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新潟県

平成13年7月6日〜8日

岩田会長、川上顧問、田辺哲、伊藤智博、中村敏之


 
Text&Photo:中村 敏之


 今回は私にとって今年初の川上顧問と同行釣行となりました。川上顧問と源流遡行となると、体力的・技術的に少々(多々?)心配な私ですが、今は梅雨の時期と言うこともあって「落差が無く難所もない安全な渓をセレクトした。」と顧問が宣うので、ちょっとだけ安心して一路渓を目指したのでした。
 ところが現地に着くとザーザー降りです。大雨の中を重い荷を背負って歩くのは誰でもいやなもの。「小降りになるのを待ってから出発しませんか?」と顧問に進言申し上げると「この雨は止まないよ。」と一言で却下。この時点で再び不安がムクムクと頭をもたげて来た私なのでした。

最初はまだこの程度だったが 1時間もしないうちにこんなになった

 最初の踏み跡歩きは快調でした。しかし、踏み跡が途切れた時から地獄は始まったのでした。
 踏み跡の終点から川を見ると濁流が渦巻いています。ここからは沢通しで遡行してテン場まで行くのですが、これではとても先には進めません。後から追いかけてくる会長たちがすぐわかるように、川沿いにテン場を設ける必要があり、その為には対岸にしか適地がないのでどうしても対岸に渡らなければなりません。と言ってもあの濁流を渡渉するなど自殺行為です。
 私と伊藤君は誰かが踏んだ跡がないかと血眼になって斜面を這いずり回って探したのですが、足跡一つ発見できません。となると前方には切れ込んだ沢が一本入っているので、その沢を高巻いて先へ進み渡渉点を探すしかないようです。
 と決まった途端(と言うか顧問が一人で決めたんですけど…)
「おう、行くぞ!」と一言言ったかと思うとササッと急斜面を登った川上顧問、アッと言う間に沢の向こう側に到着し「お〜い、ここだぞぉ〜。早くこーい。」と木を揺すりながら上機嫌で叫んでいます。
 「川上さん、なぁんか嬉しそうだねぇ。」
 「ただ歩いているより、こういう方が楽しいんでしょ。」
とゲンナリした顔を見合わせた私と伊藤君、ザックを担ぎなおしてエッチラオッチラ急斜面を登り始めたのでした。
 
 途中、私がはぐれると言うハプニングがあったせいもあり、2時間以上もかけて何とか対岸に渡り、もはやこれ以上の遡行は不可能という顧問の判断で、そこがそのまま緊急ビバーク地点となりました。



 明けて7月7日七夕。昨日の大雨が嘘のような快晴です。「今日は絶好の釣り日和になりそうだな。」とウキウキしながら朝飯の用意をしていると、突然会長とナベちゃんが登場しました。予想以上に早い到着です。
 「ずいぶん早かったですね。」
 「もっと先に居ると思ったから早く出てきたんだよ。こんなに近くでテン場ってるとは思わなかったよ。」
と不可解なことを言う会長。
 「(…?昨日は相当歩いたけどな)…いや昨日大雨で予定していたテン場まで行けなかったんですよ。」
と、とりあえず答えたものの、私も伊藤君もわかっていなかったのでした。その真の意味は帰りに明かされる事になるのでした。

 全員集合と相成ったので、ここからは釣りながら本来のテン場を目指します。

快晴の渓を軽快に釣り上がる 未だにしつこく雪が残る

 釣りとなるといの一番で竿を出すのが会長です。でも、腹を下していて力が入らないせいでしょうか、釣っても釣ってもチビ岩魚ばかりです。他の人がやれば良型が釣れるのですから魚は居るはずです。なのですが可笑しいぐらいにチビしか釣れません。その上流れの中で転んでずぶ濡れになり、すっかり元気をなくしてしまいました。

 会長が元気をなくして暫し後、ようやく本来のテン場に到着しました。昼飯のソーメンを頂いたら、やっと本格的に釣りタイムです。

川上さんのザイル講習会も開かれた

 テン場で休んでいるという会長に留守を頼み、他の4人は足取りも軽く上流へ向かいます。私は途中で皆と別れ枝沢に1人で入ってみました。こちらも魚影はそれ程ではありませんが、飽きない程度に良型が釣れます。数尾の良型岩魚を釣り上げた私はすっかり満足してテン場への帰路についたのでした。
 テン場に着くと本流組もすぐに戻って来ました。本流では尺物が出たようです。それを聞いた会長は「よ〜し、明日は頑張るぞー。」と目を輝かせています。川上さんも「今日行ったとこより先に行けば尺が入れ喰いだよ。」と嘘かホントか良くわからないことを言って会長を煽っています。
 
 釣りもしたし、あとは宴会をするのみです。各人が持ち寄った酒が酌み交わされ、それぞれ自慢の手料理が次から次へと出され宴は最高潮となります。

岩魚とビリー缶 岩魚の塩焼きにかぶりつく会長

焚き火の前でくつろぐナベちゃん
お土産のミズを手にご機嫌な川上さん
先日の大雨がウソのように晴れあがった
自然こそお釈迦様の掌なのだろう

 明くる朝、朝まづめをやると言う会長と川上さんを送り出した後、残った3人は朝寝をしたり、ボーっとしながらコーヒーを飲んだりという、何もしないという贅沢な時間を過ごしました。
 気が向いたときに荷物を片付けたりしているうちに、川上さんと会長が戻って来ました。どうやら期待したほどの型は出なかったようです。が、そこそこ良い型が釣れたそうで結構満足しているようです。
 この渓と別れを告げる時がやってきました。3日間で消費した酒と食料の分だけ軽くなったザックを担ぎ下界へ向かって歩き出します。

 何度目かの休憩を一昨日のビバーク地点で取りました。一息入れて「さあて、こっから踏み跡までもう暫くかかるな。」と歩き出した途端、何と言うことでしょう。流れを下流に向けて斜めに渡ったらそこに踏み跡への登り口があったのです!その距離20〜30mぐらいでしょうか。来る時は2時間もかかったのに、帰りは僅か30秒です。
 「なんだよ〜。ここは踏み跡からこんなに近かったのかぁ。目の前じゃん!どうりで会長たちがずいぶん近いとこにテン場っている。なんて言うはずだよお。」
 「あんなに苦労して高巻いて時間もかかったから、結構先に進んだつもりだったんだけどな〜。」
滑りやすい急斜面で這いずり回って体力を消耗し尽くした私と伊藤君は、気分的には最低でも数百mは移動したつもりだったのです。
これではまるで、どんなに頑張ってもお釈迦様の掌から飛び出せなかった孫悟空です。

 山の神様に掌の上で弄ばれてしまった私達は、まだまだ修行が足りないと思い知らされ、ガックリしながら渓を後にしたのでありました。











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