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福島県「あそこ」
2005/06/11〜12

三田村さん、ギルさん、岩國さん、渓児さん
高野(渓道楽)







Text : 高野
Photo : 高野&ギルさん

 「あそこ」とは福島県只見のとある渓。ネット仲間たちの呼び方として、すっかり定着している。その「あそこ」ツアーに久しぶりに参加することになったのだが、今年はみんなのスケジュールが合わないようで、5名しか参加者が集まらないのがちょっと寂しい。このツアー、最小催行人数が何人なのかは不明だが、とにかく開催されることになったのである。

 今回のメンバーはネットの仲間なので、ハンドルネームで紹介しよう。子供の頃から只見に通い、50cmオーバーの岩魚も数多くあげている”三田村さん”。三田村さんの親友で、写真も趣味の”ギルさん”。最近は渓道楽の斉田会員と源流に通い詰めている”渓児さん”。そしてはるばる岩手から参加の”岩國さん”。それと私を加えての5名である。それぞれ住んでいるところも違うので、全員が揃ったのは宇都宮駅前であった。

 深夜の道をひた走り、まだ夜も空けきらぬ「あそこ」に辿り着くも、1台の車が止まっているではないか。前回の件もあるので嫌な予感がする。早速、三田村さんがどこに入るかを聞きに行ったのだが、案の定「あそこ」に入るらしい。渓沿いにはずっと道がついているので、何時間か歩いて上流部に入るという手もあるのだが、ここらは豪雪地帯。あまり上に行ってしまうと渓が雪で埋まっている可能性が高いのである。我々は短い協議の結果、「あそこ」は諦めて「そこそこ」に入ることにした。

 そうこうしてるうちに夜が白々と明けてきた。空は曇っているが、幸い雨は降っていない。気温はかなり低めで肌寒いくらいであるが、遡行するにはちょうど良いくらいだろう。
 実はこの「そこそこ」、一度入渓したことがある。「あそこ」ツアーが初めて開催された年に、三田村さんらと入ったのだ。そのときは雪渓も早々に出てきて奥までいけず、あまり釣れなかったような記憶がある。果たして今回はどうだろうか。

 この渓もご多分にもれず、多くの渓と同様に入って直ぐに巨大な堰堤がそびえている。堰堤下で釣りをするのは釣趣が無いのは分かっているが、魚の溜まり場でもあるのでまずは竿を出してみることにした。
 ここで事件発生。三田村さんがザックを降ろすと「竿が無い」と言う。入渓したときにザックに刺さっているのを確かに見ていたので、どこかに落としたのだろう。今来た道を引き返して探しに戻っている間に竿を出させてもらった。
 堰堤下のプールをセオリー通りに手前から順に探っていくが、手前は留守のようである。そこで右岸を伝って奥の堰堤下に仕掛けを振り込んだ。すぐさまコツコツというアタリが伝わってくる。「お、来てる、来てる」と後ろで見物しているメンバーに伝え、軽くアワセをくれたのだが、すっぽ抜け。まだ鉤の所まで食っていなかったようだ。この溜まりは広いので、次は筋を変えて流す。するとすぐまたアタリが出た。今度こそと、待ち時間を長くしてクンっとアワセをくれた。するとなにやら重たい出応えが。「こりゃ良型だよぉ」と内心ほくそ笑んだ。引きからして9寸くらいはありそうだ。いつもの提灯仕掛けのため、急いで竿をたたんで岸に寄せると思ったよりデカイ! 「こりゃ尺はありそうだな」ギルさんがメジャーを当ててくれたら、32cmの尺岩魚。丸々として立派なお方が釣れてしまった。第一ポイントでいきなり尺物が出て、これ以上はないほどの幸先のよいスタートであった。

第一ポイントでいきなり尺が出てしまい、釣った本人が一番驚く
Photo by ギルさん

 余裕をこいて一服つけていると、皆ガシガシと堰堤を巻き始めた。こりゃ置いていかれると後に続き堰堤上に降り立つと、数年前に見た懐かしい景色が広がっていた。
 1尾釣ってしまった私は最後尾に着いてみんなの釣りを見学しながらも、目はキョロキョロと周りの様子を伺う。そう、ここは岩魚もちろんだが、それ以上に山菜の宝庫なのだ。最初に来たときはいきなり「ちょっと待った!」コールを掛けて山菜採りを始めてしまった私を、みんなは呆れて見ていたっけ。未だに語り草になっていて、当然のように「あのときは・・・」と今年も言われた。
 しかし、今年は雪が多かった割に暖かくなるのが早かったようで、コゴミはみんな開いてしまっている。それでも探せばあるもので、早速コンビニ袋にいくつか放り込んだ。

 私が寄り道をしている中、みんなは交代で竿を出しながら進んでいく。はじめは渋かったのだが、しばらく行くとみんなの竿に魚が掛かり出した。冷たい流れから良型の岩魚が飛び出してくる。すると魚を掛けた三田村さんが何か叫んでいる。「ヤマメが出ましたよ」三田村さんの元に駆けつけるメンバーたち。そこには美しいヤマメが居た。堰堤で本流との交流を絶たれ、小さな渓でDNAを受け継ぐ命。その大切な命を三田村さんはそっとリリースした。

静かに竿を出すギルさん

 みんなが岩魚を釣り上げる中、どうしても山菜が気になって仕方が無い私。コゴミやウド、コシアブラと豊富な山菜が前進を妨げるのだ。「帰りに採ればいいじゃないですか」と言われるも、我慢できずに次々とコンビニ袋に詰め込んだ。
 やがて目の前に見覚えのあるF1が立ち塞がった。2段になったF1は下が3m、上が6mほどだろうか。1段目の滝下でギルさんにヤマメが掛かった。こんなところまで遡ってきているのか。このF1がヤマメ留めの滝となっているのだろう。渓児さんは2段目の釜に竿を出すも留守のようである。

名人 三田村さん
この渓で生まれ育った美しいヤマメ


F1の2段目を登る私と待機する岩國さん
                              Photo by ギルさん
2段目の釜に竿を出す渓児さん

 さて、このF1を直登するのだが、2段目がちょっと嫌らしい。取り付きはそうでもないが、上に行くほど手がかりと足場が微妙になってくる。手足の長い人はこういうところで有利である。ギルさんや岩國さんなら届く場所も、私のような身長では厳しいのだ。決して足だけ短いわけではないと思うのだが・・・。

 F1をクリアし滝上に立った5人はポイント毎に竿を出しながら進んでいく。F1下にもスノーブリッジがあったのだが、奥に進むにつれ雪渓が多くなってきた。幸い崩れそうなほど薄いのは無いのでなんとか越えていく。渓は滑床となり岩魚の隠れ家が少ないのか、アタリが減ってきた。だが、それもそんなに長い距離ではなく、すぐに落差が増えて岩が多くなり再び釣れ出した。数的に一番釣っているのは三田村さん。さすが経験豊富な釣り人だ。
 釣れるたびに歓声があがり、釣った者はとてもいい笑顔になる。仲間とはいいものである。

 しかし先ほどから竿を出している私にはアタリが無いのはどうしたことか。やはり腕の差か? そんな私にようやく渓の女神がお恵みを下さった。2段になった落ちこみの上の段から9寸岩魚を引っ張り出す。この岩魚も美しい魚体だった。

岩國さん 渓を埋め尽くす雪渓

 それからしばらくすると渓全体を埋め尽くす巨大な雪渓が現れた。雪渓の落差と規模から考えるに、この下にF2の滝がまるまる埋まっていそうである。この先渓が開いているとは思えず、ここで引き返すこととした。みんな十分楽しんだようで、誰にも異存は無かった。

最後に釣った9寸

 さて帰り道はもちろん山菜採りだ。それぞれが寄り道をしながら沢山の山菜をゲットしていく。ウドを採ろうと岩によじ登ったり、ウルイを採ろうとしてシマヘビに驚いたりしながらも、楽しく下る。しかし、その笑顔が恐怖に凍る場所に着いてしまった。あのF1である。登りというのは何とかなるものだ。目線の高さから上を見て手がかりを探せばいいのだから比較的楽だというのは、経験のある諸氏にはお分かりだろう。しかし、下るとなると下を見ながら足場を探すことになるもんだから、格段に難しくなるのである。もちろん熟練者であれば容易だろうが、私のようにフリーで滝を降りることがあまり無い者にとってはとても難しいことなのだ。

 まずはギルさんが先頭切ってクライムダウン。冬に足の親指を骨折しているギルさん、ちょっと辛そうで攻めあぐねている。それでも長身を生かし下りきった。次は岩國さん。最初はザイルを使って降りるつもりだったようだが、ほどくのに手間どっている間にフリーで下りてしまった。岩國さんの進歩はかなりのものである。で、次が渓児さん。手間取りながらも無事着地。問題は私。みんなのを見てる間に怖さが沸きあがってきた。前回苦労しながらも降りられたのに、今回は第一歩が出ない。足がかりが全然見えていないのだ。何をやってるんだか自分でも情けなくなるが、なんとか皆の指示に助けられて無事に降りることができた。最後の三田村さんは、あっけないほど簡単に降りてきた。

 ここを降りてしまえば難所は全く無い。心置きなく山菜採りを楽しむことができるのである。「ええっと、行きに見つけたコシアブラはどこだっけ」とか「確かこの辺りにウドが群生してたよな」とか、目玉のオートフォーカスモードを”山菜”に切り替えてピントを合わせると、見つかる見つかる。あっという間にコンビニ袋3つが一杯になった。

 時間はかなり掛かったが、もうすぐ退渓点だ。最後の川原ではマムシ君がお見送りしてくれた。このマムシ君を見て岩國さんが一言、「ギルさん、マムシも得意のマクロで撮ってよ」 これには全員大爆笑。写真に詳しくない人には何のことか分からないだろうが、マクロ撮影とはクローズアップで撮ることで、対象物の数cm手前まで近寄らないと撮れないのである。それをマムシでやれというのだから、ホントにやる人がいたら見てみたいものである。もちろんマクロ大王ギルさんの答えは「できるかっ、そんなこと!」であった。

 最後まで笑いの絶えない釣行だったが、退渓点から続く踏み跡はもう目の前にある。久しぶりのネット仲間との釣りはとても楽しかった。今晩はバンガローに泊まって渓の恵みで大宴会。まだまた楽しみは終わらないのである。












マムシ君がお見送り

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