以前から渓道楽の釣行記を見ていただいてる皆さんにはおなじみの「あそこツアー」が今年も例年通り開催された。
このツアーは元々はオフ会として2000年から始まったものだと記憶している。現在は顔馴染みのメンバーが「日本吸盤協会」主催のもとに集まる釣行となっている。
今年も日本吸盤協会の怪長、副怪長、銭無(肩書きないんだっけ?)の3名と、久しぶりに参加の瀧友会のHARAさん、去年も参加したmalmaさん、そして、私の6名が集まった。
住んでいるところもバラバラの6名なので、現地集合なのはいつものとおり。私は副怪長と2人で出発。あ、よく考えて見たら私も渓道楽の副会長。副つながりであった。
途中で怪長、malmaさんグループと合流して、現地には3時過ぎに到着。すでにHARAさんが単独で到着していた。HARAさんはどうやら私らがコンビニで買出ししているときに追い抜いたようだ。そしてすぐに銭無も遠路はるばる到着。
これで全員が揃ったので入渓点へと移動した。
すでに空は明るくなりはじめていた。
最近は「あそこ」も人気があるようで、先行者がいるときも多い。
今回も残念ながら先行者あり。
しかたなく別の渓「そこそこ」へと入ることにして、久しぶりの渓装備に着替えた。
HARAさんとmalmaさんのコンビはもっと上流へ入ることにしたので、ここは4人で入渓である。
滑る斜面をずり落ちながら渓へと降り立つと水が少ない。川床には茶色いヌルがへばりつき、最近雨が降っていないことを思わせた。
渓は静まり返って、あまり生き物の気配が感じられない。
それでも4人は遡行を始める。
ここは山菜が豊富な渓で、岩魚だけではなく山菜も楽しめるところだ。
しかし、昨年(2007年)のツアーでは山菜が伸びきっていて、あまり採ることが出来なかった。今年はかなり雪が降っていたので豊作だろうと春の声を聞く前から期待していたのだが、4月の気温があまりに高くて、あっという間に雪が消えてしまった。ここも同じだったようで、コゴミ等は採りごろをとっくにすぎてしまってガッカリだ。
以前だったら6月2週でバッチリのタイミングだったのだが・・・。
そんなガッカリ気分もあったのだが、気を取り直して仕掛けを繋ぎ、竿を振る。今年はテンカラにしてみた。去年からはじめたテンカラだが、黒部でボウズを食らってしまい、実はまだ1尾も釣ってない。アタリすら経験無しなのだ。
今年こそテンカラで待望の1尾をと思って持ってきたのだが、広々した「あそこ」に入れなかったのは誤算だった。
こちらは狭い渓なので結構木が被さり、テンカラ初心者にはほとんど振り込めない所ばかり。他のメンバーの釣りを指を咥えながらの遡行が続く。
しばらく行くとヒンヤリとした冷気が流れてきた。これはもしかすると・・・。案の定、雪渓がドーンと構えている。雪が消えるのが早かったのに、あるところにはあるんもんだ。
ここは左から巻いて通過する。
早速雪渓の洗礼を受ける
何度もこの渓に入っている怪長によると、
この位置に雪渓があるのは初めてとのこと |
雪渓を通過してからもなかなか魚信が出ないまま時間だけが過ぎていく。
しかし、ついに怪長の竿にアタリが来た。待望の魚に皆が駆け寄る。大きさは6寸ほどだが、宝石のような斑点を持つ美しい岩魚だった。
「こんなの恥ずかしいから写さなくていいですよ」と謙遜する怪長。
でも、誰かに1尾釣れると気合が入る。しかし私はテンカラ。相変わらず振り込めないような場所ばかりだ。
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型は小さいながらも美しい岩魚だ
この渓で生まれ、この渓で育った命 |
そこから20分も釣りあがると見覚えのあるF1に到着。2段になったF1は直登するのだが、2段目が嫌らしいのだ。上に行くと手がかり足がかりが少なく、油断が出来ない。
今年は特にヌルが多く、滑る滑る。いつもよりさらに慎重に乗っ越した。これでは帰りが思いやられる。
F1を越えて「さあ、これからだ」と期待がかかるが、あいかわらず釣れない。魚が走るのは見えるので、居なくなったわけではないようだが、水が少ないときの釣りは源流でも難しい。
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渇水の渓を釣りあがる
奥=怪長、手前=副怪長 |
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F1が見えてきた
魚信が少ないため、小場所も丁寧に探っていく |
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いつも変わらぬ姿で出迎えてくれるF1
2000年に初めて来た私は、今では皺も増えたし、白髪も増えた
しかし、F1は全く変わっていない
地球の時間は我々とは違っている |
そしてまた雪渓が行く手をふさいだ。今度のは先ほどのよりもヤバそうな感じ。幸い左側は1段登れば土の上を歩けそうだ。
4人は全く知らなかったのだが、このとき岩手は大変なことになっていた。M7.2の「岩手・宮城内陸地震」が8時43分に発生したのだ。
私たちは全く感じなかったのだが、写真のメタデータを見るとまさにこの雪渓を越しているときである。震源から離れていて助かった。岩手や宮城では渓流釣りや山菜採りで山に入っていた人が、いまだに行方がわかっていない。運が悪ければ私たちも同じ運命だったかもしれない。
ちなみに、なんと渓道楽の岩田顧問らが岩手で釣りをしていた。後に話を聞いたところ、地震が起きたときは「めまい」かと思ったそうだ。しかしゴーっという地鳴りとともに落石が発生。そのがけ崩れは先頭に居た顧問と同行者との間であったそうで、仲間は死んでしまったかもと思ったと言う。幸い全員が無事で、急いで車に戻り、林道に落ちていた石をどかしながら、命からがら宿に辿りついたと語ってくれた。
発生から1週間以上経ってしまったが、行方の分かっていない人全員が、なんとか救出されることを願ってやまない。
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慎重に雪渓を越えていく銭無
彼は去年のあそこツアー以来、一度も竿を出していないそうだ
心なしか今年は元気がなかったように感じられる
ムードメーカーの彼には人一倍元気でいてもらいたいものだ |
はるかな高みから落ちてきた雪が
渓を塞ぎ光を奪う
膨大な量の雪が固められたV字の渓
.まさにこのシャッターを切ったとき
岩手・宮城内陸地震が起きていた
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雪渓を越えて振り返る
少しずつ流れに削られ雪は水へと返っていく |
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次々に現れ行く手を塞ぐ雪渓
たかが雪と侮るなかれ、その重さは何トン、何十トンにもなり、崩れれば命をも奪う |
さて、そんな大変なことが起こっているとは露知らず。4人は先へと進んだ。
全然竿を降れない私は、ついに痺れを切らせてエサ釣りにスイッチ。割り切ってエサ釣りの仕掛けなど持ってこなかったので、皆さんにいろいろと分けてもらって、テンカラ竿に勝手知ったるいつもの仕掛けを付けた。
竿がペニャペニャで柔らかいが、とくに問題なく振り込むことができるようになった。
さあ、これからだぞ!と気を取り直し前方を見ると、ちょうど良い落ち込みがある。怪長が「あそこは居ますよ。たかさん、やってください」と薦められ、言われるままに竿を出すと・・・、
クックッというアタリが出た。「よっしゃ、絶対釣るぞぉ」とじっくり待ってアワセをくれると、ギュイーンっと竿がしなる。いつもの硬調の竿であれば、これだけ曲がれば尺オーバーは間違いないのだが、なにせ柔らかいテンカラ竿である。いったいどのくらいの大きさのが掛かっているのか見当も付かない。まあ、それほど大きくはないだろう。しかし抜けるかどうかも分からないので、慎重に岸にずり上げる。
「うん、まあまあの型じゃないの」
釣れたのは9寸ほどの美しい岩魚だった。
嬉しくて写真をバシバシ撮っていると、直ぐ上の落ち込みで釣っていた怪長の竿が大きく曲がっているではないか!
「やられた!」
釣れたのは尺を越える岩魚だった。
「怪長、ここにいるの知ってたんじゃないの?(笑)」
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テンカラを諦め、エサ釣りにスイッチして出た岩魚
悔しいが仕方がない
テンカラでの釣果はおあずけだ |
堂々たる尺岩魚を釣った怪長 |
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立派な尾びれを持つ、この渓の岩魚 |
ここから先は、今までのことがウソのように、ポンポンと釣れだした。
副怪長の竿にも銭無の竿にも岩魚が掛かった。
ようやく4人とも笑顔になって、嬉々として釣りあがっていく。
朝方は降ったり止んだりだった天候も、しだいに青空の占める割合が多くなってきて、燦々と陽光が降りそそぐ。
木々の緑も、明るく輝く水面に写り込み、山全体が元気を取り戻したように感じられた。
生命に満ち溢れる山のなんと美しいことよ。こんな素晴らしい自然の中で過ごせる私たちは、本当に幸せである。
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オオカメノキの花が咲く美しい渓
流れる水は原始の昔より変わらない |
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魚を追い込まないよう長身を小さく低くして釣る銭無
そして、それを見守る怪長 |
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静かに竿を出す銭無
1年ぶりの釣りで、なかなか調子が戻らないようだ |
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銭無の竿を出しているすぐ下から岩魚を抜く副怪長
良型に笑みがこぼれる |
そしてまた冬の忘れ形見の雪渓が現れた。今度のは相当薄くなっていて、今にも崩れそうだ。
怪長が偵察に行く。
「懸垂で降りればなんとか行けそうだけど・・・」とちょっと心配そうなことを言っている。
全員でその地点まで行くと、ぽっかり開いた穴があり、そこへ降りられそうである。しかしその先は再び雪渓が被さり、その下を抜けなくてはならない。
対岸へ渡ることができればいいのだが、雪渓の下はどうなっているのか分からず、下手すると落ちる可能性もあることは、皆が分かっていた。
結局細引きを垂らしてそれを頼りに下降し、ひとりづつ雪渓の下を静かに駆け抜けた。
上流から見るとスノーブリッジの中央は大きくえぐれ、渡らなかったのは正解だっただろう。
なんとこの雪渓の下にはF2が埋まっていたのだ。ひとつの滝が埋まってしまうほどの量の雪。上から落ちてきてここに溜まったとは言え、いったいどれほどの量の雪が降ったのだろうか。
豪雪地帯の名は伊達ではない。
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いくつめだろうか、また巨大な雪渓が行く手を塞ぐ
今度のはかなりヤバそうだ |
F2を隠した雪渓を越えると、アタリが減ってしまった。水量も乏しくなってきたのも原因だろうか。
それでも我々は進む。
F3の釜に銭無が竿を出すもアタリ無し。
小さめの岩魚はいるのだが、良型が来ない。
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F3の釜に竿を出す銭無
後ろで皆が「竿をためるくらいのが掛かれ!」と見守っている |
そしてまた雪渓。今度のはスノーブリッジが落ちていたので、すんなり通過できた。
しばらく歩くと特徴的な滝が現れた。F4である。
何度か入渓しているが、ここまで来たのは初めてで、ちょっと感動した。
それにしても面白い形をした滝である。もともとあった滝の上に巨大な岩が転がり落ちてきて、こういう滝になったのだろうか。
怪長によると、ここにはいつも岩魚が溜まっているとのことだが、残念ながら今日は留守のようだった。
ここまで登ってくると稜線も近いのか空が大きく開けていた。
崩落していた雪渓
これが全部消える頃には何月になるのだろう |
特徴的なF4から水が流れ落ちる
ここまで来ると水量も少なくなって
稜線が近づく
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時間もお昼近くなって、そろそろ下山しないと待ち合わせに間に合わなくなる。
じゅうぶん釣ったしこの辺が潮時だろうと、両側の崖に沢山生えているウルイを採っていると、崖に鳥の巣があるのを見つけた。
「副怪長、鳥の巣があるよ。」
「ホントだ、全然気がつかなかった。踏んづけなくて良かったぁ」
鳥の巣をいろいろな角度から写真に収めていると、副怪長が「ちゃんと庇のあるところに作ってるんだね」と言う。なるほど言われたとおりに、ちょっとだけ張り出しのあるところに巣を掛けている。小さな動物も知恵を絞って、次世代へと命を繋ぐ工夫をしているのだなと感心した。
その後、ゆっくりと腰を下ろせる場所で昼飯を食べ、結構な時間を掛けて車へと戻った4人。携帯の圏内に入ったとたんに、私たちを心配する沢山のメールが来て、岩手で大地震があったのことを知るのだった。
何という鳥の卵か分からないが
この渓でしっかりと生きている |
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F4の両側にはウルイが沢山生えていた |
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コゴミを入れるだけで旬が味わえる
ただのカップラーメンも渓で食べると格別だ |
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退渓点にモリアオガエルの卵があった
親は見たことがないが、卵はよく見かける
木の上に卵を産むという珍しい習性
これも次世代に命を繋ぐカエルの知恵なのだろう |
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青空の下、解散前に記念撮影
左から私、副怪長、malmaさん、HARAさん、怪長、銭無、ペンギン隊隊長、副隊長
また来年もここに集まろう! |
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