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  山形県 朝日連峰 八久和川
  2020/08/28〜30

  斉田、高野



Text & Photo  : 高野 

グキッ!
「痛って〜!」
車止めから歩き出して30分もしない地点。草ボウボウで足元も見えない林道の地面に大穴が開いていた。
運悪くそこに右脚を突っ込んでしまい、足首をひねってしまった。
「マジかよ。これからカクネ平までかなりの長丁場なのに。」
曲げ伸ばししてみたが痛い・・・
幸い骨折はしてない様子。
ここで中止かという思いが頭をよぎる。

今回の釣行は朝日連峰を流れる大渓流の八久和川。その中流にあるカクネ平に斉田さんと二人で行く計画だ。
カクネ平は自分にとっては夢の場所だった。何度か行こうと計画したが途中で諦めたり、仕事が休めなくて仲間の報告を指をくわえて見ていただけだったり。
もう年齢的にも長丁場の歩きが辛くなってきて、これが最後のチャンスかもと思っていた。
険しい八久和川にあってカクネ平は比較的穏やかな河原があり、何よりも遡上した40cmオーバーの大イワナが確実に釣れる場所なのだ。
そんな夢の流れをこの目で見て竿を出し、あわよくば40cmを越える潜水艦のようイワナを釣り上げたいと思っていた。
その夢が出発して30分で断たれるなんて、絶対に納得いかない。
常備してる痛め止めの薬を飲み、30分ほど斉田さんに待ってもらう。
薬のおかげでどうにか痛みも引いてきた。普通に歩けそうだ。
良かった〜。再びザックを背負った二人は若かったころに歩いた踏み跡をたどってカクネへと向かった。
以前に来たときは車止めがもっと奥だったので、八久和川本流を渡渉するフタマツ沢の渡渉点まで2時間半程度で行けた。しかし、道路が崩れて奥まで車で入れなくって、歩きが1時間のプラス。でも4時間もあればフタマツ沢まで行けるはずだった。
だが予想は大きく外れてしまう。理由は踏み跡の消失と藪化。
崖沿いのトラバースしているところが数か所あるのだが、以前来たときはスタスタ歩けたのだ。そのつもりでいたのが道が荒れていて危険度大幅アップ。足場は斜めになっていて足を滑らせそうな感じ。
年取ってバランス能力も落ちているしリカバリ能力も落ちている。滑落しそうで恐ろしい。
おまけに灌木が育って藪のようになって邪魔でしょうがない。
ノロノロとした歩みで進んでいるとカンカン照りの太陽が容赦なく降り注ぎ、熱中症気味にもなってくる。
フタマツまで4時間の予定が大きく狂って、手前のハキダシ沢の所で6時間以上掛かってしまう。
「もう無理! ギブアップ! これじゃ日が暮れるまでにカクネに着かないよ。」
「ここでこれじゃ、とてもカクネなんてムリだね。」
「仕方ない、あきらめてここでテン場ろう。」
またもやまさかの敗退だ。
ハキダシ沢を過ぎたあたりで幸いにも本流に楽に下れる斜面があった。そこを下るとおあつらえ向きのテン場適地を発見。ここでいいよねとタープを設営した。


本流の渡渉点のあるフタマツ沢までの踏み跡を辿る
踏み跡からはるか下を流れる八久和川が見えた
懐かしい記憶がよみがえってくる

原始の森が我々を歓迎してくれた
しかし、踏み跡は徐々に消えてきた・・・
以前来たときはわりとしっかりした足場が続いていたのだが、
長年の風雪に削られて足場が斜めに・・・
足を滑らせたら100m近く滑落だ

テン場の前には八久和川本流が流れていた。
川幅も広く水深もかなりある。浅そうに見えるが背が立たないくらいだろう。
残念ながら 大イワナの姿は見えない。
二人は竿に仕掛けを繋ぐと流れに投入した。
しかし、夕暮れ間近の八久和川は静かにとうとうと流れ下るだけで、イワナたちの歓迎は無しだった。

八久和川本流の雄大な流れ
テン場前の流れに竿を出してみた
膝上の流れでも押しが強い

静かに流れ下る八久和川

明けて翌日。
二人は本流を釣り上がることにして出発。
川幅は広く長い仕掛けに大きめのオモリを付けて探っていく。
どこにでもイワナが潜んでいそうだが、予想に反してアタリがない。

私は、流れが狭められて落ち込みとなっているところに仕掛けを投入する。
白泡の消えたあたりで目印がゆっくりとなったところで、グンっと引き込まれた。
慎重に竿を立ててるも、グイグイと力強い引きで奴はハリから逃れようとする。
しかし7m硬調竿に1号の仕掛けに敵うわけもなく、岸へと寄ってきた。
「あ〜、たいして大きくないよ。尺くらいじゃないかな」
「いや、デカイよ。尺なんてもんじゃないでしょ。」と斉田さん。
「そうかなあ。」とメジャーを当てると36cm! 尺2寸の大物だった。
「川のスケールがデカいから魚が小さく見えたよ(笑)」
潜水艦とはいかないが、普通の渓流ならば滅多に出ない大物だった。
だが、八久和川じゃこれがレギュラーサイズか。

その後も本流を釣り上がりフタマツの渡渉点まで来たが、アタリ無し。
だが40cmを越えるような大イワナが悠々と泳いでいるのを目撃。エサを流してみたが無視された。
ルアーだったらイケるのか?
まあ見える魚は釣れないのが普通だからね。

本流に竿を出しながら遡行する

私の竿に来た36cmのイワナ
本流イワナらしいスラっとした魚体だ
フタマツ沢出合に竿を出す

こんなにすごい流れなのに、釣れたのはさっきの36cmだけ
でも、確実に40cmを越える巨大な魚影を目撃!

フタマツ沢の渡渉点に到着
ここに来るのは18年ぶり
もっと早く来ておけば良かったと後悔しきり・・・

いかにも大物が居そうな流れ
フタマツ沢渡渉点より上流にも行ってみた

フタマツ沢の渡渉点を過ぎて、本流じゃ釣れないからと左岸大地に上がる。
有名な「フタマツここ下る」のブナの彫りこみを確認してからフタマツ沢へと向かった。
フタマツ沢を釣り上がるもすぐに直登できない滝にぶつかる。
斉田さんが滝壺に竿を出すと尺イワナが釣れた。
私には泣き尺イワナ。
もっと大物がいるかと粘ったのだが、それだけだった・・・

以前に来たときは滝を巻いて上流へと行ったのだが、なんかもう面倒になってテン場へと戻ることにした。
ハキダシ沢までは森の台地を行くのだが、踏み跡がすっかり消えている。
20年近く前は誰の目にもわかるくらいハッキリを道が続いていたのだが、マイタケ採りも釣り人もほとんど入らなくなったのだろうか。
これではカクネ平までとても行けない。
我々には遥かな幻の釣り場となってしまったようだ。

さて、テン場へと戻ってまた本流に竿を出したのだが、全然アタリ無し。
イワナたちはどこへ行ったのだろう。
産卵に備えて上流へと遡ってしまったのだろうか。
カクネに行けたら40オーバーがウジャウジャに違いないのだろうなぁ。
焚き火をしながらそんなことを語り合った。
明日のいやらしい帰り道のことがつねに頭の隅あったが、できるだけ考えないようにして眠りについた。
カクネ平・・・、もう行くことはできないのだと思うと心残りで残念だった・・・。

フタマツ沢へと下降する

フタマツの泣き尺イワナ
本流イワナと違って頭が大きい

立派な魚体
滝に竿を出す斉田さん
キタッ!


フタマツの尺イワナ
テン場に戻って再び本流にちょっかいを出す
しかし、撃沈・・・

おーい、イワナどこ行った
3日目、素晴しい青空
また地獄の暑さが待っているかと思うと、うんざりだ

テン場にて
さらば八久和川


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