そういえば、先ほどの車止め手前に登山道入り口の看板があった。
 こんなところまでタクシーが入ってくるなんて意外と感じてしまったが、冷静に考えると至極あたりまえである。最寄駅からここまで歩いてくるだけでも丸一日かかってしまう。”まーそれにしても、こんなところにアベックで、はたしてなにをしにきたのか・・・”などとやましい考えが頭の中をよぎってしまうのは、他の三名もいっしょであろう。
 案内看板のあるところまで戻り、赤い橋より入渓する。
 左岸に10mほどの滝、その上流に4mの滝、悲しいかな我々四名は、ジャンケンで場所割を決行。
 早々に川久保氏は待望の岩魚をゲット。さすがである。川久保氏は、日本一競争率が高い奥多摩で鍛えられている実力を発揮してしまった。
10m滝の上流で奥田氏がチビ岩魚を数匹。残りの二名は相変わらず残念な結果に。

その後の事務局長チームは?

 さて、午後は明日のテン場を探しに行かなければならない。川上顧問に教わった渓を見に行くことにした。私は後部座席で睡魔に襲われ、気が付くと車は目的の渓に入ろうとしていた。
 この渓、先ほどよりは山深いようだが、なにせ水がほとんどない感じ。ズンズン上流に向かって行くが、上流のほうが水量が少ないのは当たりまえ。おまけに釣り人も多く、とても期待できそうもなかった。水量さえあれば・・・。きっとだれもがそう思っただろう。
 そうなるとこれ以上行っても無駄のようであった。我々は車をUターンさせると、今晩の宿「ふるさと体験館」を目指した。

 林道を下っていくと、道路脇の広場に座り込んでいる人が1人・・・。傍らを通り過ぎるときに顔を見ると、会員の松井さんではないか。すぐにバックして声を掛ける。
 「何やってんすか〜、松井さん」
 「いや〜、ハヤばっかでさぁ。待ち合わせ時間にはまだ早いんだけど、嫌になって上がってきちゃったよ」
 「まさか、会長にここがいいよって勧められたとか・・・」
 「そうなんだよ」
 やっぱり・・・。会長のことだから、そんなことだろうと思った。
 「松井さん、自分でどこに入るよって決めないと。会長の話なんて聞いちゃダメですよ。(笑)」
 そんな話をしているうちに、会長達の車がやってきた。
 話を聞くと会長達もハヤ釣りがメインになってしまった模様である。となるとあとの一組副会長の健さんグループがどうなったかだが、どこもこんな調子じゃ押して知るべしだな。どうやらハヤを釣ってないのはうちのグループだけの様子。なにが渓道楽だっちゅーの(笑)

 ここで時間は15時頃。もう宿にも入れる時間となってしまった。我々は宿に向かう途中の川でテンカラの練習などをしながら、ノンビリと過した。

小金色の稲穂を秋風が優しく撫でていく
豊かな実りは和賀の流れがあればこそ

再び副会長チーム

 集合時間の17時を気にしつつ、次なるポイントを目指すが、路肩に停車中の会長チームの車を発見。山田氏一人がニコニコしながら運転席に座っている。さては、会長はキヂうちかなと思いきやなんとこんな里川で釣をしているとのこと。
今回、会長と山田氏は、昨年の大物ポイントに入渓したはずなのに何故こんなところで粘っているのか?
 話を聞くと時間切れで目的のポイントには入渓できなかったらしい。そんな会長たちを放っておいて、我々は先を急ぐ。
 噂どおり関所には漁協のおじさんがおり、検問をうける。すでに時刻は15時過ぎを指しており、これから一人1500円の日釣券はちょっとつらい。かといって検問を突破するほどの勇気もなく、ここは終始営業スマイルで、にこやかに会話をはじめる。
 功を奏して、おじさんが日釣券に記入した日時は明日であった。
 本流は、釣人が多いとのことで、我々は支流へ直行する。いけどもいけどもちゃら瀬が続くが、残された時間も少なく、適当なところから入渓する。支流、堰堤直下などアタックするが、でてくるのはちびちびヤマメやイワナばかりである。
 集合時間より、一時間遅れの18時に今晩の宿"ふるさと体験館"に到着。すでに他のチームは、入浴を済ましてご馳走を目の前にして座っている。慌てて着席、会長の厳格なる挨拶もそこそこに乾杯をはじめる。

 残念なことに大物対象魚をだれもゲットできず、大物賞は2001年の初釣行へ繰越となる。
 翌朝四時に釣を約束した永田氏を起こしに行くが、部屋に鍵がかかっていた。田辺氏は目覚めるも再び寝入ってしまう。
 結局一人で出発することとなり、薄暗い中、気になる堰堤近くに車を止め着替える。人の気配を感じ後ろを振り返ると、そこには昨日の漁協のおじさんが。おじさんいわく「ここは、硫黄を含んだ湧き水があり、魚は少ないよ。上流右岸の某沢にはいるけど」とのこと。昨年六月の尺上数匹は、やはり増水後など良い条件が揃いすぎた結果なのかと一人納得。気が付くとすでに夜が明けきり、慌てて沢におりることとなる。貸切堰堤での釣果はチビチビイワナのみ。朝食のため、しょぼくれ状態で宿に帰還する。そんな私を渓道楽のメンバーは心やさしく迎えてくれ、ほっと一安心。

秋田の岩魚たち

 翌日もカラリと晴れ上がり、絶好の釣り日よりとなった。
 水田には黄金色の稲穂が頭を垂れ、草原にはススキが揺れている。いつの間にやらすっかり秋の風情が北の山あいの里を包んでいた。
 宿の前で写真を撮って、私、田辺氏、中村氏、霜山氏の4名は今晩のテン場となる秋田県皆瀬川を目指した。他の渓道楽メンバーは和賀水系を釣って帰る予定だったので、ここでお別れである。

ふるさと体験館の前に集合した渓道楽の面々 ハヤばかりの状況をなんとかすべく、入渓する川を選ぶ

 皆と別れた我々は県境を越えて秋田へと足を踏み入れた。
 まずは湯沢の町で買出しをし、新鮮な材料を仕入れる。今晩のメニューはカレー。飯炊き大臣&カレー大臣の中村氏が「最高級の牛肉を仕入れるぜ」と意気込んでいた。

 車は皆瀬川の本流に沿って登っていく。米所秋田だけあって、稲穂がどこまでも続いている。
 ふと見かけた道路脇の標語。「己に勝つ!」なんだそりゃ?とよく見ると、どうやら酒の飲みすぎ&飲酒運転はやめましょうとのことらしい。さすが酒豪の多い秋田だ。ナベちゃんも己に勝つ様に!!(笑)

 天気は快晴だったのだが、山を登るにつれてだんだんと雲行きが怪しくなり、とうとう雨が降りだしてきた。今晩は星空の下、盛大に焚き火で盛り上がるというわけにはいかないようだ。
霜山さんに案内してもらい、テン場となる車止めに無事到着した。
すると先客がいるようで、宮城ナンバーの車が止まっている。我々が車から降りると、ちょうど持ち主が渓から帰ってきた。
 「釣れましたか?」と声を掛ける私たちに、笑顔で「30くらい出ました」と答えが帰ってきた。
 この沢で30尾も上げるとは、よほどの腕前なのかとビクを見せてもらって、ちょっとがっかりした。たしかにビクは岩魚で一杯なのだが、15cmほどの岩魚までもがキープされていたのだ。もちろん8寸くらいのも沢山入っていたのだが・・・。
 でも、この人は全然悪気はないのであろう。その証拠に快くビクを見せてくれたのだから。きっとたまの連休にでも釣りに来て、みんなで美味しく食べるために小さ目の岩魚でも持って帰るのであろう。そういう釣り人に対して毎週のように釣りに行っている我々が、とやかく言うべきではないとも思った。しかし、この程度の沢で釣れた魚を全てキープしてしまっては、次からは期待できない渓になってしまうような残念な気持ちにもなったのである。

 そんなこともあったが、フライシートを張り終えた私たちは釣り支度を整え、渓に向かった。ナベちゃんは呑んでいるとのことなので、番をしてもらうことになった。また己に負けたようである。

 霜山氏の車に乗り込み、別の沢を目指す。天気は相変わらずで、時折雨がフロントガラスを叩く。
 道路脇に車を止め橋のところから入渓し、沢を下って本流に出たのち、別の支流に入るつもりで5万図を見る。それによると距離的にはたいしたことはなさそうであった。

 渓に降り立った我々3人は遡行を始めたのだが、これが物凄い薮、薮、薮!! 川岸は言うに及ばず、川の中を歩くのも大変な苦労を強いられる。たまに深い淵などでもあろうことなら、ずぶ濡れになりそうな感じさえする。
 いいかげん30分も歩いただろうか、耳をすますと車の音が聞こえてくるではないか。
 「どういうこと? 林道なんてないよね。」
 「30分も歩いてるんだから、道路とは随分離れたと思うけど・・・。反響して聞こえるのかなぁ。」
 地図で見ると道路と平行している区間はあるにはあるが、普通に歩けば5分ほどで道路から離れると思うのだが・・・。
そんなことを疑問に思いながら歩きつづける3人。しかし、足元から岩魚が走るようになってくると、そんなことはどうでも良くなってしまった。
 早速、中村氏が竿を伸ばす。ボサが凄いので仕掛けを短くして、そっとドバを降ろす。すぐさまアタリがあったのだが、残念ながらバレてしまった。
  そのうち霜山氏が「これ岩魚だよねぇ」と水の中に引っかかっていた魚を指差す。確かに岩魚だった。死んでから大分たっているようだけれど、9寸くらいの良型である。
 「こりゃ期待できるかなぁ」と目を輝かす3人。
 だが、その後釣り下がっていったが、良型が竿を絞ることはなかった。渓相は連爆帯となり、遡行が難しくなってきた。4時にはテン場に戻ると言ってあったので、そろそろ引き返さないとならない。私たちは渋々竿を畳むと、今来た渓を戻り始めたのだった。

 しばらく行くとまた車の音が聞こえてきた。「おかしいなぁ、全然違う渓を歩いてるのか?」と首を伸ばして薮の向こうを伺うと、ちらりと車が走っているのが見える。
 先行している二人に声をかけ、薮漕ぎして道路に出てみることにした。薮の程度が分らないが、距離的にはすぐである。渓通しで行けば30分はかかるだろう。それだったら多少苦労してでも道路に出たほうがいいだろう。
 試に薮に入ってみるが、意外とたいした事は無い。あっという間にアスファルトの上に立っていた。いったい行きの苦労はなんだったのだろう。道路を使えば5分のところを、薮を漕ぎ漕ぎ30分もかけていたのだ。あまりの薮と曲がりくねった渓のせいで、私たちは随分距離を歩いた気になっていたのであった。

出るか40cm

 テン場に戻った我々は霜山氏推薦の沢に4人で入ることにした。なんでも以前大きな魚影を3尾目撃したといい、かなり期待のできる場所のようだ。
 暗くなるまでは2時間ほど時間がある。ここから魚影のあった滝壷まで30分くらいで着くというから、十分時間はある。
 和賀と違って落差のある渓を急ぎ足で遡行していく。しばらく歩いたところから竿を出しながら進む。ここぞという落ち込みでは小さいながらも岩魚が出る。やがて木々の切れ間から大物が棲むという滝が見えてきた。
 滝壷を目の前にした4人は餌を付け、ポイントに静かに近づくと仕掛けを投入する。ククッ、スーっと岩魚特有のアタリがあり、餌を咥えてエゴへと目印が動く。十分食ったところでアワセると、腹の黄色い美しい岩魚が水を割って飛び出してくる。ここで何尾釣っただろうか。多くの岩魚が溜まっている様子である。だが、残念ながら大岩魚は留守のようであった。他の釣り人に釣られてしまったのか、用心深くて出てこないのか・・・。ここでの最大は中村氏が滝直下から出した8寸であった。

 あたりに夕闇が迫っていた。もう時間切れである。竿を畳んだ4人はテン場に向けて下り始めた。途中暗くて水深が判らず、霜山氏が胸まで水没というアクシデントがあったが、無事に帰り着き、宴会に突入する。

 飯炊き大臣の中村氏によって、完璧に炊き上げられた白米に、これまた中村氏の作ったカレーを頬張る。残念ながらカレーは水が多かったようで、中村氏は納得行かない様子である。それでも十分に美味かったよ。

 時折激しく降る雨、そしてフライシートを吹き飛ばしそうな強風の下、夜がふけるまで楽しい渓の宴が続けられた。
 私は今回が今シーズンの納竿釣行。来年はどの渓に行こうか。行きたい渓がいくつも浮かび、とても全てに竿を出せそうもない。今年行った渓でも、再び訪れたいところもある。結局、年老いて体が動かなくなるまで渓通いは続くのだろう。
 そんなことを思いながら渓の夜はふけていった。

会長、副会長チームの2日目は?

 会長と副会長チームは、再び和賀支流へ、事務局長チームは、秋田県皆瀬川の源流へそれぞれ出発する。
 奥田氏、川久保氏を中流部でおろし、我々は更に上流部を目指す。
 沢の出会い付近に車を止め入渓する。依然として沢はチャラ瀬が続き、でてくるのはチビチビ山女魚や岩魚たちばかり。大物はどこだ〜い!と辟易し諦めかけていると、"ジョボ×3"と私を誘うやさしい 音が目前に聞こえてくる。気を取り直し、さらに前進すると15mの美しい滝を確認すると同時 に、岩魚が滝登りを1m程で落下していくのを目撃する。はやる気持ちを抑え、慎重に仕掛けを沈める。第一投目から8寸が飛び出すが、これはリリース。再度仕掛けると先ほどの落下した岩魚が、水しぶきを上げるくらいの勢いで餌に食らいついてくる。いつになっても上達しない私は、向こうあわせで何とか釣り上げることができた。サイズは九寸、尺ならず。健さんもチビチビ岩魚だけで、山菜を手にして納竿となる。

イワナがハイジャンプした15m滝 9寸のイワナが竿を曲げた

 川久保氏を、次に奥田氏を迎えに戻る。途中で会長チームと合流し、"穴ゆっこ"というなんとなくいやらしいネーミングの温泉に向かう。
 会長、副会長を除いたメンバーは、当温泉は初めてである。
 簡単にここを案内すると、まず入り口正面に四、五名ほど座れるカウンターがあり、その背後に十名ほどすわれる座敷が有る。つまりここは、食堂兼休憩室である。
 入り口の左側に温泉までの通路があり、この両サイドには、四、五十年前鉱山で使用した道具などが展示してある。ショーケースに収められている薄汚れたヘッドライトを見て、はたして、実用に足りるほどの明るさが得られたのかと疑問をもつほど、それは頼りないものであった。この先の脱衣場をクリアーするとやっと三種類の浴槽にたどり着くことが出来る。
 通常の浴槽と四名が入浴したら満席になるほどの露天風呂、そして、世にも不思議なコンクリートで固めたかまくら型の温泉。ちょうどカラオケの練習をするのに最適な場所である。そして、"穴ゆっこ"の由来はここからきているらしい。残念なことに我々と入れ違いにOL風の二人づれが暖簾を潜っていってしまう。
もう一度入浴する元気もなく、ICに向かう。途中で夕食をたいらげ、北上ICより、"かじか"にむかって、二台で爆走を開始する。
 いずれも南北に長い、岩手県、宮城県を難なく通過し、福島県内に入ったところで、奥田氏と運転を交代していただく。
 奥田氏も腰痛をおして、福島県を通過、気が付くと私は助手席で爆睡モードであった。
 会長チームが先導しており、永田氏もそれに続く。栃木県内では必ず往路に休憩、給油するはずの那須高原SAを通過。
 不幸のプロローグはここから始まるのであった。
 追い越し運転中の奥田氏より、『燃料警告灯が点滅しているけど大丈夫?』と天まで届くほどの大声で目覚めた私であるが、寝ぼけ眼で気にとめることなく、「大事だ!午前中走り回っていたときも、同じように警告灯が点滅していたよ」と答えた。

今回最後の最後までツイテなかった人たち
夜の高速でのガス欠は悲しい・・・

 しばらくすると、追い越し車線を走行中の奥田氏より、「やばいよ!減速している!」 確かに減速している。ついにやっちまった。 ガス欠。場所は上河内SA五キロほど手前。奥田氏のドライビングテクニックでなんとか路肩に停車することができた。奥田氏と眼を合わせ爆笑していると、後部座席で仮眠中であった、健さんと川久保氏は何事かと目を覚ましてしまった。確か高速道路上のガス欠は、罰金刑か減点の対象ではないか? それに、JAFを呼んだらサービス費用が別途かかってしまう。散々な釣果のうえ更なる仕打ちとは、おまけに雨が降っているではないか?といろいろ危惧したわりには、ハイウエーサービスの人が来て、赤コーンを車後方に設置してくれ、JAFについては、抜かりない奥田氏がメンバーだったこともあり、ガス代実費のみで無事完了。最終的には、先行した会長チームに一時間遅れで"かじか"到着することができた。


最後に
 今シーズンは、釣果だけを見てみると魚拓の枚数が象徴するように、非常に厳しい結果であった。
 しかし、我々のモットーである"自然に親しむ"ということでは、十分満足できるものであったと確信する。
新会員も北は宮城県から、南は静岡県まで多方面にわたり、やがて渓道楽静岡支部や仙台支部ができるのも、そう遠くないのかもしれない。
 いつの日か、渓道楽メンバー達の力で、未開の源流を発見する日を夢見て。

追伸:
 今年の最終釣行は宿泊まりであったが、話を聞くと意外にも渓で泊りたいという希望者が多かった。来年はそんなメンバーを引き連れて、みんなで楽しくテン場泊といこうか。
 大丈夫ですよ、担ぐ自信のない方々。なるべく荷物は若手が担ぎますよ。ただし、自分で飲むアルコールは自分で担いでくださいね。(笑)


 HOMEBACK