今回は自主謹慎中の伊藤隊長から「近いところで楽しみたい。」との御所望が出されたので、地元秩父の渓の中から大洞川の支流に狙いを定めた。そして鳩首会談の結果、大洞川支流の中でも、伊藤隊長が以前に訪れているので様子がある程度わかり、かつ大洞川の他の支流と比べて遡行があまり辛くなさそうな惣小屋谷を目的地と決定した。
惣小屋谷へのアプローチは、雲取林道の車止めから入渓点まで歩いて1時間といったところだが、崩れかかった林道を延々と登らされるのでこれが中々きつい。今回は1泊の予定なのだが、ザックの中に何が入っているのかやけに荷物が重く、おまけに重量配分がトップ・ヘビーでザックのバランスが悪くて担ぎにくい。道が崩落して狭くなっている所や崖が崩れてガレ場になっている所(どちらも何箇所もある)を通過する時はバランスの悪いザックのせいでちょっとヒヤヒヤする。何せうっかり滑落しようものなら、たちまちこの世とオサラバしなければならないほど林道から谷底までは急傾斜かつ高高度なのだ。もっとも歩いている時に貧血でも起こさない限り、滑落する人はまずいないだろうが…。
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雲取林道の終点 ここを降りれば惣小屋谷だ。 |
私が8月初旬に訪れた荒沢谷もそうであったが、この惣小屋谷も秩父独特の雰囲気を持った渓だ。右岸、左岸とも山肌が迫っているので日があまり差し込まずに渓は薄暗く、川床が急傾斜な上に水量が多めなので水の流れは強い。そして一番の特徴は山の斜面に下草が全く生えていないことだ。(川上顧問によれば、この辺りの渓はみんなこんな感じだと云う。)
この惣小屋谷は、雑誌”渓流”の数年前の記事に”12m大滝以外にこれといった変化に乏しい渓”という風に紹介されていたが、記事を見て想像していたのとは違って次から次へと小滝が連続し、たまに大きな滝が混ざる。”渓流”の記事とは裏腹に、私はここはかなり変化に富んだ渓との印象を持った。記事を書いた人物はおそらく相当な剛脚の持ち主で、高さ数mの滝など彼の中では滝の内に入らないのだろう。(笑)
惣小屋谷はそれほど流程が長い渓ではないので、釣りだけが目的ならば泊まる必要は特にない。じっくり釣っても日帰り釣行は十分可能だろう。…なのだが、今回が本年初釣行となる伊藤隊長から特に「焚き火がしたい。」とのリクエストがあった。となれば必然的に渓泊まりとなる。(真昼間に焚き火をしてもあまり面白くないですからね。)
テン場を探しながら遡行していくが、どこまで行っても流れの縁から山の斜面が急激に立ち上がっているような所か岩がゴロゴロしている所ばかりなので、テン場に適した平らな台地が中々見つからない。おまけに山の斜面に大崩落をおこしている所が2、3箇所あり、ちょっと不安になる。それでも2時間ほど遡行した所で3人が横になれそうなスペースを見つけた。事前に”テン場適地を見つけたらそこに荷を降ろし、空身になって先に行く。”と申し合わせてあったので、その小さな空き地を手早く整地して均し、ここを今夜の寝ぐらとした。
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斜面が崩落して埋まった流れ
惣小屋谷にはこういう所が所々ある。 |
透明度がとても高い惣小屋谷の流れ |
テン場の設営が終わり一息入れたところで、上流目指して出発する。崖を攀じ登ったり、シャワー・クライムをしたりと沢歩きを楽しみつつ、岩魚が居そうな好ポイントを発見すると竿を出すのだがまるで釣れない。それどころかいくら竿を出してもアタリが全く無いのだ。
この渓は透明度の極めて高い清冽な水が流れ、岩魚の付くポイントはもちろん、大岩魚が潜む大場所も沢山ある美渓なのだがサッパリなのだ。(ただし、岩魚が住むには川床の傾斜が少々キツ過ぎるきらいがあるが…。)
そもそもテン場に到着するまでの釣果を見ても、伊藤隊長のルアーにチビ岩魚が1匹出ただけだ。釣れないのは腕が悪いのかも知れないが、釣法の違う3人が(餌とルアー)3人とも釣れないとなると腕のせいだけとも思えない。いい加減に竿を出していても、しばらく釣っていればお腹を空かせたうっかり者の岩魚が釣れるものなのに、それも無いとなれば基本的に魚が居ないのだろう。
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美しい小滝が連続し、岩魚の棲家はたくさんあるのだが… |
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それにしても釣り人の多い秩父の渓とは言え、こんな山奥の渓でこの魚影の薄さはどうしたことだろう?これほどまでに魚の反応が無い渓は蔵王の八方沢以来だ。そういえばあの渓も本流との出合に大堰堤を持ち、異常なまでに透明な水が流れていて、そして渓の崩落が始まっていた…。
今回2日間渓に居て惣小屋谷の中はもちろん、行き帰りの林道歩きの最中も誰にも会わなかったことから、釣り人が入れ代わり立ち代わり入渓しているとも思えない。伊藤隊長の話では10年近く前までは惣小屋谷の入渓点まで車で行けたという事なので、その頃に釣り人が押し寄せて乱獲されてしまったのだろうか?そして岩魚が1度減った惣小屋谷は、大洞川との出合に堰堤が6基も築かれているので下から遡上してくる魚がおらず、また惣小屋谷に閉じ込められた岩魚も産卵に適した場所が少ないために、あまり繁殖出来ないので個体数が減る一方なのだろうか?
きのこ |
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白いきのこ |
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伊藤隊長のシャワークライム |
篠原さんのシャワークライム |
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8m滝をルンゼを利用して抜ける
伊藤隊長
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今にも転がり落ちそうな大岩 |
ともかく、さっぱり釣れないのでは竿を出したところでちっとも面白くない。”沢歩きを楽しむ”のも釣果が伴えばこそなのだ。時々でも釣れれば集中力も持続し「先へ行こう。」という気も起きるが、アタリすらない状態では気力を保つのも難しい。2時間程で遡行する気力が萎えた我々はテン場に引き返すことにした。あとはもういつもの通り、真昼間から宴会が始まるのだった。
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高巻きルートを検討中
「あの紐のところまで行けば…。」
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(一つの滝としては)惣小屋谷最大の12m大滝 |
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ウルイの花 |
ダイモンジソウの花 |
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テン場 |
焚き火 |
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今回のメンバー
左から篠原、伊藤、中村 |
テン場近くの滝 |
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荒涼とした景色の中を行く |
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遥か下を流れる大洞川 |
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