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  福島県 叶津川
  2015/07/03〜05



  Christophe Laurentさん、伊藤さん、大串さん
  高野



Text & Photo  : 高野

インターネットの普及は、世界の人々の暮らしを大きく変えた。
ネットに繋がりさえすれば、私たちはどこにいても多くの情報が簡単に手に入り、様々な物を買うことができるようにもなった。
そして近年では、Facebook等のSNSの利用が進み、これまで全く繋がりのなかった人たちと、知り合うことができるようになっている。
これはほんの少し前の時代では考えられなかったことだ。
実は、今回の釣行もそのFacebookによって実現したのである。

私は昨年、Facebookで大串圭一さんという釣り人と知り合った。
大串さんは私と同世代でもあり、源流での釣りが好きということで意気投合。さっそく源流への釣行が実現した。
とても気さくな方で、親しみのある笑顔が印象的だった。

実は現在、欧米でテンカラ釣りのブームが起こっている。
テンカラ釣りが欧米で普及したのは、瀬畑雄三さんら名の通った釣り人たちの普及活動のおかげであるのは論をまたないが、インターネット無しではここまで知られることはなかったかもしれない。
大串さんは若いころにイギリスに留学していて、英語に堪能。
そしてFacebookによって欧米の釣り人たちと繋がり、様々な情報を彼らにもたらすようになったのだ。
その中の一人でフランスに住むChristophe Laurentさん(以下、クリスさん)が、日本でテンカラ釣りがしたいと大串さんに連絡してきたのである。

それにしても日本語もわからないのに、たった一人で極東の地まではるばる来て釣りがしたいというのだから、よほどの釣り好きなのだろう。
クリスさんは大串さんとだけでなく、日本各地を周って瀬畑さんをはじめとしたテンカラ釣りの巨匠たちと会う予定をたてているらしい。
その旅の初っ端を飾るのが、大串さんや私との釣行なのである。

今回の舞台は福島県叶津川。瀬畑さんお勧めの川である。
本当なら瀬畑さんも同行の予定だったのだが、腰の具合が悪く残念ながら実現しなかった。
メンバーはクリスさんに大串さんと友人鶴見さん、山形の伊藤さん、そして私の5名である。
一人深夜の道を、待ち合わせ場所の只見町にある「叶津番所」目指して車を走らせる。
築350年にもなる立派な番所の引き戸をガラガラと開け中に入ると、瀬畑さん、大串さん、そして主役のクリスさんが語り合っていた。やがて、伊藤さんと鶴見さんもやってきて、テンカラ談義に花が咲く。
今日は朝までここで仮眠して、早朝に出発だ。

大串さん(左)とクリスさん。そして瀬畑さん。
SNSによって繋がったテンカラの絆。

待ち合わせ場所で朝一番に拾ってもらい、ゲートの先にある車止めまで送ってもらう。そこから立派なブナの森を歩きだした。
しばらく下ると叶津川の本流へ出た。叶津川は原生林の中を流れるおだやかな渓で、テンカラを振るにはうってつけの渓だ。

ここからテン場予定地まで左程ないので、降りたところからテンカラを振りながら行く。
まずは主役であるクリスさんに釣ってもらいたい。
大串さんが日本の渓流でのポイントや流し方をレクチャーする。
そのアドバイスを理解して、きっちり流れを読んでポイントに毛鉤を打ち込むクリスさん。

そんな彼の毛鉤にイワナが出るまで、さしたる時間はいらなかった。
ふわりと落ちた毛鉤に7寸ほどの美しいイワナが食いつき、物静かなクリスさんも破顔一笑。
まずは1尾釣れて、案内役の面々は肩の荷が下りた気がした。

さらに釣りながら1.5kmほど遡行を続けると、やがて左岸から沢が出合ってくる。
この渓も空がじゅうぶんに開けていて、テンカラ竿を思う存分振れる。

支流に入るとさらにアタリが増えた。
クリスさんがまた良型のイワナを掛ける。
目の前でイワナが釣れるの見た伊藤さんが、我慢できずに竿を出した。
そこからは皆が交代で竿を出しながらの遡行となった。
しばらく行くと瀬畑さんの説明通り右岸にテン場があり、重たいザックから解放される。
このテン場は流れより一段高くなっていて安心だし、目の前の河原でたき火もできる。
夜の宴会も楽しみだ。

車止めからは豊かな原生林の中を行く
渓に出たところから早速釣り上がる
大串さんがクリスさんにアドバイス

大きな落差のある渓ではないが、そこかしこに好ポイントがある
まずはクリスさんに釣ってもらいたい


テンカラを振るクリスさん
その振り込みは正確だった

クリスさん、早速イワナを釣った!


伊藤さんも毛鉤を振り込む

おだやかな流れに癒される



赤とんぼ

渓には美しい花がたくさん咲いていた
これはタニウツギ


可憐なヒメサユリ

さて、身軽になった我々は、各々が竿を手にして上流に向かう。
それにしてもみなさん、テンカラのベテランだけあって上手い。

初めて会った鶴見さんも、素晴らしい振込みを見せてくれる。
そんな姿に見惚れていると、バシャっとイワナが出る。
手慣れた動作で手元に引き寄せてくる。
クリスさんも次々とイワナを掛けてくれる。
だが、バーブレスの毛鉤なので、写真を撮ろうとする瞬間にバシャバシャと暴れて逃げてしまう・・・。
バーブレス毛鉤は魚には優しいが、カメラマンには厳しいのだ。

それでもたくさん釣れるので、シャッターチャンスには事欠かない。
やがて渓が大きく左にカープして東から西に流れの向きが変わったところで、一つ目の雪渓が渓を塞いでいた。
只見は名にし負う豪雪地帯。夏でも遅くまでスノーブリッジが残る。
雪渓の下を覗くが、くぐるのは無理そうだ。
越せるかどうか、大串さんが偵察で登ってみる。
「どう? 大丈夫そうですか?」
「うん、なんとか降りられそうです。」
よかった。ここで終わりじゃあまりに早すぎる。
5人は慎重に乗越っし、再び流れに立った。

身軽になってテンカラを振る
すぐまたクリスさんがイワナを掛けた!

鶴見さんも竿を出す
きれいなループを描いてラインが伸びていく

あっというまに鶴見さんにもヒット

























綺麗な天然イワナ

伊藤さんも真剣に釣る

緑に包まれた清冽な流れ
見上げるとモミジの新緑が輝いていた
雪渓が行く手をふさぐ
どうやって越えるか協議中


左岸の斜面をよじ登り、雪渓を越えた
下りは慎重に



























鶴見さんもきて、全員無事に越えられた

雪渓を越えて、さらにアタリが増えた気がする。
尺を超えるような大きいのは出ないが、8寸くらいのがよく釣れた。
クリスさん、伊藤さん、鶴見さんと先頭を交代するたびにイワナが毛鉤をくわえる。
どのイワナもとても美しい姿だ。冬は深い雪に埋もれてしまうような渓で、何世代も命をつないできたイワナたち。
よくこの厳しい環境で生きていけるものだと感心する。
しかし7月ともなれば、そんな厳しい渓にも少し遅れた夏がやってきて、イワナたちも盛んに毛鉤を追う。
木々の緑も萌木色から少しずつ濃くなって、流れの際にはタニウツギやヒメサユリといった、可憐な花が彩りを添えていた。
私は、この季節の渓流が一番好きだ。

そんなことを思いながら大きく蛇行する渓を釣りあがると、一つ目から1kmほどのところでまたまた雪渓が通せんぼする。
聞いた話によれば、三つ目の雪渓の先は釣りにならないらしい。
次の雪渓はどこにあるのか。

残念なことに三つ目は、そこからすぐに現れた。
渓が狭まり流れが絞られた先に雪渓があった。
その手前は少々深くなっていて、よさそうなポイントだ。
最後なのでここはクリスさんに釣ってもらおう。
彼が静かに忍び寄り毛鉤を振り込むと、一発で出た。
しっかりとアワセて今日を締めくくる。
体側にピンクとも橙とも見える美しい宝石を散りばめた、きれいなイワナだった。

さあ、クリスさんにも満足してもらえたし、戻って宴会しよう。
越えてきた雪渓をよじ登り、軽やかな足取りであっという間にテン場に着いた。

























雪渓を越えたところで、すかさず釣りあげた
クリスさんのテンカラの腕前はかなりのものだった

毛鉤をくわえた良型イワナ


























伊藤さんにもいいのが出た

つぎつぎイワナを釣るクリスさん
これもいい型だぞ

こんなにも美しいイワナがいる只見の渓
いつまでも守っていきたい


ゆっくりと釣り上がる
至福の時


雪渓手前の最後のポイントに竿を出す

みんなが注視する中、見事に掛けた!



























満足げな笑みを浮かべるクリスさん



雪渓からわき上がるモヤに包まれて、記念撮影
左から大串さん、クリスさん、伊藤さん、鶴見さん


クリスさんはキャンプの経験はあるが、私たちのようなスタイルでの渓泊りは初めての経験らしい。
日本の美しい渓の夜を、しっかりと心に刻んで一生の思い出にしてもらいたいと思った。
たき火を囲んで遠くフランスから来た友人と語り合う。言葉や文化は違っても、釣りに対する思いは共通だ。
この夜は私たちにとって、忘れられない夜となった。

夜が明けてのんびりと撤収して、渓を下った。
途中で遠くの流れを渡る大きな獣の姿が見えた。
茶色だったし、姿からしてイノシシだと思うが・・・。
かなり大きかったから、間近でなくてホッとした。
立派なブナの森があり、そこに獣たちが暮らし、流れにはイワナが泳ぐ。
ここ只見には、素晴らしい自然が残っていた。

退渓点で振り返り、楽しかった2日間を思い返す。
豪雪が育んだ緑と綺麗なイワナたち・・・。
素晴らしい源流での釣りは、クリスさんの心にずっと思い出として残ってくれると思う。

現在、只見から新潟県の魚沼に抜ける道路が建設中だ。それができれば叶津川上流にも簡単に入ることができるようになる。
その時が来てもずっとイワナたちが残ってくれるよう、節度ある釣りを心掛けたいものである。

清々しい天気の下で釣りができて、ほんとに良かった!

焚き火を囲んで夜が更けていく

まったりとしたテン場の朝

恒例のテン場記念写真
左から伊藤さん、クリスさん、鶴見さん、大串さん、私


楽しかった渓に後ろ髪をひかれながら歩く
またこのメンバーで訪れたい
今度は、フランスの渓に遠征もいいなぁ

渓から戻って今夜は只見の番所に泊る
瀬畑さんたちとの楽しい一夜が待っている

番所での楽しい宴会が始まった

翁の渓語りに耳を傾ける

囲炉裏のある家に住んでみたいなぁ


夜も更けて、楽しい時間はまだまだ続く




翌日はクリスさんにヤマメを釣ってもらおうと、瀬畑さんとテンカラ釣りに出かけた。
渓の翁、瀬畑さんの釣りを間近で見られるなんて、クリスさんも幸せ者だ。
私も下津川以来の瀬畑テンカラを拝見して、感激。
腰を痛めているとはいえ、振り込みにいっさい乱れもないところはさすがである。

ここでクリスさんはとてもきれいなヤマメを何尾も釣りあげることができて、満足げだった。
初めての日本の渓、源流と里川を経験して楽しい思い出ができたと思う。
またいつの日か会うことを約束して、クリスさんは次の目的地へと旅立っていった。

渓流釣りを始めて20年以上も経った。
そしてインターネットの普及とともにホームページを作り、すでに18年の年月が流れた。
ネットを始めたころは、まさかフランス人と釣りに行くことになるなんて、思いもしなかった。
何歳までこの遊びを続けられるかわからないが、20年後の未来はどんな世界になっているのだろうか・・・。
その時私は72歳。現在の翁よりもまだ年下である。渓流釣りをする体力があるといいなぁ・・・。

渓の翁、只見を釣る

無駄な力の一切ない見事な振込み



























渓流の宝石、ヤマメを釣って笑顔のクリスさん


次々とヤマメを掛ける



伊藤さんが和竿の試し釣り

クリスさんも振ってみる



釣り終えてみんなで蕎麦を食べた
美味かった〜

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