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  長野県 秘密沢
  2017/03/11



  斉田、福田





Text & Photo   : 福田

 2月下旬、今年は人生初の2月解禁を、信州で行う予定であった。その釣行プランも(僕的には)念入りに立てたつもりだったが、前日の夜に喉風邪を拗らせてしまうという大失態を犯してしまった。結局この時の釣行は高野さん、斉田さんの二人に投げてしまい僕は留守番となった。(どうやら二人共幾尾かは釣れたようで安心)今回はそんな僕に見かねて?斉田さんにお誘い頂き、解禁釣行を行う事ができた。

 未明の3時過ぎ、前日までに巻き終えた数個の毛鉤と釣り道具をザックに仕舞い、コーヒーを飲んでいるところで電話が鳴った。「今福ちゃん家の近くにいるんだけど」斉田さんの声だ。
 大先輩にもかかわらず、片道40分の道のりを態々家まで迎えに来てくれた!そんな斉田さんの車へ乗り込む。準備は万端。車は一路南へ、目指す目的地は南アルプスだ。

 ここ数年の僕達渓道楽(と言っても一部の変態メンバーだが・・・)は、一般的に源流行と呼ばれる釣りをこの時期に行っている。ヤマメ・イワナは藤の花が咲く頃を境に釣れ始めると言うが、2月3月の源流は藤の花はおろか、蕗の薹すら怪しい深い雪の中であり、そこへ辿り着く為の道のりも、勿論雪に覆われている事が多い。
 ハイシーズンでも片道数時間掛かるような源流は、雪に閉ざされる事で普段の倍近いアプローチを要することになり、そして苦労して辿り着いた渓も多くが雪と氷に閉ざされ、寒さで岩陰に身を潜めるイワナを狙えるポイントは非常に少ない。今回のポイントも、そんな場所だ。

ハリギリの芽も膨らんできている。
雪の中、木々たちは春を待つ。

雪の林道歩きは思った以上に辛かった。

 鹿、兎、熊と思われる足跡に沿って林道を歩く。遠くでは鹿の声が聞こえる。山は賑やかだ。
 雪に足跡を刻むのは気持ちがいいが、吹き溜まりなどでは膝近くまで踏み抜いてしまう。雪そのものは覚悟していたが、この量はちょっと予想外だった。今日は斉田さんも僕も、スノーシューやワカンの類を持って来ていないので、獣の踏み跡をなぞり歩く。こうする事で雪を踏み抜き体力を消耗する可能性が減る。
 途中雪崩が起きているポイントもあり、そんな場所は腰近くまでハマりながらトラバースする事もあった。

 数時間のアプローチを経て沢にたどり着く。林道の状況とは違って雪は非常に少なかった。南向きで明るい谷だ。雪が少ないのはその為かもしれない。

 入渓すぐに斉田さんの竿が大きくしなった。いつもの事だが、斉田さんの釣りは間違いなく釣果を上げる。今回の1尾目も8寸はある太ったイワナだった。ここまでやって来た甲斐があった。

ようやく渓にたどり着いた。

まだ凍りついている渓。
それでも日当たりが良いからか、雪は少な目だった。
早速、斉田さんが竿を出す。

いきなり8寸の良型。

 対する僕はいつものフライロッドではなくテンカラ竿を持って来たのだが、フライと違って長尺の和竿は上空の枝を気にしながら投げなければならない。キャスティングの調子が出ないままあっちこっちに引っ掛けるうち、持って来た数個のニンフが全て無くなってしまった。残ったエルクヘアカディスと伝承様式の毛鉤で水面付近を叩くが、魚は僕の毛鉤には一向に目を向けてくれない。毛鉤釣りとは常に魚が持つ好奇心に比重が置かれる。好奇心の無い魚は毛鉤など見向きもしないのだ。
 ついさっき氷で転んでしまったお尻をさすりながら、「フライロッドなら木に引っ掛けなかったのにナァ・・・」などと愚痴も出て来た。釣れず、転び、毛鉤も無い・・・悪循環に入ってしまった。

 「これなら、フライロッドの方が良かった」などと斉田さんに愚痴を溢していると、「福ちゃん、餌竿貸そうか?」と、見かねた斉田さんが竿を渡してくれた。しかも目の前でブドウ虫を付けてくれるというサービス付き(笑)

毛鉤には出てくれなかった・・・。

 そんな斉田さんは既に数匹のイワナを釣り満足したのか、餌竿を振る僕の目の前でビールを開けツマミを取り出してプチ宴会を始めてしまった。(笑)

 結局僕も釣れなかった為、2人でビールを飲みながらコンビニのおにぎりとパンで簡単な昼食を取る。

 その間に目の前の淵でブドウ虫付きの置き竿をしたが、残念ながらこの竿にイワナは出てくれなかった。斉田さんの話によるとこの場所は以前に尺2寸が出たポイントらしいのだが。

渓でのビールは格別だ。

 ビールと食事で僕の釣り欲も心持ち復活の兆しが出てきた。
 聞くと魚の反応は様々で、この時期にしては食い気のある魚も多く、流れのある場所でも釣れたそうだ。こんな話に勇気付けられ、再度斉田さんにブドウ虫を付けてもらい(笑)上流へ向かう。優しいなぁ!
 
 そうこうするうちに、僕の竿(ブドウ虫付き)にもアタリがあった。念入りに食い込ませた後、穂先が数ミリ沈み込み止まった瞬間に強くアワセを入れてみた。すると、ブルブルと魚の脈動を感じる事ができた。

 アタリも引きも弱かった為小さい魚かと思ったが、引き上げてみると中々のサイズだった。僕にとって本年初のイワナは、この日一番の9寸イワナであった。

今年の初岩魚は9寸!

 その後、餌竿を斉田さんに返してテンカラで釣り上がる。
斉田さんは更に数尾を釣り上げ、僕の毛鉤入れの片隅にあった最後のビーズヘッド付毛鉤にも何とか1匹が食いついてくれた。

 しかし、上流部は氷と雪に閉ざされてしまい竿を振る事ができなかった。
 毛鉤釣りとして解禁を果たしたかと聞かれれば、個人的に首を傾げてしまう状況であったが、晴天で風も無く穏やかな谷で、居着きのイワナを見る事が出来ただけで良しとしようと思う。

 渓は氷と雪に閉ざされていたが、そこを照らす光は間違いなく春の陽気であった。

また良型!
ビーズヘッドで何とか釣れた。

春の日差しに輝く渓。
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