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栃木県奥鬼怒川無砂谷
2005/05/28


高橋さん、須藤さん(渓雄会)
荻野(渓道楽)







Text : 荻野

 久々で渓に立った。身体がフワフワして全然安定しない。「こりゃ、転びそうだな・・」と思う傍からズルッと左足が滑った。生まれて初めて立ち上がった赤ん坊もこんな気持ちなのだろうなぁ・・・。
 春先からの野暮用で渓から遠ざかっていた。只でさえ体力とバランスの無い身体を誤魔化しながらのシーズンなのに、いきなりの日帰り源流行である。以前は日帰りも数多く行ったものだが最近では渓泊りの釣行の方が多くなっている。車止メの争奪から始まり、一日で渓を往復して来るせわしなさと重労働に年々回数が減っていたのだ。しかし、ほとほと街の生活に疲れ切った時にポコッと空いた一日である。贅沢は二の次で友人に電話を入れたのである。
 今回、同行してくれた友人は下野新聞のコラムを一緒に担当している渓雄会の高橋建司会長とその愛弟子の須藤 大くんである。高橋会長と私は同年同月生まれで“建ちゃん、おぎちゃん”の付き合いだ。
 行き先と集合場所を決めるのは朝飯前なのだが建ちゃんはフリークライム志向が強く滝を登る事に生きがいを感じる奴である。私は親の遺言で「無理はするな!」と言われている身であり妻と子供を愛するが故、安全遡行を身上としている。建ちゃんと行く渓に一抹の不安を感じない訳にはいかないのだ。「建ちゃん、滝は?」「あるけど行けますよ。」まあ、予想通りの答えである。「君は行けても僕はねぇ・・・」と声にならない言葉を飲み込んでの出発である。
左より、渓雄会会長の高橋さん、須藤さん、渓道楽 荻野

 さて入渓。いきなり冒頭の体たらくである。「こりゃ、身体が慣れるまで大人しく行こう。」と歩き出す。本流は前夜の雨で笹にごりである。建ちゃんはドバミミズ、私と須藤くんはブドウムシという布陣だ。
 支流との出合の淵は“如何にもポイント”であり早々に須藤くんが竿を出す。建ちゃんは支流に入り込み数段の落ち込みから岩魚を引き上げている。私もF1を右岸から越えていよいよ本番。5.3mの竿に2mの提灯仕掛けである。振り込む餌に岩魚が飛びつく。まさにそんな感じの一尾目を上げる。「う〜ん、小さい」(笑)
 3人が交互に釣り登る。渓は徐々に落差を加えて来た。F2は2段4mほどか。F2の主は6寸岩魚。左岸から越えて滝上に出る。落ち込みや小淵から小さな岩魚を抜き上げつつF3下へ。F3下でも小振りの岩魚を抜き上げて三人で苦笑の顔を見合わせる。
 さて、F3は6mの直瀑だ。左岸にトラロープが頼り無く垂れ下がっている。「おいおい、登るなんて言うなよな・・・」と不安な気持ちを目一杯瞳に込めて哀願ビーム発射!
「おぎちゃん、調子はどうだい?」「う〜ん、ちょっと身体が重いね。」(実はちょっとじゃないけど・・・)
こんな会話であっけなく左岸高巻きに決定。若手実力者の須藤くんは多少不満気。「おじさんは危険な事はしないのだよ、はははっ!」と高笑いしつつ高巻きルートへ取り付く。ところがこっちも楽じゃない。草木も生えないガレ場を四つん這いで30mほど直登して左にトラバース。頼り無い木の枝に命を預けて滝から都合50mの尾根に取り付く。息はゼーゼー、汗はダラダラである。下降は多少楽なものの急斜面、木の枝としっかり親交を深めながら再び渓に降り立った。建ちゃんはと言うと既に竿を伸ばして岩魚さんと仲良くしているではないか・・・この化け物め!

 今日の釣りは源頭近くの崩壊した林道まで詰上げて林道利用の帰還予定である。先を見ればまだまだありそうだ。交互に竿を出しながらも先を急ぐ。両岸に残雪が見えるようになると岩魚もまだ真っ黒である。こうなると釣欲も落ちる。数は出るものの小モノばかりの釣りに飽きて来て周りを見わたす。左岸は白い花を咲かせている二輪草畑、右岸はギャオス頭の葉っぱが伸びたヨブスマソウ畑だ。岩場には葉を開き切らないウルイが伸びている。晩酌の肴程度に頂いて歩く内に目指す林道まで辿り着いた。林道に這い上がり一息入れる。帰路、林道を小一時間のんびり歩きながらタラの芽を採る。
 さて、最後の一仕事。林道から支流出合い附近に下りるガレの斜面の直下降。高度差約200mの大半は手掛かりの無いガレ場である。下手をすれば自分の巻き起こした岩なだれに埋められてしまいそうだ。途中途中の木立に避難しては一人ずつゆっくり下って行く。只一人、建ちゃんだけは嬌声と共に飛び跳ね、駆け下っていたが・・・


この釣行記の本編はこちら
荻野会員のサイト「渓の呼ぶ声」http://www2.ucatv.ne.jp/~iwana.sea/

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