渓道楽恒例の春の釣行会がやってきた。今年は岐阜県飛騨の下呂温泉周辺の渓を探ってみようとなり、渓道楽の会員15名が5台の車に分乗して夜の高速道路をひた走った。
岐阜県の下呂温泉の歴史は古く、温泉は西暦900年代に発見された。下呂は古くは
下留 (しもつとまり、あるいはしもとまり)と呼ばれていたが、「げる」からさらに通称化されて「げろ」と発音されるようになったらしい。
そんな歴史ある下呂温泉だが、我々の第一の目的は湯治ではなく釣りである。飛騨を流れる川といえば飛騨川(益田川)である。その流れは多くの支流を持ち、素晴らしい魚を育んでいる。渓道楽のメンバーは数名ずつに分かれて、この美しい流れでの釣りを楽しむつもりだ。
そして、今回のもう一つの目的は民宿あま乃に泊まること。あま乃のご主人である天野勝利さんはテンカラの名手。天野さんからいろいろな話を聞ければ、それだけでも岐阜まで行く価値があるというものだ。
さて、中央高速を中津川ICで降りた私とナカナカは、舞台峠を越えて飛騨川流域へと足を踏み入れた。今回は転勤になったナベちゃんも来ることになっており、携帯で話したところでは東名高速まわりで来ている篠原さんと、すでに現地入りしているようである。
とくに釣る渓を事前に決めていたわけではない私たち2人は、峠を越えてウロウロしていた。ここ数日は雨が降り続き、渓はどこも増水してしまっている。釣りをするにはちょっと水位が高いかなという感じで、完全には止まない雨が寝不足の私たちのヤル気を削いでしまった。輪川沿いの適当な空き地にフェラーリ4ドアセダンを停めた2人はシートを思い切り倒していきなり寝に入ってしまう。すでに夜は明け、朝マズメの一番良い時間帯だというのに。こいつらいったい何考えとんのじゃ! 6時間もかけて岐阜まで来ていながらこのあきれた行動。だけど眠くて眠くて・・・。Zzz・・・。
窓を叩く音で目が覚めた。ナベちゃん得意の「魚券もってるか〜い」攻撃。おお、なんだ元気そうジャン! メールや電話では「もう、やだよ、こんな仕事と職場。早く戻りてぇ。」だの「友達なんて全然出来ないよ。もう会社辞める。」だのと泣き言を言っている割には元気そうなナベちゃんであった。「釣りに来てる今だけ元気ですよ。」とナベちゃん。ま、そんなことだろうと思ったよ。聞くとナベちゃんも篠原さんも、すでにイワナを釣り上げたらしい。こうしちゃおれんと、支度に掛かる。
さてと、じゃあやってみますかねと餌を振り込んだはいいが、どうも釣れそうな感じじゃない。しかし、落ち込みからの流れに餌を沈めると、ク、ク、クっというアタリが来た。「よっしゃ、アマゴだぁ。」と抜きあげると、パーマークの無いお魚。「あちゃ、ハヤだよ。」 結局そこではハヤが2尾釣れただけであった。
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輪川の流れ
雨に濡れた新緑が美しかった |
そんな意気消沈の面々に頼もしい味方が来てくれた。ここ飛騨川をホームとしている、いっしんさんだ。彼とはインターネットを通して知り合い、お付き合いさせていただいている。その彼がわざわざ駆けつけてくれたのだ。
久しぶりの再会を喜び合い、釣れなかったことを話すと、「この渓はあまり釣れないって話ですよ。私も釣ったことありません。」 ガクッ、そうなの? ちゃんと下調べしないとダメですねぇ。
それじゃってんで、いっしんさんに別の渓に案内していただいた。そこはあまり目立たない支流であったが、落差のある落ち込みや滝が連続して、山岳渓流の趣であった。薄暗いその渓の奥からは先ほどの流れからは感じられなかった、生命の鼓動のようなものが感じられた。さっそく竿を出すのが早いナベちゃんが一番手前の淵に仕掛けを入れる。「お、ここいますよ。アタリあります。」 よっしゃ、それなら釣れるだろうと、ここぞというポイントに竿を出していく。ところが確かにアタリはあるのだが、餌の端っこに食いついてくるだけで鉤がかりしないのである。いくら目立たない支流とはいえ、激戦区岐阜の魚はスレているのであった。何度もあるアタリに合わせそこないながら、岩を乗り越え滝を巻き釣りあがる。一度は明確な魚信を捕らえ顔まで見たのであるが、やはりポチャンと落ちてしまった。「クッソー、今のは7寸はあったのに。」渓道楽源流部会(そんなの無いけど)の下手さかげんには、ちゃんちゃら可笑しくて屁も出ねぇやといっしんさんもあきれていた。(いや、そこまでは思ってないかも知れないけど) せっかく案内していただいたのに1尾も釣ることが出来なかった4人。とぼとぼと車まで戻る足取りは重かった。
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苔むした岩を包むように水は流れる |
この渓にはウルシが多かった
触るとかぶれるので注意 |
いっしんさんにお礼を言い再会を約束してお別れした。腹も減ったことだし上流に移動しながら飯屋を探す。昼飯の後はお昼寝タイムである。午後の気持ちの良い時間を渓の風に吹かれながら2時間も寝てしまった。
宿の集合時間まではあと2時間ほどである。4人はどこで釣るかをすばやく協議し、良さそうな渓を選び出した。上流部の山ノ口川だ。だたっ広い本流と違い、ポイントも明確な山岳部の流れである。ここならなんとかなるべと2組に分かれて入渓する。私はナカナカと組み、下流部から入った。そこには落ち込みの連続した、いつもの釣りなれた雰囲気があった。しかし、釣れない、アタリもほとんど無い。こりゃダメだねとナカナカと愚痴を言いながら釣り上がり、途中タラノメを採って退渓点まできてしまった。橋の上にはナベちゃんが待っている。渓から上がった私に、「今、下の淵に8寸くらいのが泳いでたよ。」と来た。あれま、手前で上がっちゃったよ。ま、どうせ釣れないだろうけどさ。
聞くとナベちゃん、篠原さんとも良型を上げたらしい。どうも今回はツイてないなぁ。
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山ノ口川を攻める篠原さん |
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何とか釣ってやろうと竿を出す |
ぶら下げている袋の中身はイワナじゃなくてタラノメ |
釣りは不発だったが、もう集合時間である。民宿あま乃へと車を走らせていると携帯が鳴った。副会長の健さんからである。「今、どこ?」「今、宿に向かってます。」「どうだった釣りは。こっちは紺野君が尺釣ったよ。」 なにぃ〜ん、尺イワナかい! こっちは1寸イワナも釣れないってのに。紺野君やるなぁ。「で、健さんはどうだったの。」「え、まあそこそこのが釣れたよ。」「また、ちょこっとやって寝てたんでしょう。」「ハハハ」 どうやら図星のようである。
そんなこんなで宿に着いたのだが、会長チームがまだ着いてなかった。何処行ってんのかねぇ。渓にでも落っこちてんじゃないの。と冗談を言っているうちに会長到着。みんなで楽しく美味しい晩飯を平らげ、天野さんの釣った驚くほどデカイ剥製を前に天野さんのお話も聞けてとても楽しい夜だった。皆さんお疲れのようで今夜は早めに就寝。
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天野さんの宿にあったツキノワグマ |
仰天、驚愕。言葉が出ない
55cmヤマメ |
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こちらも凄い。49cmヤマトイワナ |
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さて、明けて2日目。すっきりと晴れ上がった空にトンビが舞う清々しい朝であった。現地解散なので各チームそれぞれに帰路に着く。
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天野さん(前列右から2番目)を囲んで |
お食事処・民宿「あま乃」 天野さんの人柄も最高
お近くに行ったときは、ぜひ立ち寄ってください。
国道41号線沿い
電話 0576−52−3600 |
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豊かな馬瀬川の流れ |
私たち4人は温泉直行。馬瀬川沿いにある美輝の里へと向かう。そこでのんびりと湯につかる。ここは露天風呂で、とっても綺麗な温泉であった。値段も300円である。私的にはもっとひなびた温泉が好きであるが、こういうのも悪くは無い。
さあ、あとは帰るだけである。ナベちゃん、篠原さんとはここでお別れ。私とナカナカは馬瀬川上流へと向かい、清見村−高山市−松本市−佐久方面とぐるっと回り帰ろうということになった。地図で見たらこっちのほうが距離は短そうだからだ。一般道が長いので時間は掛かりそうだが、急ぐ旅でもないしゆっくり帰ろう。
途中、適当なところで竿を出すも、やはり魚信は無し。今回の旅はとことん魚とは縁が無いようだ。しかたがないのでワラビを採りつつ、上高地の下を抜け梓川沿いに走り、上信越道の東部湯の丸ICからカッ飛ばして帰った。いやぁ、いいドライブだったなぁ・・・。
追伸:
帰り道の途中、携帯に「サンダル履きで尺アマゴ釣っちゃいましたぁ」という連絡あり。クッソー!! まあ、彼は神戸で一人寂しいだろうから、それぐらいのご褒美がないとね。
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