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新潟県 奥只見

2003.11.02〜03






Text  :中村 敏之
Photo :中村敏之、 高野 智

 渓道楽の事務局長と言えばナベちゃんこと田辺哲。彼は釣りばかりしていて上司の怒りを買ったのか、去年東北から遠く離れた神戸に飛ばされてしまいました。でもそこは東北の渓をこよなく愛するナベちゃんです。昨年は往復1500kmの距離をものともせず、根性で他の会員の誰よりも東北の渓へ通い詰めました。が、今年は仕事が忙しかったと見え全く源流行が出来きず、かなりフラストレーションを溜めてしまいました。
 耐えること数ヶ月、我慢するにも限界があるというものです。シーズンの終わりも押し迫った9月の終わり、”東北の渓へ行きたい病”&”釣りしたい病”を抑えきれなくなったナベちゃん、なんとか暇を1日捻り出し会津へ日帰りで山女魚釣りに行くことで”釣りしたい病”の方は(到底満足できないものの)辛うじて解消しました。しかし、”東北の渓へ行きたい病”の治療はシーズン中はもはや不可能です。となると禁漁期間になってから東北に行くしかないワケで、必然的に”シーズン・オフの楽しみはキノコ”となり、ここにキノコ狩りの計画が持ち上がったのでした。(ま、結局東北には行かなかった訳ですが…。)

 掲示板にキノコ狩りの計画を書き込むと、早速川上さんが「面倒を見ましょう。」と手を上げてくれました。実にありがたいことです。実は万一、川上さんの都合がつかなければキノコ狩りの計画が頓挫するところだったのです。何故って他の会員の誰にも食用キノコと毒キノコの区別などつかず、キノコを採ったところで危なくて食べられないからです。

駐車場に集合したメンバー達
すでに多くのキノコ採りの車が停まっていた
出発!

 キノコ狩り当日、集合場所の駐車場に到着すると思ったより車が止まっていました。割と大きな駐車場なのですが1/5ほども駐車スペースが塞がっているでしょうか。そんな中、今回同行をお願いしている山田さんと根がかりの斎藤さんは既に到着していました。その山田さんによればここに止まっている車は全てキノコ狩りの車だと言います。そんなにキノコ狩りに来る人がいるとは私には俄かには信じ難い事だったのですが、駐車している車の中には山田さんの顔見知りの車も相当数あるようで、どうやら本当のようです。
 川上さんが簡単な挨拶して、ペンギン隊(子供達とその保護者)と大人隊に分かれてさっそく出発です。駐車場から林道へ向かうショートカットの踏み跡を下っている途中、山田さんは名人の名にたがわず、早くもキノコを発見したらしく踏み跡を外れガサゴソと藪に分け入っていきます。他のメンバーはそれを横目に先に進みます。

 舗装された林道に出ると、半分枯れかかっていますが紅葉した山肌が目に入りました。「ん〜汚い色だけど撮っておくか。この辺りの紅葉はもう盛りを過ぎているから、この先これ以上いい色の紅葉にお目にかかれるとは限らないんだし…。」と素早く数回シャッターを切ります。カメラを仕舞おうとすると、レンズ前面に装着したフィルターが外れずレンズ・キャップを付けることが出来ません。そんなこんなで思わぬ時間を食ってから(とは言ってもほんの1、2分ですが)歩き出しました。と、何たることでしょう。前方に誰も居なくなっているではありませんかっ!林道は100mほど先で90度曲がり、川を横切って対岸を走っている道路に繋がるのですが、その見晴らしの良い林道の右を見ても左を見ても誰の姿も見えません。根がかりのエース斎藤さんがいるとは言え、いくらなんでも歩くの速過ぎです。「おっかしいな。撮影している間対岸の道路は誰も歩いていなかった筈。ならば、橋を渡って右のダムの方へ行ったのかな?」とダムの方へ行ってみますが、こちらは明らかに違います。…と言うことはつまり、出発してものの10分で、しかも1本道のところで皆とはぐれてしまったのでした。

紅葉に染まる山

 途方に暮れていても仕方ないので、皆が行ったと思しき方向に向かって写真を撮りながらゆっくりと追いかけます。(皆、健脚揃いですから写真を撮りながらではとても追いつけませんので、焦っても仕方ありません。)
 写真を撮りながら歩いていると山田さんが追いついてきました。採ってきたキノコを見せて貰うと、分厚い身の大きなヒラタケが袋に入っていました。夏に三面で採ったものとは全く違います。後日談になりますがこのヒラタケ、お土産として家に持って帰りヒラタケご飯にして頂いたのですが、ひっじょ〜に!美味でした。近所のオバチャンに試食させたら「家にいるおとうちゃんに食わせてやるんだ。」とか言われ、お櫃に残ったヒラタケご飯を全て強奪されたほど激ウマでした。(笑)山田さんありがとうございました。

キノコを採る山田さん ナメコ
ムキタケ

 どうでもいいけど、駐車場の車の数が示す通りここはかなりの人出です。キノコのポイントと思しきところ(私には良く判りませんが)には大抵人がいます。
 それに次から次へひっきりなしに車が通ります。道幅が狭いのでぼんやり歩いていると引っ掛けられそうで危ないです。普段なら閉まっているゲートが今日は開いているようです。こんな事ならば、ペンギン隊と別行動にすることはなかったようです。車で入れるのなら1時間の林道歩きが無くなる訳ですから、子供が山の中を歩きまわれるかどうかは判りませんが、少なくとも駐車場の近くよりは収穫の期待できる核心部の近くまで、労せずして行けた訳です。

 歩きながら山田さんは時々「対岸のあの木の根元の所、なにか茶色くて丸いものが付いていない?あれナメコだと思うんだけど…。」と私に聞きますが、目の悪い私に見えるはずもありません。…と言うか、恐らくは”キノコ名人”でなければ見えないのではないかと思います。
 駐車場を出発して1時間余りも歩いた頃だったでしょか、山田さんがまた対岸を指差して「おっ!あそこにナメコがあるな。」と宣います。そろそろキノコ採りを始めなければ集合時間までに戻れなくなってしまいますから、今が頃合というものでしょう。
 藪を掻き分け川岸に出ると、対岸の藪に漕ぎ入る人影が見えました。どうやら篠原さんとナベちゃんのようです。大声で呼びかけますが彼らは気が付かない様子。川を渡った向こう側ですので結構距離がある事ですし、追いかけても仕方が無いので、ここは山田さんが見つけたナメコに向かいます。

エノキダケ

 山田さんの後にくっついていくと、ありました!ナメコとムキタケが立ち枯れた木の根っ子から顔を覗かせています。でも、根っ子にビッシリ!というほど生えている訳でもないので、更なるナメコを探して収穫地の横を流れる沢沿いに遡っていきます。が、この沢は水量がチョロチョロで幅が狭いくせにやけに谷が深く、ナメコが生える倒木が全くありません。暫く遡っても様子が変わらないので「こりゃダメか…。」と判断し引き返すと後から追いかけてきた山田さんが「この先にナメコが生えているはずだから登って。」と云います。実は山田さんはこの沢に数年前に入った事があり、その時にナメコが生える倒木を見つけていたのでした。この辺りは山田さんの庭だったのです。(笑)
 大汗をかきながら(この日はドピーカンで異常に気温が高かった)えっちらおっちら沢を遡ること暫し、沢の水が切れかかる頃、先行する山田さんが倒木に生えるナメコを発見しました。今度は先ほどより数はありますが、スーパーで売っているような小さなナメコが結構あるので、採るのに手間が掛かる割には袋は中々膨らみません。
 ようやくこの場所のナメコを全て採り終えて一息つく間もなく山田さんは「それじゃキコノを探しながら稜線まで出て、それから戻りましょう!」と元気一杯です。大した距離を登った訳ではないのですが、ここに来るまででかなり消耗してしまった私は、遥か彼方に見える稜線を見て「あんなとこまで行くのかよぉ〜?」とげんなりしてしまいました。そもそも稜線を越えて向こう側は奥只見の核心部、原生林が広がる人跡稀な地です。本格的な源流行ならばともかく、レクリエーションのつもりのキノコ狩りでそんな所まで行くなんて事はこれっぽちも考えていませんでした。名人のやることはさすがに違うというところなのでしょうか…?

ツキヨタケ

 山田さんの後を追いかけ、水の無くなった沢を外れて稜線を目指しますが、落ち葉が分厚く積もった山肌を登るのは、安物のナイロン・ウェーダーではツルツル滑って困難です。傾斜もかなりキツクなってきていますので、うっかり足を滑らせ滑落でもしたら少々の怪我では済まないかもしれません。
 休憩も兼ねて靴を履き替える事にし、遠く離れた山田さんにちょっと待ってくれるように声を掛けます。靴を替えて顔を上げると50mほど先で腰を降ろしていた筈の山田さんが居なくなっています。「えっ、なんで居なくなってんの…?」と驚く私。どうやら、山田さんは少しでも早くキノコ採りをしたくて待ちきれなかったようです。稜線目指して登って行ったのは判っていますが、真っ直ぐ行ったのか右か左へ巻いたのかまでは判りません。大声で山田さんを呼んでも木霊すら返ってきません。つまり、またしてもはぐれてしまったのでした。
 無闇に山田さんの後を追いかけるよりも、戻ったほうが得策と判断し(足がガクガクでもあるし)、もう一度ウェーダーに履き替え来た道を戻り始めました。
 先程ナメコを採った倒木のところで一休みしていると、ホイッスルの音がかすかに聞こえてきました。私が中々来ないので心配した山田さんが呼んでいるようです。私も返事をしますが私の声は山田さんには聞こえないようです。徐々にホイッスルの音が近づいて来ますので山田さんも下っているようです。暫くして声の通じる距離になり、程なくして再会することが出来たのでした。ヨカッタ、ヨカッタ。

初冬の山

昼間採ったキノコを料理して、宴が始まった

山の恵み
ペンギン隊
ヌメリイグチ
美味しくないキノコ
抜けるような青空にブナが突き上げる
雪に閉ざされる長い冬を前に、葉を落とし冬篭りの準備
殆ど葉の落ちた森に、小さな紅葉が輝く
山は冬の装い
静かに冬将軍を待っている
ブナハリタケ
森の中を探し回り、ようやく見つけた
この山は若い山のようで倒木が少なかった
枯れ沢沿いの倒木に、誰にも見つからずにひっそりと生えていたナメコ
ナメコ
スーパーでお目にかかるナメコと違い、天然物は傘の直径が10cmにもなる
ヌメリイグチ

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