【ジッピで僕も考えた】
源流のイワナ釣の世界を知ってから、いつしか山の本や地図を買いあさるようになっていた。当時は地図というと昭文社の山と高原地図を買い、朝日連峰や飯豊連峰や尾瀬・越後三山、鳥海山、または北アルプスのそれを見ていた。地図を見ているだけでも楽しく道路の無い渓を探しては、憧れを抱いていた。そんなある日、登山店で見つけたのが瀬畑雄三さんの「魚止めの滝シリーズ」のビデオだった。そのうちの1本に「妖谷・早出川」が有った。ビデオを見たとたんに僕の心はこの渓にグッと魅せられてしまい、同時に川内・下田山塊って何処なんだ?聞いたこと無いぞと思った。幸か不幸か百名山から外れたからか?この山塊は山と高原地図は出ていなく、それまでまったく知る事はなく、日本にもまだこんな所が有ったのか!と思ったのを思い出す。またこの地に付いている地名にはガンガラシバナやジッピ、虚空蔵鼻などが有り秘境度を増してくれているようにも思える。そんな事も手伝い僕の中では早出川の秘境度は格別な存在になっていて、強い憧れを持つようになっていた。でも、峠越えで入渓するこの渓の行きかたが解らず、行きたくても行けない渓だった。そしてある日、手にした本。豊野則夫さんの源流のイワナ釣りガイドで一の又越えのルートが紹介されているのを発見した。「これは行くっきゃないだろう!」と思いルート図だけを頼りに行ったのが最初だった。以来、数回訪渓したが、道に迷って辿り付けなかったり、アブの襲撃に一日テンバで何もせずにすごしてみたり、コーヒー色の川の流れを1日見ていたり、今では色々な思い出が有る渓になっていた。今回は僕にとっては2回目のジッピを目指す事になる。前回はジッピで記念撮影までしたもののデジカメを濡らして壊してしまい、メディア内臓だった為、写真も取り出せなくなってしまった苦い思いでもある。
メンバーは大野さんと鈴木君と僕の3人。そして車止めでは偶然にも高野さん斉田さんご一行の方達や、岩と魚の目の会の掲示板でお馴染みの方々とお会いした。朝に軽く挨拶を交わすと皆さんは、ガンガラシバナを目指していった。僕らは皆さんの後を追うように、いつもよりは朝早く出発出来たような気がする。
一の又越えの峠を越え、今早出川を下り今出に着く、高台のテンバを覗くと以前見たときよりずいぶん小さくなっていた。最近ではちょっと上流の左岸のテンバが使われることが多いようです。そっちの方が快適ですが激しい増水の時には遠慮したいテンバなので、念には念を入れて高台にテンバを構える。が、今回の3日間を振り返るとこの念の入れようは見事に外れたかな。
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一の又を遡る |
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テンバが出来れば早速、釣りに向かう。今日はテンカラを振るが、早出川水系の沢は水面近くがほとんど岩で構成されていて、テンカラを振るのに障害物がほとんど無く、おもいっきり竿を振れる。5.4メートルの竿を振るが、ラインとのバランスが悪いのか今一つラインが伸びきってくれない、と言いつつも長年このまま使っているバランスで僕自身それ程気にはしていなかったりもする。これでも釣れるし駄目な時は素直に諦めるし、最近は鈴木君もいるし、僕は釣り下手でもいいかなと思える。しかし、なんですが鈴木君はテンカラ初心者のはずなのですけど・・・。最初の3匹位までは僕も互角に釣っていたと思ったのですけど、さっきから僕より釣っているな!いつの間にか、爆釣モードに入っていた。しかも竿さばきを見ていると、小気味がよく上手い。以前、フライフィッシングのビデオを見たときに見たような動きをしている。皆、その理屈は知っているのだろうが、なかなかここまでの竿さばきは見たことがない。
しかしなんですが、堀江&紺野の師弟コンビはそんな鈴木君の前でテンカラ談義、
掘「源流の場合、毛鉤なんて何使ってもそんな変わんねーかんな!」
紺「毛鉤は目立てば、目だったほうがいい!竿は長いほうがいい!それで竿が振れないようなポイントは、俺はパスしちゃうし!」掘「あんまり竿が長すぎても、1日振ってらんねーかんな!」
紺「なに言ってんすか!堀江さん1日竿振ってることなんて、無いじゃないですか!竿持ってる時間よりコップ持ってる時間の方が長いんだから!」
掘「わっはっは、そー言う事だ、源流の岩魚は腕じゃなくて足で釣ると!」
なんて話ををさんざんしてきたのだから笑える。
大野さんも今日はテンカラに挑戦しているが、こちらは苦戦している様子だった。おそらく大野さんの方が普通なのだと思う。そして大野さんにもついにきた、そして大いに盛り上がる。今回の割岩沢は久々に楽園と言う言葉が思い浮かぶ位にたくさんの岩魚を見ることができる。1日目の釣りは皆それぞれに楽しみ、幕を下ろした。
2日目、今日はいよいよジッピへのアタックとなる。朝9時過ぎに今出を出発する。←遅いか〜!出発予定は8時だったが・・・、←これでも遅いか〜!昨日、釣りをした場所までも、今日は今日で岩魚が走ってくれる。さらにその先では、更に多くの岩魚が走ってくれる。夕沢出合では、まだ一時間ほどしか遡行していないにもかかわらず、竿を持って人間が走ってしまった。果たしてジッピまでたどり着けるのだろうか?と時計が気になるが、メンバーも岩魚も微笑が続く。
このまま1日釣りをしてしまってもいいかなとも思えてきたので皆に相談してみると、「ジッピには辿り付きたい!見てみたい!」と言う意見でまとまったので再び遡行に専念する。
走る岩魚に「居た!居た!」「釣りてぇ〜!」「デケー!」と歓声をあげながら、変化し続け見ていて感動してしまいそうな地形の中を進んでいく。僕はこの遊びを始めてから日本と言う国の自然の見方が変わった。日本にもまだまだこんな所が有るのだ、と思わせてくれた最初の渓が早出川水系だったと思う。こんな秘境ムードが漂う渓も一度道路が1本通ってしまうと、台無しになってしまうのかもしれない。僕は最初にも書いたが、地図を見ながら道路の無い渓、道路から離れた渓を探してしまう。それは道路があることによって渓は変わってしまうからだ、これ以上の開発が進まない事を願いたいと思う。
目の前に開けた空間が広がり、その先にそれは見えてきた。「ジッピだ!」
時間は12時を過ぎていたのでここで昼食にする。今日の昼食はラーメン、出てきたのは醤油が2個に塩が1個??食担の鈴木君は釣りは上手いが・・・。大野さんが言う「とんこつと、味噌とかだったら、とんこつ味噌ラーメンになったんですけどね」「がっはっはっは!」笑いは絶えない。
昼食後に再び竿を解禁すると、遊んでいるのか遊ばれているのか再び楽園のような釣りとなる。そして、いよいよジッピを目の前にしてその淵の中に1歩ずつ進んで行く。急激に深くなり足なんて到底届かない深さになる。目の前の穏やかな淵が砂に埋まる事なくこれほどの深さを保っているのだから、増水時の激しさはそうとうなものだと思い浮かぶ。
そして、いよいよジッピの中へと泳いで入った。泳いでみてあらためて思う、これほど長く高く狭く深いゴルジュの壁が続いている地形なのに、その流れはいたって穏やかで泳ぎが出来る人なら、ただ単に泳いで進めてしまうのだから、奇跡に近いような地形に思える。水中眼鏡を持ってきていた大野さんは、その水の中をちょっとだけ覗いたそうですが、怖いと言う感想を語っていた。ジッピの上もまだまだ魅力的な渓が続き、この先に魚止めが有るのですが今回はここまでで引き返す。
帰りにあたっても皆口々に「また来たいですね!」と言っていた。いつになるかわかりませんが、今度来た時は更なる上流を目指してみたいと思った。
ジッピが見えた! |
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神秘的なジッピ |
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紺野会員の個人サイトはこちら 別バージョンの割岩沢釣行記があります!
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