[また雨か・・・]
今年の3連休は必ず雨に祟られている。前回7月のときは大石川に入るつもりで行ったのに大雨で追い返されて、結局キャンプ場泊りだった。そして今回の3連休も台風13号の影響なのか、天気は芳しくないようだ。
最初の予定だと梵字川に入るつもりだったのだが、本流を渡渉しないとならないので増水したら帰れなくなる可能性が高く、秋田の堀内か岩手の葛根田にしようかという意見もあったのだが、最終的に末沢川になった。末沢も荒川本流を渡って尾根越えで入るが、荒川本流には橋があるので帰れないということはないだろう。
今回は高橋さん、森さん、そして山田さんとの釣行。高橋さんとは2003年の八久和以来、森さんとは2004年の八久和以来、山田さんに至っては会の結成依頼のお付き合いなのだが、釣行するのは初めてである。山田さんの健脚ぶりは話には聞いていたので、今回は自分の目で確認できるだろう。
途中、バカナビ(所有者談)に悩まされながらも車止めに辿りついた。が、そこには今まさに着替えようとしている先行者の車が1台と、すでに前日から止められていると思われる車が1台いた。「やっぱ3連休は厳しいっすねぇ」と話しながら、我々も着替える。
6時過ぎに荒川と末沢川を分ける尾根へのルートに取り付く。今年は6月以来の山釣りで、体がナマりきっている。ゼイゼイ喘ぎながら踏み跡を辿った。周りを見渡せば巨大なブナが歓迎してくれ、なかには樹齢200年は経っているのではと思われる巨大なのもある。
急登に心臓が爆発しそうだったが、山田さんだけはスタスタと息も切らさず平然としていた。さすがスタスタ山田の異名を取るだけある人だ。私を含めた他の3名とは別の生物なのだろう。できるだけペースを落とすために倒木にキノコでも出ていないかと探しながら行くが、サルノコシカケのようなのや、場クサレたキクラゲくらいしかなくガッカリ。
ゆっくりと休み休み登っていくと、ようやく周囲が明るくなり尾根に着いた。残念なことにこの尾根は見晴らしが悪い。それでも木々の間から銀色に輝きを放つ荒川本流や、山の深い切れ込みを蛇行しながら流れる末沢川をはるか下に望むことができた。ここまで深く渓を刻むのに何万年掛かっているのか知らないが、水の力には畏怖の念をいだかずにはいられない。そんなことを考えながらも、一休みののちに今度は急斜面の下降に入る。登りで酷使した脚は力が入らず膝が笑っている。
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尾根から荒川方面を望む
随分と登ったものだ 写真中央付近に白く輝くのが荒川の流れ |
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上の写真のアップ
朝日を受け銀色に輝く水面 |
尾根に着いて一息入れるメンバーたち |
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清々しい空
木々の間から秋空と聳え立つ山々が見えた |
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山を深く削り取り、末沢川は流れ下る
山肌と時を刻む永遠の流れ |
登ったと思ったら直ぐに下る
登山と違ってゴールは頂上ではない |
急激な下りが次第に脚の力を奪っていく |
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今回のメンバー
左から高橋さん、山田さん、森さん |
もう少しで渓に着くかというところで、下からチリンチリンと熊避けの鈴の音が聞こえ、ほどなく3人組の釣り人が現れた。
「こんにちは。釣りはどうでしたか?」と聞くと、「全然でしたよ。雑誌に出ていた方たちですよね?」と言われる。雑誌?どの本だろうか?あんまり出てはいないのだけど。
もう1台の先行者のことを聞いてみると、会ってないという。出発してから気になっていたテン場の状況は「空いてましたよ」と聞き、ホッと一安心。末沢川と柴倉沢出合のテン場は狭いので先に取られていると泊まれない可能性がある。テン場が空いていたということは先に出発した人はどこに行ったのだろうか。荒川本流を釣っているのか?
まあ釣り人は我々以外にいないということが分かったので、3日間渓を独り占めできる。これは嬉しい誤算だった。
3人を見送り、最後の急斜面を枝に掴まりながら下降すると、そこはもう柴倉沢だ。水量はそれほどなく、小さな支流である。ただ両岸は切り立っており、登れるルートは限られている。今は水量は少ないが、ひとたび大雨が降れば遡行など出来ないほどの沢と化すのだろう。しばらく下ると末沢川の本流に出る。出合の台地にテン場を作り、一休みののち釣りに出かけた。
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ようやく辿りついた柴倉沢
水量の少ない小さな沢だ |
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本流出合のテン場はもう直ぐだ |
[美しい岩魚たち]
末沢川のこの区間は意外と開けていて釣りやすい。大場所は無いのだが、落ち込みは沢山ありポイントは絞りやすかった。だが、水量は少なく、魚の出は良くない。今回は全員エサ釣りで、山田さんはカワムシをエサにしていた。他の3人はミミズだ。
最初しばらくはアタリも無かったのだが、小さな落ち込みで私の竿にアタリが来た。いつものようにミミズのちょん掛けなので、しばらく待ってアワセたのだが、すっぽ抜け。かなり食いが浅いようだ。「アチャー」と気落ちしたが、また来るかもと同じところに再度エサを入れる。すると期待どおりにもう一度食ってきた。今度はバラさないようにさらに待つ。バシっとアワセると8寸の綺麗な岩魚が上がってきた。あれだけ待っても口に掛かっていた。7月以来の岩魚だが、あのときは「これぞ放流物」という魚体だったので、美しい源流岩魚は6月の女川以来で、しばし見とれる。1尾釣れたので他のメンバーに先を譲り、しばらくは撮影に専念しシャッターを押しまくる。
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白点の大きな末沢の岩魚
下流からの遡上ものだろう |
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高橋さん |
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森さん |
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山田さん |
その後しばらく誰の竿にも掛からなかったが、森さんが沈黙を破った。落ち込み際の大岩のエグレにデカオモリでドーンと沈め、泣き尺岩魚をゲット。美しい宝石を散りばめたような模様の岩魚に、森さんも大喜びだった。
森さんが釣った後はポンポンとアタリが出だした。ただ全体的に食いは浅く、バラシも多い。山田さん、高橋さんにも来て、一通り釣ったので、私も再び仕掛けを投入。
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皆、思い思いのポイントを釣っていく |
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森さんの釣り上げた泣き尺岩魚
今回釣れたのは、ほとんどが白斑の大きな遡上ものだった |
岩魚を持つと釣り人は皆、満面の笑みを湛える |
釣りあがるにしたがって、渓はだんだんと険しくなり、家ほどの岩の転がる渓相となってきた。竿を伸ばしたままで遡行はなんとかなるものの、岩を乗り越えるのが大変になってくる。行く手を阻む巨大な岩はもともとあったのだろうか。それとも上流から転がってきたのか? こんな大きな岩を転がすほどの水の流れとは想像を超えている。そんな状況のときには絶対に渓の中には居たくないものである。
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開けた渓相は終わり、末沢は巨岩の転がる渓へと姿を変えた |
やがて渓は滝を掛けて直角に曲がり、エメラルドグリーンの深い淵を作っている地点に辿りつく。右岸から森さん、左岸から私が竿を出すも、滝壺は沈黙したままだった。
時計を見ると1時近くで、そろそろ腹も減ってきた。ほとんど寝ずにここまで来ているので体力的にもしんどいし、山田さんの話だとこの先いくつかの滝が掛かりゴルジュになるらしいので、テン場に引き返すことにした。先ほどから雨もポツポツ降っている。濡れるほどではないのだが、空は雲に覆われてハッキリしない天気である。昼飯を食って一眠りしたい誘惑に駆られて急ぎ足で渓を下る。
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底が見えないほどの深い淵をはべらせる滝 |
テン場の直ぐ前まできたとき、下からテンカラを振る釣り人が遡ってきた。おそらく私たちよりも一足先に出発した3名だろう。どのルートで入ってきたのだろうか? 私たちの知らないルートがあるらしい。
山田さんが話しを聞きに行ったので、我々はテン場の台地に上がっていると、その3人は柴倉沢を遡り始めた。山田さんから聞いたところによると、全然釣れなかったらしく、なんとこれから帰ると言う。泊まり装備のデカいザックを背負い、その3名は上流に消えていった。
[板長、高橋さん]
テン場に戻れば釣り以外の楽しみ宴会が待っている。実は今回のメンバーには高級料亭の板長、高橋さんがいる。岩魚よりも板長の作ってくれる料理のほうが楽しみだったりするのである。食材はまとめて買っておいてくれるということだったので、何をご馳走してくれるのかは今の今まで知らなかったのだが、なんとスキヤキだそうだ。料理の下手な私などはチャチャッとレトルトの食材で済ませてしまうことも多いので、今から晩飯が楽しみで仕方ない。他には釣った岩魚で揚げワンタンも作ってくれるらしい。
高橋さんと初めて一緒に行った栃木の大蛇尾川で食べた米沢牛のステーキは忘れられない味であった。あのときは川上さんも一緒だったなぁ。その川上さんも今はもうこの世に無く、三途の川の源流を遡行しているのだろう。川上さんとの思い出話にも花が咲く。もうすぐ一周忌、月日の経つのは早いものである。
高橋さんが岩魚を捌くというので見せてもらうが、その手際といったら当たり前だが素人の出る幕じゃない。板長様様である。包丁も重たいのに立派なのを持ってきていた。「普段使ってるのですか」と聞くと、パートのオバチャンのを借りてきたらしい。普段使ってるのは1本7万円もするやつだそうだ。そりゃ渓には持ってこれないなぁ。高い包丁は全てが鋼でできているそうで、切れ味も落ちないといった話も聞けた。安いのは真ん中だけが鋼で、両側は軟鉄だそうで切れ味が全く違うらしい。仕事を通しての付き合いとは違った話を聞けるのも、釣りクラブの良いところである。話がそれたが、あっという間に3尾の岩魚は3枚下ろしにされて、ワンタンの具になるべく細かく切り刻まれてしまった。
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鮮やかな包丁捌きは、さすが板長
遅いシャッタースピードでは包丁の動きを捉え切れない |
岩魚をワンタンの皮に包む森さん |
雨が降り出しそうな空模様なので、早めに焚火を起こす。「焚火なら任せてちょ」と私が皆で集めた薪に火をつける。たいした取柄もない私だが焚火を起こすくらいなら大丈夫。少しはみんなの役に立たないとね。
赤々と燃え上がる焚火。原始の渓に燃える炎は、ここに人間のいる証である。焚火も出来たし、これで3割損をしないで済んだというものである。
渓の夕暮れは早く、深く切れ込んだ渓底は下界よりも一足早く闇に包まれる。暗闇を赤々と照らしてくれる焚火はテン場には欠かせないものだ。
日も暮れたところで焚火のそばに陣取り、宴の始まりだ。まずは岩魚ワンタンを揚げる。初めて食べる岩魚ワンタンは何もつけなくとも絶妙の塩加減でパリっとした歯ごたえが良く、とっても美味かった。そして今夜のメインのスキヤキである。割下も板長特製で美味! あ〜、この釣行記書いてたら思い出した。腹が鳴るぅ〜!
降りだしそうだった雨も宴会中は降らずにいてくれて、久しぶりに楽しい渓の夜を満喫できた。
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渓に焚火の炎が揺らめく |
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ゆっくりと渓での時間が過ぎていった |
夜中の2時頃だろうか、タープを叩く雨音で目を覚ました。たまに飛沫が顔に飛んでくる。明日はこのまま雨なのか? だとしたら嫌だなぁ・・・。なんてことを考えながら再び眠りに引きこまれていった。
[予定を切り上げて]
夜中に降った雨も明け方には止んでいたが、相変わらず雲の多い空でどんよりとしていた。渓から見える尾根には低い雲が掛かり、この先天気が悪い方へと変わっていく予感がする。ほんとうなら2泊の予定だが、雨の中の尾根越えをやりたがるメンバーはいるはずもなく、今日下界へと戻ることに異議を唱えるものはいなかった。
今晩のカレーの具となる食材を板長高橋さんがトン汁にしてくれて、さらにマッシュポテトのサンドイッチまでも強引に腹に詰め込んだ後、テン場を片付け末沢川を後にした。2泊が1泊に減ってしまったが、綺麗な岩魚も釣れたし、美味い料理も食えたし、十分満足できた釣行だった。
今シーズンも数回しか渓に行けなかったが、事故も無く遊べたのは川上さんや斉藤さんが見守ってくれていたからかもしれない。彼ら偉大な渓の先輩たちのためにも、体力が続く限り渓に通い続けよう。それが供養になると信じて・・・。
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