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  中央アルプスの渓
  2017/05/20-21


  鷲見さん
  平澤、斉田、高野





Text & Photo   : 高野

東大宮の酒処かじかの作戦会議室で渓道楽を立ち上げて、早19年。
会員たちの足跡は北海道以外の東日本から北陸まで、広範囲に渡って付けられている。
しかし、未だに足を踏み入れていなかったエリアが、中央アルプスの源流部だ。
その中央アルプスの渓に、初めての一歩を記す時が来た。

ネットの縁から始まった渓道楽だが、19年の月日の流れは早く最近のトレンドはSNS。
そのSNSの盛り上がりはすごいものがあり、そのおかげで随分と友達も増えた。
その中の一人、岐阜に在住の鷲見(すみ)さんの案内で、中央アルプスの奥深くへと分け入ることとなった。
初めての渓はどんな表情を見せてくれるのだろうか。そして、岩魚たちは・・・。
期待と不安の3人を乗せた車は、深夜の中央フリーウェイを走り続けた。

インターを降りてから一般道を走ること1時間。やっと待ち合わせのコンビニに着いた。
駐車してる車を見ると、それらしいのが一台。
彼がそうだろうか。
停車すると一人の若者が近づいてきた。
「はじめまして、鷲見です」
優しそうな雰囲気で礼儀正しそうな方が、鷲見さんだった。
我々はてっきり「わしみ」さんだと思っていたのだが、「すみ」さんと読むと知ってビックリ。
生まれて初めて知る苗字だ。こちらには多いのだろうか。

あいさつもそこそこに、食料を買い出しして車止めへと急ぐ。
車止めでは恒例のプチ宴会。
鷲見さんからこの辺りの渓について話を聞いた。
彼はほとんど毎週のように入っているらしい。
だいたいは日帰りらしいが、一人で泊りでも行くそうだ。
釣りのスタイルはレベルラインテンカラ。我々の仲間ではレベルラインは珍しい。というか誰もいない。
どんな感じなのかじっくり見せてもらおう。

しかし、まずはテン場までの歩きをこなさなくては始まらない。
車止めからザックを担いで歩き出す。
見上げる初めての中央アルプスの山々には、まだまだ雪が残りその高さを目の当たりにできる。
近くの山は木々に埋もれて、山肌には朝もやがまとわりつき、とても美しい眺めだ。
鷲見さんが毎週通いたくなる気持ちが、よくわかる。

林道はやがて終点となり、沢通しの遡行が始まった。
その渓は白く輝く花崗岩の大岩が転がる流れを抱き、我々の来訪を歓迎してくれていた。
しばらく行くと険しいゴルジュの始まりだ。見事な滝が行く手を阻み、そこからは巻道へと追い上げられる。
この巻道がなかなかの高度感。森の中を行く感じだが、足下はかなりの高さで落ちたらお陀仏コース。
慎重に足元を確かめながらの行軍となり、神経をすり減らす。
恐怖心が芽生えなければなんてことはないのだが、一度「うぉ、ちょっと怖いな。ここから足を踏み外したら、下まで・・・」
なんて光景が頭に浮かんじゃうと、ダメなのだ。
若いころのつもりでいると、事故を起こす。筋力、瞬発力、バランス能力、すべてにおいて落ちているのを最近実感する。
歳は取りたくないものだ。

そんな緊張感のある高巻きから一度渓へと降りて渡渉して、再び巻道に入る。今回持ってきたのはピンソールミニ。
ちゃんとしたのを持ってくればよかったなぁ、なんて後悔もしだしたところで、やっと巻道が終わった。

今日も素晴らしい青空が広がった。

























頭上を見ると、ヌメリスギタケモドキが出ていた。

新緑の山にそよぐ朝もや。
すがすがしい朝だ。
大岩の点在する渓を進む。
ゴルジュ入口の滝。
大雨が降ったら凄そうだ。

美しい新緑を通して、陽光が降り注ぐ。
見ごたえのある滝が続く渓谷。
試しに竿を出してみるが、留守のようだ。
スローシャッターで捉えると、よりいっそう優雅に見える。
岩魚の影を探す鷲見さん。

高い峰からの雪解け水の冷たさは、肌を切るようだ。

さて、テン場まではまだ少しあるようだ。
そこで、ここから竿を出しながら行くことにした。
目の前には、それはもう素晴らしいポイントが続いている。ここを素通りはあまりにもったいなく思われた。

ザックから竿を出して仕掛けをつなぎ、花崗岩に磨かれた清冽な流れを前に竿を伸ばす。
瀬畑さんにもらった黄色いテーパーラインに同じく瀬畑さん手製の逆さ毛鉤を結ぶ。
流れは太く雪代が入っているのか、水位は高くなっている感じだ。
ポイントと思われるところに毛鉤を落とすも、残念ながら岩魚の反応は無かった。
しばらく竿を出しながら行ったが、太い流れを渡渉するのが大変で、歩きに専念。
目指す出合のテン場にようやく到着してザックを下ろすことができた。車止めから約5時間の歩きだった。

ここから竿を出していく。
渓相はいいのだが、魚信が無い・・・。
竿をしまって遡行に専念。
冷たい流れを何度も渡渉して進んだ。

やはり平水よりも水位が高いようで、けっこう押しが強い。

早速、テキパキとなれた手順でテン場を作り、待望の釣りへと出かけた。
斉田さん、平澤さんがブドウ虫の餌釣り。鷲見さんと私がテンカラだ。
支流を見送って水量が減ったとはいっても、相変わらず水は高い。
テンカラではちょっと苦戦しそうだった。
ただ頭上は開けていて、竿は振りやすい。
ポイント、ポイントに丁寧に毛鉤を落としていく。
今回も最初のヒットは斉田さん。相変わらずの安定度。
お腹の黄色いとても美しい居つき岩魚。型は8寸ほどでまずまず。
岩魚の身体の色は渓によって違う。こういう真っ白い渓に住む岩魚は、白っぽい体色をしている。

鷲見さんの仕掛けは前にも言ったがレベルラインだ。フロロカーボンの糸を使い長さは短めで3mほど。
そこにハリスを結んでいる。
レベルラインは振ったことがないが、テーパーに比べて軽いから飛ばすのが難しいのではないだろうか。
鷲見さんは的確にポイントに毛鉤を飛ばしていた。さすが毎週やってるだけあるなぁ。

テン場にも渓にも釣り人の痕跡は無かったのだが、岩魚の出が渋い。
斉田さんの後、しばらくは誰の竿も曲がらず。
30分以上たってようやく平澤さんにヒット。
サイズは同じく8寸くらい。でもちょっと痩せ気味だった。
やはり水量が多いのか、それとも水温が低いのか、流れの緩いところで食ってくる。

鷲見さんは遠慮して離れて釣っていたので、釣ったところを写真に撮っていなかった!
申し訳ない・・・。

そして、私の毛鉤にもやっと岩魚が出てくれた。
こいつも8寸くらいの良型だ。
テンカラで釣れると、嬉しさもひとしおだ!

流れは清く澄んでいて、その渓を包み込む木々は新緑の衣をまとっている。
そして空は雲一つない青空とくれば、こんなに素晴らしシチュエーションも、そうそう無いだろう。
もちろん中央アルプスの渓も素晴らしい。
メンバー全員が笑顔で竿を振っている。
素敵な渓へと案内していただいた、鷲見さんに感謝である。

釣り上がっていくとやがて渓幅が狭まり、ふたたびゴルジュが始まった。
今までは川通しで来られたのだが、小さく巻かないとならない場面も増えてきた。
なにせツルツルに磨かれた岩肌には、手がかり足がかりが皆無なのだ。
おまけに水は肌を切るような冷たさで、とても腰以上の深さに入ろうという気にはなれなかった。
そんなわけでゴルジュが険しくなってきたところで、そろそろ引き上げようということになった。
テン場のところで出合っている支流も気になっていたのだ。

急いで下って支流に立つ。
本流はもうちょっと水が引けば、たくさんポイントが現れそうな感じだったが、
支流は水量も少なくてポイントも多そうである。


























斉田さんの竿に良型が!


























美しい岩魚だ!


























平澤さんにも来た。
こいつも良型。


私の毛鉤にも出てくれた。






どんどん釣り上がろう。
好ポイントの連続に期待が高まる。
ここにもいるかな?
渓は徐々にゴルジュの様相。
だんだんと遡行するのが大変になってきた。

ここいらで引き返しますかね。
新緑と青空。
源流最高!

さて時間もあまりないので、軽く釣ってみることにする。
斉田さんはテン場下流を探ってみるようだ。

3人で釣り上がると、すぐに平澤さんにアタリが。
これもまずまずの型で、支流も良さそうだ。
そして今度は鷲見さんの竿が大きく曲がる。
こいつは今までより大きそう。
尺は無かったが、9寸オーバーで今回の一等賞。
鷲見さん、おめでとう!

時間となりテン場に戻ると、斉田さんも数尾釣ったとのこと。
今回は水嵩が高くて思った釣りができなかったが、それでもそれぞれが楽しめた渓だった。
なによりも水の清らかさ、白い花崗岩の美しさ、渓相の良さが気に入った。
初めての中央アルプス源流部だったが、まだまだ素晴らしい渓がたくさんありそうだ。

釣りタイムが終わって、これからは宴会タイム。
テン場には薪も豊富にあって、盛大に焚き火を楽しんだ。
鷲見さんがまだ岩魚の刺身を食べたことないというので、1尾を刺身にする。
うちの板長のようには上手くさばけないけど、楽しんでもらえただろうか。
その後は当然夜が更けるまで満喫した。
最後まで起きていたのは鷲見さんだったようだが、我々オジサンは10時すぎには夢の中へ。


明けて翌朝。今日も素晴らしい快晴だ。
鷲見さんがもう一度支流を釣ってくるというので、送り出す。
朝方なら雪代も入っていないから、きっと釣れるだろう。
小一時間後に戻った鷲見さん。案の定、数尾の岩魚を釣ることができたそうだ。
若いと体力にも余裕があっていいなぁ。
オジサンたちは東京までの帰りの道中を考えて、テン場でまったり過ごす。
でも、このまったりした朝の時間が、このうえなく幸せな時なのだ。

日がすっかり登ったころ、綺麗にテン場を片付けて帰路に着く。
行きは5時間もかかってしまったが、帰りは3時間半だった。
途中で昼飯まで食べてるのに思ったよりも早かった。
行きはそんなに大休止しなかったんだけど・・・。

新緑に包まれた中央アルプスの旅は、とても楽しかった。
きっとまた訪れることになるだろう。
鷲見さん、その時はまたご一緒しましょう。
ありがとうございました。

陽光に煌めく流れ。
支流にも岩魚がいた。


























鷲見さんの毛鉤に本日最大の岩魚が来た。

岩魚の刺身。
プリップリだ。


出来合いのだけど、味噌ニンニク。
生野菜が隠れてるけど、シーザーサラダ。
温まる豚汁。

そしてお約束の盛大な焚き火と、岩魚の焼きからし。
ふかふか寝床の快適テン場。。
左から斉田さん、平澤さん、私、鷲見さん。
名残惜しい・・・。

いいポイントがあったので、みんなに待ってもらい竿を出す。
釣れるには釣れたが6寸だった。


巻道の途中で休憩中。
素晴らしい沢旅をありがとう!
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