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静岡県大井川水系

平成13年6月30日〜7月01日
八木大輔、田辺哲、高野智、川久保秀幸


 
Text :川久保 秀幸
Photo:高野 智


 今回の大井川源流行の誘いを、たかさんやナベさんから受けたのは、6月中旬でした。私にとっては、待ちに待った「源流行」デビューなんで、小躍り?いや、武者震い?それも違うな、何というか、これまでいろいろな事情が重なってなかなか機会がやってこなかったのを、やっとのことでいけるのだなという思いでした。

 何しろ、川上顧問と同じ年齢でありながら源流行未経験、しかも障害者とあれば、普通の人でも誘うのを後込みするもので、本当にありがたいことです。もっとも、渓道楽に入会する際には、こちらの身分を明らかにしてあるので大丈夫だと思っていたが、さすがに厳しい遡行を強いられる源流行は、誘いが来なかったですね。それだけに誘いが来たときは、「初めて、本物の源流で釣りができる!」と素直に嬉しかった。

 歳は歳でも、長期間街のジムでトレーニングをしてきた甲斐あって、何時間の遡行にも堪えられる自信がある。かっては三才の息子を背負って、秩父定峰峠越えの8時間に及ぶハイキングを敢行した事があるので、その時の苦闘を思えば、体力が充実している現在の方が「源流行」への挑戦にためらいがなかった。

 満を持して出撃と言うとかっこう良いが、実際ははじめての事なので、ザックに何を入れていいのいか出発間際になっても随分迷って、結局20キロほどの重量になってしまった。
 キャンプ生活の癖であれもこれも要ると思うからいけなかったのだが、担いで見ると実感としては、重い!果たして行けるだろうか不安がよぎったが、120キロの負荷をつけてのスクワットをこなしてきた私だから、何とかなるだろうと。ところが、トレーニングで鍛えた筋肉の部署が違うのか、持続的に足に負担をかけ過ぎる結果になって「けいれん」を何回も起こしてしまった。

 さて、肝心の大井川源流についてだが、正確には大井川水系の一支流で、アプローチが容易でない深い谷底にある水量も豊富で変化に富んだ「美渓」でした。
 当初その「川床」に至るまでの遡行が車止めから3時間かかるという話だったので、軽いでやんの、と多寡をくくっていたが、後でとんでもない勘違い!だったことを思い知らされた。ご案内していただいた寸又さんの「基準」(かなりの健脚です)で言っていることを忘れていたのだ。初心者の足では5時間近い時間がかかるほどの難所でした。過去幾度かの大地震で土砂やがれきで埋まったまま放置された道なき道を、藪をこぎ高巻きし、急斜面のがれ場や岸壁をロープでよじ登り、最後には川床まで1キロもある急斜面をジグザグ降下して、テン場にたどり着いた時はもうヘロヘロになって、疲労困憊でした。
 だが、「渓流」を目の前にすると、ライン川のローレライのごとく「渓が呼んでいる」というか、俄然元気を取り戻して来たのは、「釣り人の性」ですな。みんな釣りが好きで、そのための苦労艱難を厭わないというところは「山男」と意味が違うが、エネルギーの全てを「釣り」に注いている「バカ」です。私も人後に落ちない「釣りバカ」なもので、テン場の設営をそそくさと済ませると、いざ!清冽な渓流へ。

 こういうときは、これまでの疲れなんか吹っ飛んで、幸せ気分です。荒い息づかいも収まり平常に戻っていくうちに、自然との一体感に至る境地になればしめたもの、後は「渓流の精・岩魚」との勝負です。駆け引きなんて要らない、無骨なまでに餌を深く沈めて、アタリを待つだけです。テン場辺りの流れは、一目見ただけでも好ポイントの連続という感じで、数少ない厳しいポイントばかり攻めていた今までの釣りからすると、贅沢な渓流です。

 じっくりと釣るタイプの私は、他の3人が荒らした後のポイントばかり釣り上がっていく結果になったが、それでも6、7寸ほどのイワナが4尾かかってきたから、魚影の濃さがどれほどか、わかろうと言うものです。

 寸又さんの33センチを最高にみんなよく釣れて、気分は上々のようでした。私は一日目の釣りで早くも竿を折ってしまったが、こんな美渓からイワナの顔を拝めただけでも十分に満足です。もう少し奥へ進めば尺物のイワナを期待させてくれる有望な渓流として、私の記憶にいつまでも刻まれていくことだろう。

 夜の楽しみは、たき火を囲んでの宴会と決まっているが、生憎の雨だったので、無し。代わりにタープの下でささやかな(?)宴会が催された。私は初体験なのでどんなものだろうかと関心を持っていたが、どこか、しめっぽい雰囲気でしたな。酒豪の二人がいるから話は確かに盛り上がっていたが、問題は酒の「肴」です。源流マンは基本的に粗食と話に聴いていたが、正直言って、それほどの粗食とは驚いた。いや、正確に言えば無いに等しく、アルコールの精だけを胃に流し込んでいるではないですか。

 出発前にたかさんから、各自一品ずつ料理することになっていると言われて、そのつもりでいた私の何でもない料理が、図らずも唯一豪華なものになっていた。何か上手い具合に「召し使い」にされたような感じがしないでもないが、やはり、体力を使う源流行に「おいしい料理」は欠かせない。渓道楽としても、遡行技術ばかりでなく、宴会のおいしい「おつまみ作り」も「課題」の一つとしなければなるまい。そのためには、女性会員の加入を切に望む。

 翌朝はピーカンでした。早朝の一時間弱だけ釣りをして、テン場を撤収。往路と同じ道を辿って車止めまで帰還。その道中は往路ではビリケツだった「たかさん」が終始先頭を切ってダッダッダと歩いて行って元気でした。たった二日間だけの留守で家庭が恋しくなってきたのでしょうか。
 それにひき替え、後続のナベさんや寸又さんの足取りが心持ち重く見えたのは、渓との別れ難い感情がそうさせているのだろうか。

 私の源流デビューはヒルには悩まされたが、極上の「渓」に巡り会えて、大いに満足した源流行でした。それはひとえにご案内していただいた寸又さんばかりでなく、たかさんやナベさんの日頃からの暖かいご支援のたまものと感謝申し上げます。どうも、ありがとうございました。

雨に煙る夢幻の流れ 大井川 高野編

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