お誘いを受けて
携帯電話のディスプレイに見覚えのないPHSの番号が表示された。「なんじゃろ?」ピッ、と電話に出てみると、「もしもし、渓道楽の山田です。」朴訥とした話しぶりだが、なんとなくやさしそうな声。私は少しとまどってから、ああ、あの山田さんだ、と気がついた。会の中でもダントツの縦走力を持ち、「スタスタ山田」という異名を持つ。こちらの釣行記で、渡辺副会長が同行したときの印象を書きつづられていたので、どのような人なのかはなんとなく知っていたが、実際にお会いしたのは昨年末のナベちゃんの「神戸壮行会」での一度だけ。そのときに短時間だったが、お話させていただいたことを覚えてくれていたようだ。
「●●川にいきませんか・・?」どこかの本でしか聞いたことのない川であったが、たしか源流部は渓相が良く、そのわりに銘渓連なる朝日北面の渓々のなかではさほど有名ではないので、魚もそこそこ釣れるという。そんなよいところに、会のベテラン遡行師が連れて行ってくれるという、私は二つ返事で同行お願いした。
月山湖を越え
すでに今年になって何度となく通っている東北道。今回は一気に山形道・西川方面まで車を走らせ、月山湖を越えて一路車止めまでひた走る。雨は降ったり止んだり、途中豪雨のところもあったが、ずいぶん局地的に変わっているらしく、林道入り口付近は道路が乾いていた。車止めも同じ状況で、一安心。「先行者が一組くらいいると思うんですよねぇ」と山田さんは心配していたが、これも我々が一番乗り。「ラッキー」と祝杯をあげ、仮眠となった。
美しい渓の景色に、
しばし足を止めて見入ってしまいます。 |
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ちょっと一息・・。
山田さんは、ペースを変えずにスタスタ歩く。
休憩中も、だだ飄々と。 |
ブナの森の、深い緑。 |
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スタスタと、ただスタスタと・・・・
がさがさと両手で藪をこぐ。私がもっとも苦手とする(アプローチは全て苦手なのだが・・)、藪こぎが林道入り口から連続だ。おまけに、山田さんも3年ぶりと言うことで、以前と辿道がずいぶんと違ってしまっているようだ。迷っては発見し、トータルで1時間くらいロスしながらも、なんとか川通し開始地点に到着。ここまで4時間近くかかってしまった。やっぱりまだまだ持久力が無いなぁ、と反省する。山田さんは、すんなりくれば2.5時間だったけど、迷ったからねぇ、と言ってくれたが、私も結構休憩時間を提供したのだ。
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ヒョイヒョイッ、とヘツる。 |
所々に現れる沢の小滝。
清廉な流れをつくり出す源の一つ。 |
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川通しでは、ちょっとしたゴルジュのヘツリ・高巻をしたり、すこしひやっとするような岩上りをしながらも、楽しい遡行が続く。しかしながら、ちょっとバテ気味の私にとっては、「できればそろそろテン場に着かないかな〜・・」なんて思っていると、「あともう少し広河原が続いて、その先に同じようなゴルジュがあって、それを越えたらすぐテン場ですよ。30分くらいかな」。山田さんが教えてくれる。「ふぅ〜、まだまだヤネ〜」。山田さんが30分ということは、50分から1時間だのぅ、と・・・、
ここまでのパターンから想像し、腹を決めて歩くことにした。途中アブの大群におそわれたが、かえってそれが遡行スピードとヘツリ技術を上げてくれたようだ。通り過ぎた岩場を見て、「よくヘツって来れたなぁ」というところが多かった。ドボンの恐怖よりも、アブがイヤ。これはアブさまさま、というべきか。
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「尺止まりなんだよね〜」。
どうやら以前は大物が出たらしい。 |
テン場にはアブいなかった。
これは本当によかった。 |
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テン場のすぐ上ででた尺。
山田さん、釣りのウデもハイレベルだ。 |
テン場に到着し、設営がすんだら、早速釣りに。こんな良い川を2人締め、別にあせることはないのだが、釣り始めるまではウズウズと、ついつい飛ぶように歩いてしまう。テン場の10mくらい上流で、早速山田さんが尺をあげた。32cm、もうちょっとで尺一寸。まるまる太った源流イワナチャンだ。
源流の宝石が竿をしならせる。 |
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支沢の魚止めで、良型を掛ける。
「引きは尺オーバーなんだけどネー・・・」
上がってきたのは、良型の9寸。 |
また一つ思い出に
源流への釣行は、今年になって何度かになるが、ここの渓もまた思い出の一つになった。沢の出会いに滝が落ち、澄み切った流れが岩を磨き、やがて釜に落ち、淵を、瀬をつくる。豊かな流れの連続が、私たちの想像を絶する長いときを越えて、この美しい造形美を創出している。いつかみた、雑誌や写真の世界に自分が立っているのが、なにか絵画のひとこまに同化しているような感覚を生み出していた。「また来よう、きつかったけど。」(苦笑)
人が来ようが来まいが、
流れは脈々と続く。 |
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