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 新潟県 女川
  2011/06/04〜05



  田辺、斉田、高野(渓道楽)




Text&Photo: 高野

息を切らせて急坂を登りきると、尾根に飛び出して一気に視界が開けた。
息を整え顔を上げると、右手には白く雪をかぶった朝日連峰の峰々。左は同じく雪の残る飯豊連峰が雄大な稜線を見せている。
ここは山形県と新潟県の県境にある蕨峠。いにしえから塩の道として使われていた峠道だ。また一昔前までは、ぜんまい採りたちが使っていた道でもあるらしい。
我々が目指すは女川。山形県から新潟県を流れる荒川の支流で、中流部には険しいゴルジュをなす渓だ。
蕨峠越えは中流部の険しいゴルジュ避け、一気に女川上流部に入渓する一般的なルートとなっている。

その蕨峠を越えていく今回のメンバーは渓道楽会長の田辺さん(ナベちゃん)と渓道楽でもっとも源流に通う男、斉田さん。そして名ばかり副会長の私の3人だ。この3人の組み合わせで源流に入るのはたぶん初。
しかし、私と斉田さん(コンビ名はタカアンドサイ)は、降水確率100%! 今までに行った先で雨に降られなかったことは無い。またその降り方も尋常でないことも多く、とんでもない濁流と化してしまうことも多かった。
この週末の予報は晴れのち曇り。もしかしたら初めて雨が降らないかもしれない釣行となるかも。

重い荷物が少ない体力をどんどん奪っていく。暑さに喉もカラカラでペットボトルが空になりそうだ。この道の途中には水場が無い。
このままだと途中で水切れしそうな勢いだった。
暑さにヘバって休憩のために座り込むと、どこからともなくブヨが大群でやってくるのだからたまらない。
「おいおい、大勢で来るなら今流行りの山ガールにしてくれよなぁ。」
「山ガールがこんなマイナーなとこ来るわけないだろ〜。」
「やっぱそうだよな。でも首に白いバンダナ巻いた、やたらと体格のいい山ガールなら、その辺にいるかもよ。」
「え、マジかよ。いないだろ今日は。」
「いるよ、だってそこに大きな糞が落ちてるじゃん。」
「・・・」
そう、稜線の道にはツキノワグマの落し物がいくつかあったのだ。

そんな話をしながら稜線を行くと、辺りに松の木が目立ち始める。もうすぐ下りに入る目印だ。急な下りに膝が笑いだし踏ん張りが利かなくなったころ、ようやく女川の流れへと降り立った。
すぐさま高台のぜんまい小屋跡にテンバを設営し、釣りへと出かけた。























 蕨峠からの眺め。
 青空と新緑、そして遥か遠くに見える
 残雪の峰々
























そま道を行くとイワカガミがたくさん咲いていた。
その姿は可憐で美しい。


























 蕨峠の道沿いには素晴らしい原生林が
 広がり、立派なブナがたくさんある。
 ブナたちは何百年も前から、
 ここを通る人々を静かに見守っている。

雲間から陽光が燦々と降り注ぎ、かなたには雲海も広がっていた。

林道が崩れていて1時間弱のアルバイトをしなくてはならず、普段よりもキツイ行程だった。
やっと女川の流れに降り立ちガッツポーズ!


今年初めての東北の渓。私たちは竿に仕掛けを繋ぎ、ゆっくりと伸ばしていく。深山には遅い春が訪れ、木々は新緑の衣をまとって瑞々しく萌えていた。降り注ぐ陽光が踊る流れはキラキラと輝いている。

良く見ると駆け上がりに岩魚がゆらゆらとエサを追っている。しかし雑なアプローチでその岩魚を追い込んでしまう。
気をつけながら静かに近づき仕掛けを振り込んでも見向きもしない。こんな時期なのにもうスレているのだろうか。

源流と思えない難しい条件の中で、最初に釣りあげたのは、やはり斉田さん。彼は釣りが上手い。今までも数々の40cmオーバーを釣りあげている。
女川の岩魚は明るい体色をしていてとても美しい。斉田さんはそっと鉤を外して流れにかえしてあげていた。

続けてナベちゃんにも良型が掛かった。これもまた斉田さんの岩魚に負けず劣らずの美しさだ。
斉田さんが、女川の清らかな流れに第一投

ナベちゃんも駆け上がりから慎重に釣って行く。

斉田さんが掛けた!

苦労後の1尾に思わず笑顔になる。


女川の岩魚はとても美しい!



その後もナベちゃんと斉田さんの竿は何度か弧を描いた。しかし、私の竿だけは沈黙・・・。
前回の入川のときもそうだったなぁ・・・。
疲れもあってなんだか面倒くさくなってきた(笑)
こうなるとアプローチもますます雑になって、もう全然ダメダメ。
そんなわけで私は一尾も釣れないまま、白沢の出合に着いてしまった。
「あ〜あ、なんだかなぁ〜」
ちょっと沈んだ気分で白沢に入る。
左から白沢が出合う。
























 またまた斉田さんが良型を釣りあげる。
 これは29cm。泣き尺だ!


悩みながら釣り上がっていくが、アタリはあっても鉤に掛からない。
しかし、落ち込み下流に苔むした大岩がある渕で、ようやく私の竿にも岩魚が掛かった。
釣ったというより釣れたといった感じで、イマイチ納得いかなかったが、岩魚の美しさはみんなと同じだった。
結構大きかったのでメジャーを当てると、30cm! やったよ尺だよ。
前回の入川での泣き尺といい、今年は大きいのが釣れるなぁ。まあ数は出ないけどね・・・。

その後もしばらく釣り上がったのだが、私の竿には2尾目は来なかった。
ここでふと頭に浮かんだこと、
「一期一会って良く言うけど、私の場合は一渓一尾だな。うん、これからそれで行こう」
とりあえず一尾釣れれば満足だ。一渓一尾。これでいいのだ。
やっときた!
お、結構いい型なんでないの!?
ようやく釣れた一尾。
しかも今年初の尺物だ!



テンバへの帰り道は岩魚以上に楽しみな山菜を採りながら歩いた。コシアブラがたくさんあったのは発見だった。前に来た時はあまり山菜知らなかったしなぁ。蕨峠では「女川に降りちゃうとコシアブラ無いんだよねぇ」なんて話してたのだ。それから、とっても立派なウドも採れた。
さあ、これで今夜のおかずが豪華になった。山菜のてんぷらを楽しみにしながらテンバへと急ぐ3人だった。

やがて日も落ちてうっとうしいブヨもいなくなり、お楽しみの焚火タイム。
入川では雨のためにあきらめた焚火だったが、女川では盛大にやることができ大満足。
そして疲れから早々と夢の世界へと入ったタカアンドサイ。でも夜中にタープを叩く雨音で目が覚めた。
降水確率100%は女川でも維持されたのだった。
汗ばむくらいの初夏の日差しに、ウチワカエデの若葉が萌える。

























 食べごろのウドを見つけた!
 今夜の食材がまた一つ増えた。


























テン場への帰り道の湿地で見つけた
モリアオガエルの卵。
大自然の中で育まれる命たち。
























採れたての山菜。
渓で食べるならこれだけあれば
十分だ。

タラノメ、ウド、アブラコゴミ、
山ブドウ、コシアブラ

























 赤々と燃えあがる炎。
 女川のテン場を明るく照らしてくれ。

たんなる通り雨だったようで、幸い朝には止んでいた。
左からナベちゃん、私、斉田さん。


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