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福島県 袖沢

2004.5.29〜30


根がかりクラブ 川上さん、大室さん、斉藤さん、細矢さん、原さん
フリー      小林さん、清水さん、堀内さん
渓道楽      篠原、荻野






Text & Photo 荻野 典夫

 「おぎんちゃん、5月末、袖な。」川上さんにそう言われたのがひと月前の関越道赤城SAでのこと。山菜教室の帰りで上機嫌、いつものように酩酊状態でサンダルもふっ飛ぶ様なおぼつかない足どりを介護しながらトイレまでついて行く道々での会話だった。
 そして今期初の渓泊り釣行に胸躍らせ宇都宮の仲間を集い出発も翌週に迫ったある日、なんと今回の袖沢釣行は根がかりクラブの合同釣行だと判明するのだった。

 当日5月29日早朝。袖沢の車止メで根がかりクラブのみなさんと挨拶を交わす。行き先は違うとは言うものの、何故か宇渓会の渡部さんらも登場して渓道楽とその友人たちは場違いの我が身に緊張がいっそう高まるのだった。

 袖沢は奥只見屈指の渓で林道こそ有るもののアプローチは徒歩。釣り人が多く入る南沢、北沢はまだしもミノコクリ沢となると片道6時間、本流御神楽沢となれば更に時間を要する。またこの時期の袖沢林道には雪が残り北沢を過ぎたところには大デブリが待ち構えていると言う。川上さんが一緒だろうが、根がかりの先鋭が居ようが歩くのは自分の足である。さてさて、どうなる事やら・・・。

 大室さんがペースメーカーとなり車止メを後に只見川へと下る。只見川本流を渡渉して林道へと這い上がる。山葡萄の芽がそよ風に揺れて出迎えてくれる。南沢に架かる橋を渡る頃には背中のザックも馴染んで来て周囲を眺める余裕も出て来た。左に袖沢の流れを、足元にはコゴミ、ふきのとう、ウドが、そして遥か頭上には走るような雲の切れ間から青空が覗いている。70%の降水確率など何処に行ってしまったのか上々の天気だ。


 小休止を挟みながら快適に歩き北沢の合流を過ぎる。いよいよ大デブリの登場だ。まさに林道を覆い尽くしデ〜ンと構えた様子に圧倒される。アイゼンを着け一歩一歩慎重に進む。途中で立ち止まり袖沢を見下ろす。ちょっとした油断で足でも滑らせたら一気に袖沢の白濁して奔走する流れに飲み込まれてしまう。
 自然と腰が引けてくる。「怖い怖い。」なるべく流れを視界に入れないように顔を背ける。アイゼンの歯の雪に喰い付く音がリズミカルに響く。大デブリを越えて砂利道に立ちやっと緊張が解ける。


 雪に覆われたトンネルをくぐり抜け取水堰堤に到着。小林さんと原さんが一発大物狙いで竿を出すのをみんなで眺めながら一息。原さんの竿に尺上岩魚が喰い付き歓声が上がる。二匹目のドジョウ狙いで川上さんが竿を出すが不発に終わった。

取水堰堤を釣る 原さんに幸先良く尺物が来た


 歩く事5時間、ミノコクリ沢を見下ろす橋を渡り御神楽へと進む。総勢10人が泊まるテン場を探しながら歩くが良い場所が見つからないままデブリに行く手を塞がれる。地形図と睨み合いながら川上さん、斉藤さん、細矢さんが協議している。お供の渓道楽とそのお友だちはお気楽に一息入れて協議結果を待っているだけ。結局、先に進んでもテン場は無いだろうと決まり林道を引き返す。本流脇にテン場を見つけてザックから解放されたのが出発から7時間後だった。

新緑に萌える渓を水は永久に流れゆく 今夜の宿は残念ながら林道沿いだ


 手早くテン場を設営してビールで到着を祝う。タープの下でマッタリするも良し、竿を片手に岩魚を狙うも良し、各々自由な時間を過ごす。釣りに行く根がかりクラブのみなさんを他所に尻に根が生える渓道楽。「おぎんちゃん、釣って来いよ!」という川上さんの攻撃をアルコールで防戦する午後を過ごした。

 焚き火に火が入った。渓宴会の始まりだ。一人、また一人と焚き火の周りに腰を下ろしカップを傾ける。20周年記念誌「根がかりの釣り」の特別版の様な会話に終始腹を抱えて時の経つのも忘れてしまう。川上さんから“岩魚寿司”を直伝される渓道楽。斉藤さんのにぎる握飯のようなシャリにちょんぼり乗ったネタの寿司に爆笑が起こる。調子に乗った斉藤さん、ネタも切れたと言うのに残りのご飯を全部酢めしにしてしまい翌日は酢めしチャーハンを食べる羽目になる。10時過ぎまで続いた宴会も終わりテン場は静かな闇となった。


 朝5時起床。川上さんが釣り支度をして上流に消える。ピンアイゼン装着時の岩場遡行テストを兼ねた釣りなのだろう。負けじと私も竿を片手に下流へと向かう。川上さんがいる上流を避けたのは川上さんと一緒の時に釣れた試しが無いからだ。水量も多く白濁した流れに入ることも出来ず川通しは不可能でピンポイントの釣りとなる。林道から良さ気なポイントを見つけては下降して竿を出しハズレを引いては駆け上がる。そんな釣りにいい加減イヤ気が差して来た時に運良く岩魚が釣れて納竿の言いわけにする。

 午前中は釣りをしたりテン場周りで山菜を摘んだりして過ごし、昼を回った頃にテン場を後にした。帰りの林道は各々のペースで歩く。私もコゴミやアブラコゴミを採りながら歩いて来た。只見川からの登り返しでいつしか重くなったザックに喘ぎながら車止メに到着した時、漸く降水確率70%の雨が降り出した。


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