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新潟県信濃川水系
2005/05/21


保岡(フリー)、
高野(渓道楽)






Text & Photo  : 高野

 例年ならばGWには初釣りを済ませているはずだが、今年は例年にない大雪が降ったために1ヶ月遅い自主解禁となってしまった。そうなると岩魚はともかく、山菜が心配である。いつもはコンビニの袋が2つ3つ一杯になるくらい採れるが、今年はどうだろうか。そんな心配をしながら、入渓地点へと急ぐ。
 昨年(2004年)の新潟県中越地方が未曾有の災害に襲われたのは、皆さんもご存知の通りである。夏の集中豪雨に始まって、新潟中越地震。そして何十年ぶりかの大雪。まさに踏んだり蹴ったりのむごさ。その傷は地震から半年たった今でも癒えていない。
 すでに何度も走ったことのある通いなれた道。舗装も綺麗で、そこそこのペースで走ることが可能だったはずだか、今年もそのつもりで飛ばしていったら、いたるところで道路がうねっている。何箇所かは工事中で片側通行。雪の降る長い冬は復旧工事もままならず、春になって雪が融けたのを見計らって直し始めたのだろう。早く普段どおりの生活ができるようにと切に願う。

 道路はそんな感じであったが、夜明けには見慣れた景色の車止めに着くことができた。しかし、そこにはすでに着替え始めている先行者の姿が・・・。
私:   「おはようございます。釣りですか。」
先行者:「ああ。」
私:   「どちらに入るんですか?」
先行者:「○×沢」

やっぱり・・・。

私:   「どこから入ります?」
先行者:「下から。」
私:   「・・・」
なんだか不機嫌そうな返事しか返ってこなかった。どうやら低血圧の釣り人らしい。

 道路があるわけでもないので、間を空けて上から入るというわけにもいかない。2時間も歩けば入れないことも無いのだが、雪で埋まっていない保障はどこにも無い。仕方が無いので以前入ったことのある小沢に入渓することにした。
 今回のメンバーだが、私と保岡さんの2人である。いつもの相棒の中村は急な仕事で来れなくなってしまった。
 保岡さんは渓流釣り経験数回だが、岩井又沢の泊まり釣行も経験しているし、今回の沢なら全く問題ないだろう。

 着替え終わった我々は、夜明けの薄明の下、林道をテクテクと歩き出した。

 林道に入ると伸びきったコゴミが目に付く。やはり遅すぎたようである。それでもタラノメやコシアブラをほんの少し採りながら、小沢入渓点にやってきた。

 さあ、待ちに待った釣りがこれから始まる。期待に胸を膨らませながら、最初の落ち込みに投げ込んだ。しかし、当然のごとく何の反応も無い。何時間も歩いて辿り着く源流ではないのだから当然か。小さな沢で簡単に入渓できるのだから、魚も釣り人には敏感になっているのだろう。

 交代で竿を出しながら行くが、ちっともアタリが無い。以前入ったときもそんなに釣れなかったので、こんなもんだろうとは思っていたのだが正直ガッカリである。

 やがて左岸から沢が出合ってくる地点を過ぎ、しばらく遡行した落ち込みで、ようやく初めての岩魚が来た。
 岩の下に流し込んだ仕掛けを聞き合わせ程度に引いてみたら、ゴツゴツという岩魚独特の反応が出た。
「よしよし、ようやく来たよ〜」と保岡さんに教える。まだ活性が低いだろうと予想して、ゆっくり待ってから合わせると、綺麗な岩魚が飛び出してきた。
 8ヶ月ぶりの岩魚との対面に、弱らせないように水から出さないように注意して、何回もシャッターを切った。キープするには小さすぎたので、ハリを外してそっと水に返してあげるとユラリと流れに消えていった。

6寸くらいの幼い顔をした岩魚


 とりあえず1尾は釣れたので保岡さんを先行させて山菜にも目を向けたのだが、目に付くのはラッパのように葉を広げたコゴミばかり。ウルイはどうかとガケに目を向けるが、やはり葉が開いてしまっている。食べられないことは無いのだが、コゴミもウルイもクルクルと葉が丸まったものを食べたいものだ。ラッパコゴミの畑をかき分けて、なんとか食べられそうなのを見繕って採集して歩く。

 保岡さんは真剣に釣りをしながら遡っていくのだが、なかなかアタリが出ないで苦戦していた。渓流釣り経験数回では無理もない。水量もそれほどない小沢、ましてや釣り人も入っているだろう。警戒心の強い岩魚は手ごわかったようだ。

丹念に釣りあがる保岡さん
5月も半ばを過ぎたと言うのにまだ雪渓が残っていた ネコノメソウ
コゴミ
コゴミの草原を行く


 先ほどの岩魚が釣れて以来、またアタリが遠のいてしまった。山菜を採りつつ竿を出していくが、全然釣れない。
 待望のアタリが出たのは1時間も経ってからだろうか。落ち込みにある大きな丸い岩の下に強引に仕掛けを流し込み、思い切り糸を弛ませる。軽く張ってみるとククン、ククンとエサを持っていこうとする。
 釣れたのは7寸ほどの美しい岩魚であった。これはありがたくキープさせてもらう。

岩の下から引っ張り出した7寸岩魚


 上流部の二股を過ぎるとガクンと水量も減り、落ち込みも急になって渓はグッと高度を稼ぐ。上流部を見上げると空が近くなり、もう源頭も近い様子だ。この渓相と水量では釣りも期待できないだろう。朝飯を食べて大休止の後、山菜を採りながら下ることにした。

 渓から見上げると山は新緑に萌え、遅かった春を謳歌しているようだ。その美しい緑を真っ青な空がさらに引き立てる。この素晴らしい景色に、あまり釣れなかったことなど気にもならなくなってくる。

気が付くと源頭近くまで釣り上がっていた
萌えるような新緑と抜けるような青空 斜面に生えていたウド


 帰り道では崖によじ登ってウドを採り、ウルイを採り、丸まったコゴミを見つけ、なんとか一袋を一杯にすることができた。

 昼前に山を降りてきてしまったが、まだ帰るには早すぎる。本流にてヤマメを追加して馴染みの店に寄るとオヤジさんが出迎えてくれた。年に一度しか訪れない客なのに、丁寧なもてなしに恐縮してしまうくらいである。山や渓の話は尽きなかったが、帰りの道中も長いことだし、後ろ髪を引かれる思いで店を出て、家に向かって車を走らせた。車窓から振り返ると残雪輝く山々が青空に突き抜けていた。


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