HOMEBACK
  山梨県 大武川
  2014/08/16-17


  斉田、高橋、平澤、高野(父)、高野(子)







Text & Photo : 高野

「えっ、高野さん、翔平がいないよ!」
後席から高橋さんの驚いた声が響く。
「そんなバカな〜。下に落っこちて寝てるんじゃないの?」
「いや、いない。」

ここは林道の車止め。深夜の道をひた走り、林道のゲート前に車を停めたときの出来事だった。
今回の釣りには久々に息子の翔平を連れてきた。
翔平は小学校低学年の頃から、釣りバカの親父に源流に連れ出されている。

「どこ行っちゃったんだ。」
走ってる途中で車から落ちたかという考えも一瞬頭をよぎるが、ドアも無い3列目シートからは、それもあり得ない。
最後に翔平と話したのは、さっき寄ったコンビニ。
「翔平、朝飯と昼飯買うから、降りるぞ。」
「眠いから、適当に買っといて。」
まったく反抗期の中学生は、なにやるんでも「メンドクサイ」だからなぁ。
なんて思ったのを覚えてる。

ってことは買い出ししてる間に、黙ってトイレにでも行ったんだな。
それに気付かず出発しちゃったわけだ。
よく観光ツアーとかでバスに乗せ忘れて出発しちゃうってのがあるけど、まさか自分がやっちゃうとは。
しょうがない、戻るか。

ぶっ飛ばしてコンビニに着くと、外のベンチにポツンと座ってる翔平がいた。
「置いてちゃってゴメンな。でもトイレなら一声かけろよ。」と言われて苦笑いの翔平だった。
それでも、置いて行かれた本人が意外に平気にしていたのには、ちょっと驚いた。翔平は小さい頃からハプニングにも動じないんだよなぁ。さすが末っ子だ。もし自分が同じ年頃だったら不安で泣いてたかも(笑)

再度車止めに着いてしばらくして、雨が降り出した。やがて夜が明けてきても雨音は結構激しく聞こえていた。
が、外に出てみると雨は止んでいる。どうやら木の下に車を停めたので、枝葉からのしずくが屋根をたたいていたようだ。
そうとわかって一安心。早速、着替えを済ませて出発だ。
予定では2時間も歩けば入渓点に辿りつけるはず。
今回の渓は山梨県を流れる大武(おおむ)川だ。例によってここも新規開拓の渓である。
さて、今回は当たりか外れか、どっちだろうか。

林道を2時間ほど歩くと堰堤工事の現場に着いた。林道はここで渓に降りている。
見るとほとんど自然に返ったような道が、まだ先に続いていた。
「まだ先に行けるかな。」
「とりあえず行けるとこまで行っちゃおう。」

5人は立派な林道から外れて先に進んだ。
ところが、100mも行ったところで崩れて進めなくなってしまう。
結局、誰が掛けたともわからないトラロープを使って、急な斜面を渓に降りることになった。
「こんなことなら、素直に林道を行けば良かったよ・・・」

まずは楽チンな林道歩き。
山を見ると雲に包まれて、今にも降り出しそうな空だ。


























 林道が終わって踏み跡程度の道になる。
 倒木をまたぐ翔平。

すぐに道が崩れて進めなくなった。
トラロープを伝って渓へと下降する。


渓に降りると両岸は切り立ち、大岩の転がる山岳渓流といった面持ちの流れが現れた。
大武川は落差もあり険しそうな渓相だ。
まずはテン場を探しながらだが、この渓相だと増水したら帰れなくなりそうなので、できるだけ安全なテン場がいい。
見上げる空は相変わらずどんよりとして、今にも降り出しそうな様子だった。
この夏は増水による遭難事故も多発しているから、あまり奥にテン場を取るのはやめたほうがいいかもしれない。
そんな話をしながら行くもいい場所がない。
「こりゃ林道終点が一番良いテン場だなぁ(笑)」
「安心だけど趣も何もないな。」
悩みながら進むと、右岸に良さそうなところを発見。
かなり高くなっていて増水時も安心そうなので、ここに決定。
整地して寝床を作って、まずは乾杯だ。
翔平も特に問題なくここまで来られた。アラフィフのおっさん達よりも体力的にはずっと上だろうから、当たり前か。

雨のせいで出発が遅れて、もう少しでお昼だ。降ってないうちに昼飯を食べて、それから釣りに行くことになった。

降りたところで一休み。
あとはテン場を見つけなければ。

この渓の感じ・・・。
大雨降ったらヤバそうだ。

さ〜て、腹ごしらえも終わったし、釣りますか。
高橋さんはテンカラオンリー。
前回の釣りでテンカラ開眼して、これからはテンカラ一本で行くつもりかなのか・・・。
「いやぁ、前日飲みすぎちゃってさぁ。餌釣りの仕掛け作ろうと思ったんだけど、二日酔いで下向くと気持ち悪くて、仕掛け作れなかったんだよ。」
「アハハハ、そういうことか。」

渓相は落差も大きく、まさに山岳渓流。
おかげでポイントも一目瞭然で釣りやすい。
「こりゃ、爆釣かなぁ」
と期待に胸が膨らむメンバーだった。
























テンカラで攻める高橋さん。
はたして前回の再現となるか。

翔平にも竿を持たせる。
以前にもイワナやヤマメを釣ったことはあるが、まだまだ経験が浅い。
思ったように振り込めない。


しばらくは真剣にやっていたが、すぐに飽きてしまったようだ。
こちらは高橋さん。
何度も毛鉤を振り込むも、なかなか出てくれない。

斉田さんは餌釣りで。
しかし、餌にも出が渋い様子。
う〜ん、やはり山梨は激戦区か・・・。

ごらんのように渓相は素晴らしい!
水も平水のようだし、いれば食ってくると思うのだが。



遡行してどんどん高度を上げていくも、アタリは無い・・・。



















 お、翔平やったじゃん!
 と言いたいところだが、
 これは私が釣ったアマゴ。
 イワナの渓かと思ったら、アマゴの渓だった。

 アマゴを釣ったのは何年ぶりだろうか。
 ひょっとしたら10年ぶりくらいか。

 アマゴは渓の宝石ともいわれるだけあって、
 本当に美しい。

型は7寸強であったが、塩焼き用にキープした。

斉田さん(奥)と平澤さん。
何度も釣行を共にした、気心の知れた仲間たち。

素晴らしいポイントが連続するのだが、アタリが全くない。
斉田さんも6寸程度のアマゴを釣りあげただけだ。
ここにきて、とうとう雨が降り出してしまった。
それも、結構本降り・・・。


雨に加えて遡行も大変になってきた。
釣れないし、雨だし、気持ちがめげる。




滝が連続する。
雨も止まないし、時間もいい頃合いになってきたので、ここまでとした。
残念ながら、今回は釣れなかった。
テン場に戻って宴会だ!

テン場に戻る頃には、どうにか雨も止んでいた。
全員で薪を集めると、平澤さんが手際よく焚火を起こしてくれる。
焚火ができてホントに良かった。
これで夜も楽しく過ごせるのだ。

焚火を起こす平澤さん。
雨で濡れた木でも、あっという間に燃え上がった。


アマゴの塩焼きを作る。
イワナ、ヤマメ、アマゴの中では、アマゴが一番美味いと思う。
























焚火大好き少年の翔平。
彼は、釣りよりも焚火のほうが好きだと思う。

火がついてからは、焚火のそばから離れなかった。


もちろん大人も焚火が好きだ。
ゆらゆらと燃える炎が、ストレスを消してくれる。


昨夜は疲れもあって(全然歩いていないのだが)、かなり早めに眠ってしまった。
ちょっともったいなかったかな。

幸い、今朝は雨は降っていない。
さあ、朝飯を食べて車に戻ろう。

お約束の記念撮影。
いつものメンバーの中に、息子がいるのが特別だ。
左から、私、翔平、高橋さん、平澤さん、斉田さん。
かなりの湿気でレンズが曇ってしまう。


身軽な翔平。さすが若いだけある。
でも、危ないから飛ぶなと何度も言ってるのだが・・・。

どんどん渓を下っていく。
楽しかった時間も、あと少しでおわってしまう。


もうすぐ林道だ。
この辺りにも堰堤を作るつもりだろうか。
山梨の渓は堰堤だらけだなぁ。




























 帰り道、立派なブナが見送ってくれた。

林道に出て少し行くと、2人の釣り人に出会った。なんとここまで車で来たという。
地元の人はみんなゲートの鍵持ってるんだなぁ。まあ、当然か。
それじゃあ簡単には釣れないわけだと納得。
やはり最低でもあと3時間は歩かないとダメそうだ。

その釣り人としばらく立ち話。なんと数日前、林道にクマが出たという。
その林道を歩いて行くと、何人もの猟師がいた。みなさんそれなりに高齢で、ホントに大変だなと思う。
若い人は猟師になんてならないから、何十年か先、クマが出たらどうするのだろうか。
そんなことを思いながら車へと戻る。

今回、釣果は全然だったけれど、息子と一緒に渓泊まりできたのが嬉しかった。
以前は自分のほうがずっと体力があったが、今ではもう逆転している。
彼はこれからどんどん体力がついていく。まさに上昇気流に乗ってる鳥のようなもの。
対して我々オジサンは、どんどん下降して地上が近づいてくる。
やはり若さはうらやましいなぁ。
若くて体力があるうちに、どんどんいろいろなことにチャレンジしていってもらいたいと、親父は思うのであった。
そして自分が渓を歩けるうちは、何度でも息子と釣りに行きたいものである。


 HOMEBACK