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ピンソール(渓流シューズ滑り止め) インプレッション

 山釣りをする者にとって渓までのアプローチは楽しくもあり、また辛くもある。アプローチは快適な登山道であったり、山菜採りの人が付けた杣道(踏み跡)であったり、また、道なき道を行く山越えルートだったりと実にさまざまである。そういったアプローチにおいてはフェルト底のシューズよりもトレッキングシューズや登山靴のような、ソールにゴツゴツしたパターンのある靴のほうが絶対に楽だ。しかし、一度渓に入り遡行を開始すればそういったゴム底の靴では濡れた岩の上ではグリップが効かず、安全に遡行することなどできないのが現実である。2足の靴を履き分けるのが理想なのだが、履いていない靴は背負うしかなく、限られた体力に負担が掛かる。そんなこともあり、今まではアプローチにもフェルト底の渓流シューズを使い、フェルトが無駄に磨り減るのも我慢し、ズルズル滑る泥付きの壁も根性で登ったり降りたりしてきた。
 もちろん渓流シューズに付けて使う滑り止めもあるにはあった。チェーンでできた滑り止めがそれだ。しかし、これには弱点があり、踏ん張ったりして大きな力が掛かると外れやすいのだ。会員の中村などは何度も外れて無くしたと言う。それでは道具としては不合格であり、安心して使うことも出来ない。
 そんな話を聞いていたので、今までそういった類の滑り止めは使ったことが無かった。しかし、このたび川上顧問から教えてもらった滑り止め「ピンソール」は外れやすいという欠点を克服した優れもので、これならば使ってみようという気になったのである。
 ズレない、外れない秘密はスパイクの付いたプレートの靴底に当たる側にある。靴底に当たる面にもピンが出ていて、それがフェルトに食い込むことによってズレを防止しているのだ。これは実によく考えてある。

                         爪先6本 踵4本のスパイクが確実なグリップを生む

 前置きが長くなったが、実際に「ピンソール」を使ってみたインプレッションをお伝えする。山釣りを楽しむ皆さんの安全に少しでもお役に立てれば幸いである。

 購入したのは池袋の秀山荘で、価格は8400円(税込み)。「ピンソール」にはサイズがMとLがあって、私の足のサイズは25cmなのでMを購入。Mサイズで26cmまで対応できるらしい。
 家に帰って早速渓流シューズに取り付けてみた。靴のサイズは5mm刻みなので、さまざまなサイズに合うように調整できるようになっている。
 1. まず、説明書どおりに靴に合わせてみて前のプレートと後ろのプレートを繋ぐチェーンの長さを調整する。これは後ろ    のプレートについているプラスネジをドライバーで緩めてチェーンのコマを掛けなおし、再びネジを締めてネジが緩ま    ないよう瞬間接着剤で固定する。
 2. 次に靴にかぶせてみて爪先を包むようになっているチェーンの長さを調整する。これにはラジオペンチ等を使う。黒    いプラスチックのプレートにチェーンを固定しているフックを広げコマを掛けなおし、再びラジオペンチで潰しておく。
 3. 踵のチェーンの長さもラジオペンチを使って調整するが、私の場合は調整の必要はなかった。

 とまあ調整に工具が必要であるが、そんなに難しいものではない。ここでしっかり調整しておかないと、現場で外れて苦労することになる。






 さて、調整が終わったらあとは実戦投入である。テストしたのは新潟県朝日連峰を流れる三面川支流岩井又沢へのアプローチで、1時間ほどの登山道歩きの後、10〜15mほどの落ち葉の積もった泥と岩の斜面を下降し、三面本流に出る。その後、岩井又沢に入り遡行しながら、何度かズルズルの草付きの泥斜面の巻きを繰り返すというルートである。そこを往復で使用した。

 結論を先に言ってしまうと、全くズレたり外れたりすることも無く、快適にテン場まで行くことができた。この素晴らしい性能に感動した。
 同行のメンバーでは川上顧問が同じ「ピンソール」を使い、一人はソールを特殊マジックテープで張り替えることができる渓流シューズ(アプローチではゴム底を使用)、もう一人はフェルト底の普通の渓流シューズを使った。当日は雨がかなり降った後で、山はだいぶ水を吸っていた。まさに最も滑りやすい条件である。

 ゴム底とフェルト底を張り替えられるシューズは私も店で手にとってみたことがあるが、靴自体が結構重かった。また、ゴム底と言ってもビブラムソールのようなゴツゴツしたパターンではないので、ぬかるんだ泥の上や落ち葉の上では実質的に平らな底に近いものがあると思う。
 実際、「ピンソール」を使っていない2人はかなり手こずっていた。「ピンソール」を使っている2人は踏み出した一歩が確実に一歩となるのに対し、使っていない2人は滑ってしまい、もう一度踏み出さないとならない場面が多かった。重たいザックを背負っているとなると、足元が滑るというのはかなり体力を消耗する。ましてやそれが高度のあるトラバースや高巻きの最中であれば命取りともなりかねない。
 「ピンソール」を使っていた私は、滑ったという記憶が全く無い。前のプレートに6本、踵のプレートに4本付いたスパイクがしっかりと泥に食い込み、滑ることは無かったのである。
 また驚いたのは、意外と傾斜した岩の上でも滑らなかったということだ。岩の上では面でグリップするフェルトのほうが、点のスパイクよりも優れているのは当たり前なのだが、「ピンソール」は思った以上にグリップしてくれたのである。
 そんな感じでいつもよりも体力的には随分余裕があった気がする。もちろんこれはその時の体調等によっても違うので一概には言えないのであるが・・・。しかし、滑らないという安心感は何物にも代えがたいものである。

                          足首のナイロンベルトと爪先のゴムで固定される

                           どんな方向から力が掛かっても外れない

帰りの下降 たっぷりと水を吸ったこんな斜面でも一度も滑らなかった

 さて今まで良いことばかり書いてきたが、気になった点もいくつかある。
 一つはプレートがあるためにソールが硬くなってしまい、長時間歩いていると足の裏(拇指球のところ)が少し痛くなった点である。ただこれは往路と復路では逆の足がなったので、片流れの斜面をずっと歩いていて、同じ足に多く負荷が掛かったためであると思われる。
 もう一つは踵のプレートのチェーンと足首を止めるナイロンバンドを繋いでいる金具(硬い針金でできている)が若干変形していたことである。しかし、変形したといっても外れたり壊れたりしてしまうほどでは無かったので、問題ないとも言える。
 もう一つは値段である。8000円はちょっと高いかなとも思える。しかし、これで安全が買えるなら安いものだという考え方もあるので、これは人それぞれだろう。但しインターネット通販で直接買えば、送料、振込み手数料込みでも店で買うより少し安いようである。
※2005.06.22 訂正

 いままで何種類かの滑り止めが出ているが、「ピンソール」は現時点において最も優れたものと言えるだろう。これを使うのと使わないのでは雲泥の差が出る。靴への装着も簡単で手軽であり、遡行途中の高巻きのときにも使える。また左右での重さも軽く、コンパクトに収納できるので、持ち歩きも苦にならない。こんな素晴らしい道具を開発し、販売してくれた竹濱さんに感謝したい。


                     専用の収納袋も付いていてコンパクトで邪魔にならない


製造・販売
株式会社 昇栄
http://www.syoei-pro.co.jp/

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