「ガンガラシバナ」 源流釣りをする者たちの間では、この名を知らぬものは居ないだろう。その姿は天空より連なりて、数百メートルにもおよぶそのスラブは見るものを圧倒するという。
ガンガラシバナは新潟県川内山塊・早出川・今早出沢の源流部にある。そこへは室谷からの山越えルートが一般的だ。初日に今早出のテン場に行き、2日目にガンガラシバナまでピストンするのが一般的である。
我々もそれにならって2泊3日と余裕を持った日程を組んだ。
今回のメンバーは、古くからのネット仲間のHARAさん、渓児さんと、HARAさんの知り合いのsyuさん、長内さん、そして渓道楽の斉田さんと私の6名となった。ただ、syuさんと長内さんは都合により1泊である。
車止めにはsyuさんたちが先に到着している。我々は深夜に出発して夜明け前に室谷の車止めに到着した。車止めにはsyuさんたちの車のほかにもう1台止まっていた。これがなんと渓道楽の紺野君たち。これにはお互いビックリである。紺野君たちは同じ早出川でも、下流の割岩沢に入るとのこと。ということで全くの別行動だ。
さて、夜明けを待っていよいよ出発だ。朝露の残る杣道へと勇躍踏み込む。ここからは約4時間の行程で、沢を詰めて尾根を越える一般的なルートである。
沢を登っているとポツリポツリと天から雨粒が落ちてきた。早朝は晴れていたのだが、途中で雨が降り出してしまったのだ。早出は岩山の渓なので、降った雨はしみこまずに全て渓に流れ込む。だから水の出がとても早く、雨の様子によっては遡行できないかもしれない。しかし、テン場までは問題なく行けるので、とにかく前進あるのみだ。
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杣道は所々で不鮮明だった
沢を遡っても行けるから心配ない |
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所々でちょっとした難所がある
ここで渓児さんが滑落 |
沢全体が一枚岩でできているのかと思う
ような渓相だ |
通称 セミ滝
左側を樹木に沿って登れば大丈夫 |
最後の詰め上がり |
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残念ながら尾根の見晴らしは悪かった |
滑落時の傷
滑落といっても2mもないくらいだったから、擦り傷、打ち身くらいで済んだ。 |
はじめてのルートは先が読めないので疲れるが、どうにか4時間後には今早出沢の流れに立つことができた。
テン場に着いてタープを張ったところで大休止。というか雨が本降りなので釣りに行く気力が湧かないのだ。
もし、このまま明日も雨だったら、ガンガラシバナまで行くのは考えてしまうかも。
8月後半からどうも雨ばかりだ。8月末に行く予定だった釣行も大雨でお流れになるし、その前の子供とのキャンプもずっと雨。今回も雨で動けないなんてことになったら、泣くに泣けない。今年はこれが最後の源流になりそうなのだから。
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4時間ほどでたどり着いた今早出沢
このときは結構雨が降っていた |
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一休みしてテン場へ向かう
今回は下降点より数百メートル上のテン場を使った |
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さて、うだうだしてるうちに雨は小降りになり、気にならないくらいになってきた。ここで腰を上げないと、このまま宴会に突入してしまいそうだ。そこで渓児さんと斉田さんと3人で早出の岩魚に挨拶に行くことにした。
今早出の流れは減水気味のようで、場所によってはほとんど流れが無いようなところもあった。そして水も温く浸かっていても全然冷たくないのだ。夏場は水が止まっているほどだと聞いたが、まさにそのとおりであった。
そのため釣りもとても厳しいもので、岩魚がいるのは見えるのだが、全くエサに興味を示さない。酷いのになると流したエサを避ける奴までいた。これじゃお手上げだ。まさか人も通わぬ源流で、ここまで釣れないとは思ってもいなかった。今までも釣れないことはあったが、それでも数尾は出たものだ。良型は出なくともチビは結構釣れるものというのが、今までの経験だったのだが・・・。
初めて訪れた早出の渓。そこは東北の渓のように腐葉土に覆われた森の渓と違って、岩山主体の渓だった。流れに洗われた岩は様々な色や形をしていて、雨に濡れた渓はことのほか美しかった。これほど様々な色の岩がある渓も初めてだ。赤い岩、青い岩、緑の岩・・・。それらが流れに洗われ、磨かれて、多様な表情を見せてくれる。
そして、この上流にはガンガラシバナが聳え立っているのだ。
果たして、明日はガンガラシバナを見ることができるのだろうか・・・。
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雨の降る中、釣りに出かける
早出川の岩魚は釣れるだろうか |
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なんとか釣った1尾
正面から見るとユーモラスな顔つきだ |
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焚き火が燃え出し、夕闇が迫る
この時間が心地よい |
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次々と料理が出てくる |
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【ガンガラシバナへ】
幸いなことにその後は雨は降らず、夜には星も見えるほどに天気は回復した。
今日はガンガラシバナまで行けそうだ。syuさんと長内さんは6時前に一足先に出発した。何せ彼らはガンガラシバナを見た後に、今日中に車止めまで帰るのである。
そして極めつけは、去年のキノコにも参加してくれた「あっちゃん」が、なんと車止めからガンガラシバナ日帰りをやるという。すでにこちらに向かってるはず。まったくスーパーな人たちである。
我々4人はとてもそんな体力は無いので、今日1日かけてテン場からガンガラシバナへのピストンだ。写真を撮ったり釣りをしたりしながら行くつもり。
さて、テン場でまったりと朝飯の用意をしていると「おはようございます!」という声が聞こえ、あっちゃん登場。まだ暗いうちにヘッ電点けて登ってきたらしい。
syuさんたちは一足先に出発したと聞き、一休みしてすぐに追いかけて行った。まさに超人。どんな心臓してるのやら・・・。
我々は8時くらいに出発した。
雨に煙っていた昨日の渓と違って、今日は青空が広がり最高の遡行日和。
雄大な景色の中を進む4人。数時間先にはガンガラシバナの素晴らしい眺めが待っているはずだ。
水は少ないので遡行には全く問題ない。
途中に入ってくる支流や大きな滝壷にちょっかいを出しながら行くも、全くアタリは無い。これはどういうことなのか? 水が少ないからか、水温が高いからか・・・。
まあ、こんなときもあるだろう。
片道3時間もあれば着くと聞いているが、河原をひたすら歩くのは結構しんどい。こういうことは滅多にすることがないから慣れてないのだ。いつもなら竿を出しながら行くから、時間的には歩いてても距離はたいしたことないし。
まあそれでも写真を撮りながら、皆でわいわい遡行を続けた。
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目がさめると青空が広がっていた
これならガンガラシバナまで行ける! |
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後発組
左からHARAさん、渓児さん、斉田さん |
出発! |
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巨岩の転がる渓を右へ左へ乗っ越していく |
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何という山か? 不思議な造形だ・・・ |
緑の写り込む鏡のような淵を横目に、どんどん歩く |
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水は素晴らしく澄んでいる |
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30mの淵を行く |
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やがて上流から戻ってくる人影が見えた。syuさんたちだ。
「お疲れさま〜」
「もうあと20分くらいで着くよ」「ほんとに凄い眺めだよ」
などと情報交換。
syuさんたちとはここでお別れだ。
さ、あともう少しだ!と気合を入れなおして先を急ぐ。先ほどまで青空だったのだが、灰色の雲が湧いてきた。
頼むからガンガラシバナに着くまで晴れててくれよ。
やがてそれらしき岩山が見えてきた。それが一歩一歩近づいてくる。渓が右に曲がったところを抜けたとき、ガンガンシバナがドーンと目の前に広がった。
「これが、そうか・・・」
「すげぇ・・・」
皆、一言目のあと二の句が継げない。
ひとしきり感動に浸った後にカメラを取り出し、シャッターを切りまくった。
今まで見てきた場所とは異質の渓。それが早出川今早出沢ガンガラシバナ・・・。
ガンガラシバナを眺めながら昼飯を食べた。
名づけてガンガララーメン!(中尾さん、この名前をメニューにいかがすか?(^_^;))
雄大な景色を眺めながら食べるラーメンは、とてもインスタントとは思えない美味さだった。
食べ終わってからガンガラシバナの真下まで行ってみた。見上げるような大スラブ。何万年、何十万年もの年月を掛けて出来上がった風景。素晴らしい!
この風景の前では人間のなんとちっぽけなことよ!
4人は時間が経つのも忘れて、雄大なガンガラシバナを眺めていた。
私はこの素晴らしい光景を決して忘れることはないだろう・・・。
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良さそうな場所には竿を出して行くのだが・・・ |
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横滝
巨大な甌穴が見えた
ここは右岸を巻いて突破 |
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青空の下、そよ風に吹かれながら遡行する |
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エメラルドグリーンが美しい
岩魚がゆっくりと出てきて、また岩陰に戻っていった |
この滝も右岸を巻いた |
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少しずつ高まる期待 |
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それらしい景色になってきた! |
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ついに来た! ガンガラシバナ・・・。あまりの雄大さに圧倒される。
去年訪れた黒部に勝るとも劣らない風景だ。 |
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斉田さん |
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私 |
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HARAさん |
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ガンガラシバナへと釣り上がる斉田さん。 |
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凄い高さだ・・・ |
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はるかな高みより流れ落ちる水が、1点に集まってくる |
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この圧縮された岩の重なりはどうだ! これぞ、まさに地球の歴史そのものだ! |
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渓児さんが行く。この対比でガンガラシバナの雄大さが分かるだろうか? |
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ほんのちょっとだけ登ってみた。
どんどん登れそうだが、降りられなくなりそうな気がして止めた・・・。 |
帰り道の30m淵を行く渓児さん |
今早出のテン場に、今日も盛大な炎が揺らめいた |
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