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 富山県 黒部川支流 赤木沢 後編
  2007/09/15〜17


  酒田さん
  荻野さん
  森、高野(渓道楽)




Text & Photo 高野

  
薬師沢小屋前に掛かる吊橋
渡ると雲ノ平方面への登山道だ

標高が高いので寒いかと思った夜だが、小屋の中は暑いくらいだった。何度か目が覚めたが朝までゆっくり眠れたので、爽快な気分。
朝飯を済ませて手早く準備を整える。今日はいよいよ赤木沢の遡行だ。果たして稜線まで詰めあがって太郎平小屋まで行けるだろうか。
人気のルートとあって、沢屋さんも大勢いる。10名くらいのグループが1組と他に2〜3名のグループが3組くらいか。10名組に続いて私たちも黒部本流へと降り立った。

実は今日の核心部は赤木沢でなく、黒部本流だったりする。水量は少なめなので苦労はなさそうだが、それでも何度か渡渉しないと進めない。これであと10cm水位が高かったら結構大変だろう。

さて、ここで初めて竿を出した。実は今回初めてテンカラに挑戦。酒田さんの自作の仕掛けをいただき、竿を振ってみる。しかし、ラインはフニャフニャと力なく上手く飛ばない。酒田さんにアドバイスをもらい、どうにか飛ぶようにはなったが、ポイントに入れるのは難しく、イワナには無視された。
森さんはエサ釣りで攻める。何人もの人が歩いた後でも、さすが黒部本流。綺麗なイワナが掛かった。
初めて見る黒部イワナは白いイワナだった。












森さんに黒部の恵み
美しいエメラルドグリーンの淵
イワナが優雅に泳いでいるのが見えた
黒部本流に掛かる通称”ミニナイアガラの滝”
これが赤木沢出合の目印だ

竿を振りながら行くと、やがて写真で見たナイアガラの滝が見えてきた。いよいよ赤木沢の出合に到着だ。この先どんな楽園が待っているのかワクワクする。
まずは出合の淵を左岸からヘツって赤木沢に入渓! 残念なことに赤木沢に入ったとたんに曇りがちな天気となってしまう。
私が思うに、赤木沢の楽園たるところは開けた空にあると思う。井戸の底の様な陰気な渓ではなく、開放感溢れる渓、それこそが赤木沢。となると青空とセットでなくてはならない! もうこれは絶対条件なのだ。写真を撮ったときに流れ落ちる澄み切った水と山の緑、そして抜けるような青空にポッカリと浮かぶ白い雲。これこそが天上の楽園。だが、今回はその青空が無い。楽園度は60%くらいだろうか。
今回は釣りよりも写真を撮るのが楽しみだった私は、かなりガッカリきてしまった。

でも、渓の遡行はとても楽しい。滝が連続して現れるのだが、そのほとんどが直登可能で、巻くにしても渓自体が開けているので横の草付きをちょっと登ればいいだけである。これほど爽快な渓はあまり行ったことがない。とても気持ちよく遡行できる渓なのである。
この爽快さは私の拙い文章では表現できない。おまけに写真も拙いので、これも表現できない。ぜひともご自身の目で肌で脚で体験してもらいたい。

さて赤木沢遡行だが、まずは3段15m+15m二条を越えると左からウマ沢が出合ってくる。次の6m+15m+15mは最初右岸の草付きを小さく巻いて、2段目上を左岸へと渡渉した。
その先も次から次へと小さな滝が現れるのを片っ端から越えてゆく。

赤木沢へは左岸をヘツって入渓 夢にまで見た赤木沢の沢旅が始まる
まずは3段15m
挨拶代わりに森さんが竿を出す
滝上に立つ荻野さん
続いて10m+15m2条
フリクションも良く楽々登れるので、ほんとに楽しい
奥に6m+15m+15mの連瀑が見えてきた
赤木沢の岩は赤かった
渋滞中!
イワナ キター!
2段5m2条に竿を出す森さん

遡行自体も楽しいが、私たちの目的は釣りである。もちろん竿を出しながらの遡行だが、私のテンカラは沈黙。森さんのエサにはイワナが出た。荻野さんにも綺麗なイワナ。10人も歩いた直後に釣れるのだから、やっぱり黒部である。でも、テンカラ初心者の私には釣れなかった・・・。エサ竿を借りて赤木沢のイワナを1尾でもと、思わないでもなかったが、今回はテンカラ1本でと心に誓ったからには、という意地もあった。

いくつかの支流が出合ってくる渓を遡行していくと、徐々に稜線が近づいてきた。ただ天気は下り坂、というか猫の目のようにめまぐるしく変わる。雲の流れも速い。

気持ちよく滝を越えてゆく我々の目前に巨大な岩塊が立ちふさがった。ここが赤木沢一の滝、赤木大滝だ。2段からなる大滝で、下段が30mの直瀑、上段が5m。垂直の岩からなる大滝は手掛かりもなく直登は不可能。
この滝の下で三脚を出して写真を撮りまくり、小休止の後巻きに入る。

事前に集めた情報だと、前衛滝5m下のルンゼを登ると書いてあるところもあったのだが、こりゃやめたほうがいいだろう。結構渋そうな感じ。ルンゼなんか登るよりもちょっと上流の岩場を登っていったほうが正解だろう。実際に巻き道もついていた。ここは斜度は急だが木の根のホールドもしっかりしているのが沢山あり、そこを抜けてからも足場があるので大丈夫。いつもやってる草付き、泥壁の巻きに比べれば楽勝だ。
森さんが大滝下段の上まで行ってハイポーズ。

沢屋さんたちを抜いて先頭に出たとたんに竿が曲がる
イワナが泳いでいるのを見ながらの釣り
滝は様々な表情を見せてくれる
いくつ滝を越えただろうか
グングン高度を上げていく
























 ついにクライマックス
 赤木大滝が現れた


























30mの下段滝は迫力ある高さ 

大滝を越えると赤木沢の美味しいところは終わりである。ここからは沢を詰めて稜線の登山道へと抜けるルートをひたすら登る。
我々の予定だと赤木岳と北ノ俣岳の間に出るつもりなのだが、あいにく稜線は雲の中。山が見えないとイマイチ不安だが、それでも上り詰めればかならず登山道にぶつかるので、そんなに気にすることもない。

左岸から滝で出合う支流に入って赤木岳方面へと進路を取る。腹が減ったので支流で休憩を入れ、薬師沢小屋で作ってもらった弁当を食べた。笹に包まれたおこわはとても美味しかった。量が少なかったので残り物のいなり寿司も平らげて出発。

連瀑帯をどんどん登ると、だんだんと稜線が近づいてくる。それにともない水はどんどん少なくなっていった。
私にとって稜線まで詰め上がるのは初めての体験。それが黒部の渓であることに幸せを感じる。なんといっても標高2000mを越える山稜。森林限界を超えた稜線直下の草原は素晴らしいの一言に尽きる。
やがて最後の一滴を迎え、水が消えた。そこで水筒に水を補給する。ここからは水とは無縁の世界。
木苺が鈴なりに生るところを過ぎると、草原へと飛び出した。
振り返ると3000m級の山々が連なり、我々を見送ってくれる。見下ろせば遡ってきた赤木沢が小さく見えた。
そして左手には丘のような赤木平がなだらかに優しい姿を見せている。

赤木沢に後ろ髪を引かれながら、一歩一歩踏みしめ登る草原。ところどころにハイマツが生えてアクセントになっている。風がビュービューと音を立てて吹きぬけていく。雨も落ち始めているので雨具を着てピンソールを装着。最後の坂を登りきると登山道へと飛び出した。晴れていれば素晴らしい眺めなのだろうが、あいにく今日は雲の中であった。

大滝を越え2本目の支流に入り稜線を目指す
支流に入ったら、ひたすら登る
徐々に水が少なくなってきた
振り返ると丘のような赤木平が我々を見送ってくれた



















 稜線までもう一息!

さて、ここからは長い登山道歩きだ。まずは眼前に聳えるピークへと向かおう。
ところが、ここでちょっとした誤算。我々は赤木岳と北ノ俣岳の間に出たつもりだったのだが、ルートが左に寄りすぎていたようで、北ノ俣のピークと思ってたのが実は赤木岳(2622m)だった。これにはガッカリ。まだまだ読図が甘いようだ。
気を取り直して今度こそ北ノ俣岳(2661m)へと向かう。
と、ここで思わぬハプニングに遭遇。
「雷鳥だ!」

深い霧に覆われた登山道の両脇に、ハイマツが生い茂る場所があるのだが、そのハイマツ帯から雷鳥が現れたのだ。もちろん生の雷鳥を見るのは生まれて初めてである。
夏の羽毛に覆われたその体は、見事に石と溶け合って遠めでは見分けがつかないほど。
よく見ると10羽ほどの雷鳥が居た。霧に覆われた状況だからこそ見ることができたのかもしれない。そうでなければ彼らはハイマツに隠れて出てこなかったかも。
さすがに近寄ろうとすると逃げるが、望遠側にズーミングしてシャッターを切りまくる。もしかしたらもう見ることができないかもしれない姿を心ゆくまで写真に収めることができた。

ひとしきり撮影を楽しんだ後、道はすぐに登りとなり今回釣行の最高所、北ノ俣岳に到着!
みんなで喜び合った。

さあ、あとは太郎平小屋に向けて下るだけである。ここからはまだしばらく時間がかかるだろう。
ときおりガスが晴れて登山道の先まで見通すことができ、遠くの峰も顔を出してくれた。
そして黒部はさらにもう一つのプレゼントを用意してくれた。
今度は山に掛かる虹だ。美しい虹を写真に収めながら、今回の素晴らしい山旅をしっかりと心に刻み込み、太郎平小屋に向け快調に歩みを進めた。

そして、16:30 念願だった赤木沢の遡行を無事終えて、満足感を胸に太郎平小屋のドアを開けた。



















 赤木岳山頂にて
生まれて初めて見る雷鳥
全部で12羽くらいいた
北ノ俣岳山頂
美しい虹が出た
赤木沢遡行をやりとげた私たちへのご褒美だろうか
太郎平小屋まで、もうひと踏ん張り

コースタイム 薬師沢小屋(6:30)−赤木沢出合(8:20)−大滝(10:30)−稜線(13:30)−太郎平小屋(16:30)


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